【超短編小説】生モアイ
モアイ像の頭部を模したティッシュケースから引き抜いた鼻紙は2枚くっついていた。
いくら箱が薄型になったところでティッシュはこうしてくっついてくるし、コンドームだってどんなに薄くなっても生にはならない。
そう言うのを何て言うんだっけ?アキレスと亀だっけ?
女にティッシュを手渡してから自分の陰茎を拭いていると、女が布団の上で下腹部を拭いながら言った。
「大体さぁ、日本人は生に拘り過ぎるんだよ」
おれは陰毛に絡まったティッシュを取りながら続きを促す。
「肉でも魚でもそうだし、お菓子もそう。何ならビールとかワインだってそんなの言うじゃん」
「生ワインってなに?あんの?そんなの」
顔を上げて訊いたが、女はおれの質問を無視して続けた。
「コンタクトレンズだって生とか言い出す」
「生コンタクトかぁ」
それはCMで見たことがある。
確かに日本人の生に対する信仰は強く根深い。新鮮である事よりも、生命に近い事に執着していると言う感じだ。
島国だとか山岳だとかが関係しているのか分からないけれど、なんか全体的に土着臭の強い感じがする。
女がティッシュを丸めた。
おれもほぼ同じタイミングでティッシュを丸める。
「熟成とかさぁ、あんまり信じてないでしょ」
女の目がどろりとした光を放っている。
「いや食えば旨いとは思うんだよ」
「あと生で食う事の覚悟をできてない」
その光がちらりとコンドームを見た気がする。
「まぁ、それは、そうかも知れない」
おれは裏の意味を考えないようにして、女の言葉を額面通りに受け取った。
確かに肉にせよ魚にせよ、またはまたは水にせよ、生であると言う事は素敵な事だ。
但し簡単にトランスできるが、死ぬ危険性を伴っている。
「生なんて良いことないのに」
女は鼻で笑うと、丸めたティッシュゴミ箱に放り投げた。
ティッシュはゴミ箱のフチに当たって外側に落ちた。
その瞬間、最近のおれは何かを爆発させて無い気がした。
おれの世界には爆発が足りない。
爆発だ。人生は爆発なのだ。
そうだ、生爆発だ。
おれは女を爆発させた。
女も部屋も街も東京も爆発した。
海も山も神も命も爆発した。
しかし勢いあまって宇宙を巻き込んでしまった。
ところで宇宙は生なんだろうか?
しかし考えている途中で眠くなったので、そろそろ全て終わりになるだろう。
生ってなんだろうな。
おれは生のそれに触れたのはいつが最後だったか思い出せないまま、モアイ像の事を考えてそのまま死んだ。




