ep8 文化祭
今日から1週間瀬田川高校の文化祭準備期間の為授業はほとんどない
私はクラスはカフェをやることになった
なんといってもウチのクラスには王子がいる
しかもバスケ部のエース渉と後輩の人気もあるゆきのもいる
男子はギャルソン風に女子はメイド風
でも私は女子からの提案でギャルソン風に…
まぁ確かにフリフリのスカートなんて似合わないけど
「ちょっと…さくらっ嫌です!こんな格好」
「何で?ゆきの似合うからいいじゃない」
「私もさくらと同じのにして」
「今更遅いよ~それにゆきのにギャルソンっていうのも…」
衣装合わせ中ゆきのは怒り出した
「おっ似合うじゃん」
「ちょっと着替え中に入って来ないでよ」
「もう終わってるからいいじゃん」
渉がしきっていたカーテンを開けて入ってきた
「宮島の格好もなかなかだけど、さくらの格好も様になってるじゃん」
「確かに私にはこんなフリフリのミニスカなんて似合わないわよ」
「でも何か妙に色気あってボーイズラブに芽生えそう…」
渉は私の腕を掴んでマジマジと見始めた
「渉」
「ん?あっ…悠人」
「バカじゃありません…さくら大丈夫?」
「うん」
「渉、からかうのもいい加減にしろよ」
「冗談だよ……おっさすが王子似合うね」
「……そんなことないよ」
衣装係の子達が話し出す
「さくらのちょっと丈長いねぇ~」
「男子も短い人いたら縫うから出してね~」
「王子のも少し短いねぇ」
「じゃあ着替え終わった人から買い出しとポスター張りと飾り付けの仕事してね」
じゃんけんで私と神崎君は6名の買い出しチーム、ゆきのと渉は15名の飾り付けチームになった
「さくら達はとりあえずコレ買ってきて」
文化祭委員に言われるまま私は神崎君達と買い出しに行くことになった
「てっとり早く終わらせる為に3組に分かれよう」
「そうだな、俺達は買って学校に持っていったらとりあえず今日終わりだもんな」
「じゃあこれとこれと……は守と田村で」
「はいよ」
「そしてこれとこれと……は北野と佐伯」
「はぁい」
「残りは俺と垣里で行ってくるよ」
『え?』
「じゃあ後でな」
テキパキと神崎君はチームを決めていく
それぞれ3組分かれて買い出しとなり、私は神崎君と一緒になった
どうして私を選んだのかな…
「まずどこ?」
「うんと……」
2人で出かけるなんてちょっとデートみたい
パーティグッズのところでカツラかぶったり、お面つけたり気に入られた店のおばちゃんに逃げ回ったり……
神崎君ってこんなにはしゃぐ人だったんだ
「これで買い物全部終わったよね」
「そうだな」
「じゃあ学校戻ろっか」
「……ちょっと休憩してかない?」
「え?」
「嫌?」
「…ううん」
「あっそこのイスでちょっと待ってて」
「うん」
神崎君は走ってどこか行ってしまった
私は買い物袋達とお留守番……?
