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第45話:千年の魔女の影と潜む悪意

翌朝、ガザの街外れにある森の入り口近く。  

アレイン一行と『鉄のアイアン・ボンド』の三人は、連携の確認と実戦訓練のために集まっていた。


「はっ!」鋭い掛け声と共に、ロルフの長剣とガザルの槍が同時にアレインを襲う。  

アレインは漆黒の愛馬・ヴェルナの馬上から、長槍でロルフの剣を真正面から受け止めた。


「ブルーナ、威圧だ!」


アレインの合図で、頭の上にいたブルーナが「ギャウッ!」と短く鳴いて飛び降りる。

着地と同時にガザルへ向けて放たれたのは、伝説の古龍の片鱗を感じさせる凄まじい咆哮だった。


「チビのくせになんちゅうプレッシャーだ……っ!」  


ガザルが本能的な恐怖で動きを止めた。

だが、その隙を逃さずロルフが剣を閃かせ、アレインの槍の穂先を鮮やかに切り落とした。


武器が使い物にならなくなった瞬間、アレインは迷わず剣を抜き、ヴェルナから飛び降りる。


「ヴェルナ、のしかかりだ!」  


嘶きと共にヴェルナが巨大な体躯で立ち上がり、ロルフを牽制。

ロルフをヴェルナに任せたアレインは、いまだ威圧で怯んでいるガザルの懐へ。

その槍を剣で力強く弾き飛ばすと、切っ先をガザルの頭の上でぴたりと止めた。


「勝ちでいいよな?」


「ああ……」 ガザルは降参の意を示しながらも、アレインの後ろに視線を送りながらニヤリとした。


(もう一人の俺、後ろだ) (あいよ相棒!)


脳内の相棒からの警告と同時に反転。

ヴェルナの牽制を掻い潜って迫るロルフの剣を、『絆の共鳴シンクロ・ブースト』による力と身体強化を重ねた一撃で迎え撃つ。

力任せに叩きつけられたアレインの重い一撃が、ロルフの剣を空高く弾き飛ばした。


「まいった……。さすがA級、人馬一体とはアレイン君のことを言うのかもしれんな」  


ロルフの言葉に、ヴェルナは当たり前でしょと言わんばかりに鼻を鳴らす。


「このチビもいるけどな」  


ガザルが頭の上で「どうじゃ」とドヤ顔をして胸を張るブルーナを親指で指さした。


「チビのくせにすげー迫力だったぜ」


アレインは(そりゃ伝説の古龍の咆哮を喰らえば、ほとんどの人間は怯むわな)と苦笑いを返しつつ、剣を収めた。


「魔物使いと聞いたが、剣は我流かい?」


「ああ。教えてくれる人もいなかったからな……みっともねえだろ?」


「いやいや、型が無い分、動きが読めない。俺はいいと思うよ。」


「魔物使いにこれだけコテンパンにやられたら笑うしかねえよ」  


ロルフとガザルは晴れやかに笑う。


「魔物使いがこれだけ戦えれば、カイト君と二人でやっていけるのも納得できたよ」


ロルフの称賛に、アレインは苦笑いしながら肩をすくめた。


「道場通いしてたあんたらと違って、俺は力任せに剣を振り回してるだけさ。基本を教えてくれよ、先生」


A級冒険者がB級・C級の自分たちに教えを請う。

その謙虚な姿勢に、ロルフとガザルは毒気を抜かれたようだった。


「いいぜ、見てて惜しいって思う所もあったしな」


「俺もだ。細かいことだが色々言いたいことがある」


アレインは「ロルフは先生だとうるさそうだな」と思いながらも、「頼むぜ先生」と笑い合った。


少し離れた場所では、カイトがアレインたちの訓練風景を眺めながら、前世の有名ゲームを思い出していた。


「……アレインはどこのカプモンマスターかな?」


「カプ……モン? って何?」


エルザが不思議そうに聞き返すが、カイトは「なんでもないですよ」と誤魔化した。

カイトはエルザから魔法の基礎を教わっている最中だった。


「全属性に適性があるなんて、カイト君は魔法の申し子ね」


感心するエルザに、カイトは情けなそうに溜息をついた。


「適性があるだけで、まだまだですよ。先生にはいつも怒られてばかりで……。魔力を練ったまま、繊細な作業ができるようになるまで修行しろって言われてますよ」


「へえ、ちなみにどのくらいまで?」


「……卵を割れるまでです……」


エルザは額に汗を垂らしながら答えた。


「随分と基礎に厳しい先生なのね。普通、そこまで徹底する人はいないわ。ちなみに、誰に教わっているの?」


「同じ冒険者の友人で、ベアトリスって人です」


その名が出た瞬間、エルザの動きが完全に凍りついた。


「……ベアトリス? まさか、あのベアトリス様……!?」


「え、あ、はい。知ってるんですか?」


「 有名も何も! 魔法学校に突如現れた空前絶後の天才! 『千年の魔女』とまで呼ばれるあの方じゃない!」


豹変したエルザ。その騒がしさに気付いたロルフたちとアレインが近づいてくる。


「大きな声を出してどうしたんだ」


エルザは物凄い勢いでまくし立て始めた。


「ロルフ聞いてよ! カイト君ってベアトリス様から直接師事を受けてるのよ!」


「あー、エルザが大金出して買った本の作者か」


「そう!! あの方の論文、『相反属性魔法の均衡と複合魔法の可能性』は魔法学の歴史を変えたのよ! 最新刊の『複合魔法序説』は私の宝物! 毎日抱いて寝てるんだから!」


「お、おう……エルザ、落ち着け」


ロルフが呆れたように言ったが、エルザの「魔法オタク」は止まらない。


「あの方を妬んで『魔族の血が混じっている』なんて揶揄する不届き者もいるけど、絶対嘘よね!?」


アレインとカイトは、ベアトリスの「本当の姿」を思い出し、揃って遠い目をした。


「……うん。まあ、人間だよ(変化する前はな……)」


「いいな……! 教えてもらってるなんて、羨ましすぎて死にそう!」

 

賑やかに笑う一行。だが、その様子を高い木の上からじっと監視する「一羽のカラス」がいた。  

その視線は、遠く離れた『白銀の翼』の宿舎へと繋がっている。


――ガザの街、高級宿。  


フェリスたちハーレムメンバーは、魔法の鏡に映る訓練の様子を見て、忌々しげに顔を歪めていた。


「あの落ちこぼれたち、よそ者の冒険者なんて連れ込んで何をしているのかしら」


「バッシュが気にして、あんなゴミ溜めに『戻る』なんて言い出したら面倒だな」  


カトリーヌが冷たく言い放つと、他の女たちも嫌らしい笑みを浮かべた。


「さっさと消えてもらいましょう。バッシュの英雄譚に、過去の汚れは必要ないもの」


「もちろん、バッシュ様には内緒でね。……あのよそ者もろとも、再起不能にしてやりましょう」


彼女たちの瞳には、どす黒い欲望が渦巻いていた。

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