『今日の神崎君、いつもと違ったなぁ…』
何か違う一面見れて嬉しくなり顔がにやけてしまう
でもその後にゆきのの顔が浮かんだ
『ゆきのはそんな神崎君も知ってるんだろうな』
そう思うとちょっと沈んでしまった
『でも協力しようって決めたんだし、気持ち切替えなきゃ』
「なに、百面相してるの?」
「えっ?」
『いたんだ……』
「はい、これ」
「クレープ?」
「うん、美味しいよ」
「ありがとう」
神崎君との距離が近くてドキドキする
クレープを食べてないと落ち着かない
「垣里のメイド姿見たかったなぁ」
「え?」
「似合うだろうね」
「似合わないよ~男っぽいほうが私似合うし」
「そう?この前の服めっちゃ似合ってたけど」
「あぁ…映画の時の?ゆきのの店って結構誰にでも似合うデザインだから」
「そうかなぁ」
「そうだよ」
『クレープ食べ終わってしまった…』
ふと時計を見た
「もうこんな時間だったんだ」
そう言いながら神崎君の顔を見た
真面目な顔で私を見ていた
「神崎君…?」
無言で近付いてきた
「あの…そろそろ…」
神崎君の手が私の頬を触ろうとしている
心臓が飛び出るってこんな感じなんだと思った
「ちょっと…黙ってて」
顔が赤くなる
目が離せなかった
神崎君が私の唇に触れた
「クリーム付いてたよ」
「え?」
神崎君の親指に白いクリームが付いていた
私は一気に恥ずかしさが増した
「あ…ありがとう」
目が合いお礼を言った瞬間、神崎君はその親指をわざとらしく舐めて私を見た
「このクリーム美味しいね」
私はすぐに顔をそらした
「同じ……でしょう」
神崎君はニコッとさわやかに笑って
「……そうだね」
やめて…そんなことされただけで私はドキドキしてしまうだから
「さてと……学校戻ろう」
「うん」
私は何も話せず学校に戻った
「さくら、遅いですわ」
「あっゆきの…ごめんね」
ゆきのはちらりと神崎君を見る
「早く帰りましょう」
「うん……あおいは?」
「まだ残るんですって」
「そう」
私はその日から神崎君を見る度にこの時の事を思い出して目をそらしていた
神崎君とあまり話すことないまま準備は着々と進み、文化祭当日となった
一般の人も沢山きていた
「いらっしゃいませぇ~ようこそカフェ22へ」
私達のクラスのカフェも神崎君のおかげで満員状態だった
少し人が減り始めた
「さくら先休憩入ってきていいわよ」
客寄せの為女子の中で私とゆきのはどちらか絶対店にいることになっていた
「お腹すいてたんだぁ~じゃあお先に」
「悠人~先に休憩入れよ、お前の客いなくなったし」
「あぁ、サンキュ」
男子もまた、渉と神崎君で休憩を回していた
裏の荷物置き場にいた私はその声に反応してしまった
『あっゆきのと代わってもらおうかな』
そう思って出ようとしたら神崎君が入ってきた
「あれ…垣里」
「お…お疲れ」
「これから休憩?」
「うん、でもゆきの先に入れようかなって思ってたとこ」
「…そう」
私は笑顔で裏から出てゆきのを探した
ちょうどゆきのは接客の途中で話せる状態ではなく、戸惑っていた
背後に神崎君を感じた
「宮島、接客中だね」
「そうだね」
「ねぇ…一緒に回らない?」
「えっと…」
私は目が見れずにいたとき
ぐぅ~~~~
私のお腹がなった
『最悪……』
「…ぷっ……あはは」
神崎君は笑っていた
「行こっ」
その時の笑顔は私が恋した笑顔だった
私は頷き、神崎君のあとに付いていった
「何食べたい?」
「あっ外の屋台とか行ってみない?」
「3年がやってるとこか…いいね」
まだ人が混み合ってる中を進んでいく
外に出て、屋台を見るとようやく落ち着いた
少し風が冷たいが、屋台の近くにいると熱さが伝わってくる
「焼きソバあるよ」
「うん」
「お昼過ぎたら並ばずに済んだね」
「良かった」
「クスクス…お腹すいてたもんね」
「やだ…聞かなかったことにしてよ」
「あはは」
焼きソバ・たこ焼・チョコバナナ・フランクフルト
お祭りの定番を食べつくす
「美味しかったぁ」
「うん、次どこか行きたいとこある?」
「あおいのとこ…行ってもいい?」
「弟君のとこ何やってるの?」
「お化け屋敷」
「あぁ…去年俺のとこもやったなぁ」
「そうなんだ」
「いいよ、行こう」
座っていた席を立ち、学校の中に入ろうとした時だった
「あれ…王子じゃない?」
「しかも隣にいるのさくら先輩だ!」
生徒の何人かが騒ぎ出した
「きゃぁぁぁぁぁ」
女子生徒の群が私達に押し寄せてきた
「やべ…垣里」
「へ?」
神崎君は私の手を掴み、急いで学校に入る
せっかく落ち着いたのにまたドキドキし始める
「垣里、大丈夫?」
走りながらも神崎君は私を気遣ってくれる
「てか…私たち何で逃げんの?」
「え?」
ふと言った質問に神崎君は立ち止まった
息を切らして見つめ合った
女子生徒の群が神崎君の目に入った
「あっ…」
また手がつながったまま走り出す
走りながら神崎君は言った
「てかさすがにあの軍団は怖くない?」
誰にでも優しいと思っていた神崎君は走りながら本音をもらす
私はふと後ろに目を向けると30人程はいそうな女の子が追いかけていた
「あははははは」
思わず笑ってしまう
「はぁ…はぁ…垣里?」
「怖いかも」
私達は笑いながら校内を走り回っていた
そこにちょうどあおいのクラスがあった
あおいは外で受付をしていた
「神崎君こっち」
「え?」
「あおい!」
「さくら!来てくれたんだって何でこいつと…」
「ごめん…話あと!先入れて」
私達はお化け屋敷に入った
2人は息を整えながら中を歩く
手は繋がられたままだった
暗がりで黙ったまま、私はようやくこの状況に気がついた
「あの…神崎君」
「何?」
「……手」
「あぁ……嫌?」
「嫌じゃ…ないけど」
「じゃあいいじゃん」
暗がりでよく見えなかったがいつものようにさわやかに笑っている気がした
「あれぇ~先輩たちどこ行ったんだろう」
「えぇ~逃げられた」
「でもさ…あの2人って」
「やっぱ…そうなのかなぁ」
「手つないでたし!」
「私も見た!」
「えぇ~ショック」
「でもお似合いかも…」
追いかけて女の子たちは個々に噂しだしたことに私達は気付いてなかった
お化け屋敷を出ると女の子たちはもういなかった
クラスに戻ると、ゆきのと渉にこってり怒られた
その分私達は明日休憩なしになってしまった
怒られてる時神崎君と目が合った
私達は思わず笑ってしまう
「ちょっと、さくら聞いてますの?」
「おい、悠人も聞いてんの?」
「「ごめん、ごめん…あはは」」
そして次の日は予定通り私と神崎君は始終カフェで働いていた
そのおかげか売り上げは上々
夕方になり後夜祭が始まった
後夜祭は花火をして焚き火の前で踊ったり話したりそれぞれ自由にする
ゆきのは疲れたのか先に帰った
あおいは初めての文化祭なのでクラスの皆とはしゃいでいた
その為、屋上で1人待っていた
花火で明るく照らされた校庭にはたくさんの生徒が騒いでいるのを見ていた
そこへ屋上のドアが開いたのに気付いた
「垣里」
「神崎君…お疲れ」
「お疲れ様」
「下行かないの?」
「……今日はさすがに疲れた」
「そうだよね…渉は?」
「下で女の子達と騒いでる」
「そっか」
「花火やる?」
「え?」
「下からもらってきた、線香花火しかないけど」
「あはは、1人でやるつもりだったの?」
「ううん、垣里とやろうと思ってもらってきた」
私は黙ってしまった
「昨日付き合ってもらったお礼」
「別に…神崎君のせいじゃないし」
花火に火をつける
チリチリと線香花火が綺麗に咲いた
この妙な空気の中私の心臓の音が聞こえるんじゃないかと思った
「宮島から聞いたんだけど」
「何を?」
「初恋が女の子って本当?」
「え!?……初恋っていうか」
「違うの?」
「わからない…ただその時その子に惹かれたのは事実だけど」
「…」
「一回会っただけでその後は会ってないし」
「ふ~ん」
「やめよ、そんな昔の話」
「じゃあ……今は?」
「え?」
ドーン パラパラパラ…
後夜祭が終了する合図の花火が夜空に咲いた
上を見上げると、意外と顔が近いことに気付いた
でも花火の光で照らされた彼の顔に目が奪われ離せなくなっていた
「さくらぁぁぁ帰ろう♪」
あおいがやってきて自分が恥ずかしくなり、そそくさとその場を離れた