ep2 疑い
あの日からゆきのはおかしい
学校から真っ直ぐウチにきた時から
「ゆきの、いらっしゃい」
「めちゃくちゃムカつきますわ」
「急に何?誰のこと?」
ー例え垣里1人にでも言ったらどうなるかわからないよ
「何でもないんですの
最悪な方に会ってしまっただけ」
「ゆきのがそんなに言うなんて珍しいね」
「……そうかしら」
その後、ランチして軽く勉強会
いつも教えるゆきのはめちゃめちゃ厳しいのにその日は優しかった
そして極め付けはこの質問
「ねぇさくら、神崎悠人以外に気になる男いませんの?」
「…何で?」
「いぇ、なんとなく」
「そうだよ、さくらぁ神崎悠人はやめなよ」
「あおいには関係ないでしょ」
真剣にでも少し切なげにゆきのは私を見た
だから真剣に私も答えた
「今はいないかな」
「さくらぁあんなやつやめろよ~」
「あおいは何でそんなに神崎君嫌いなの?」
「だってあいつ…何でもない」
それからゆきのは静かだった
もしかして…
それからゆきのはいつも通りだったけどやっぱり少し変だった
何か言いたげな顔がすごく気になる
「さくら…あの」
「なぁに?」
どこかに視線がいってすぐにそらす
「何でもないですわ」
その視線の先にはいつも神崎悠人の姿があった
私の胸はズキズキとしていた
『はぁ…さくらに話せない事があるとは思いませんでしたわ
どうやってあの2人離そうかしら』
「垣里待ち?」
ビクッとして横を見ると神崎悠人が座っていた
「そんなにビックリしなくてもいんじゃない?」
「…黒王子」
「ははっなにそれ」
「新しいあだ名ですわ」
「俺にぴったりだね…王子ではないけど」
「帰りませんの?」
「ん?渉待ち」
「そう……」
少し沈黙が走る
「なぜ捨てるんですか?」
「え?…あぁだってキモくない?知らないやつの手作りとか」
「じゃあ受け取らなきゃいい事ですわ」
「最初はさ、断ってたんだけど泣いて渡してきた子いて…それにはちょっと参ったっていうか」
「黒王子も涙には弱いのね」
「でもやっぱ…好きな娘以外からもらっても嬉しくないんだょね」
「え?好きな娘いたんですの?」
「義理だけどバレンタインでもらった時他の子のなんか目じゃないくらい嬉しくて」
そう話す神崎悠人はいつものさわやかな笑顔じゃなくて自然で普通の恋する少年の顔だった
ゆきのは少し安心した
「モテる男は辛いですね」
「モテなくていいんだ、1人を除いてはね」
「神崎悠人でも落とせない女がいるなんてビックリですわ」
「ホントだよ」
「自分で言います?」
2人が楽しそうに話しているのを私は見てしまった
また胸が痛くなった
「さくらっ終わった?帰ろうぜ」
「あおい…ねぇゆきのって好きな人いると思う?」
「どうしたんだよ」
あおいはさくらの視線の先に2人がいるのに気付いた
「神崎悠人とは頭いい同士気が合うんじゃね?」
あおいはこれかきっかけで悠人を諦めればいいと思った
「……そうかもね」
でもすごく切なそうなさくらを見て動揺してしまった
「あっさくら…」
「ごめん、まだ片付け残ってて…ゆきのと先帰っていいわよ」
「……わかった、ゆきのとお茶の準備してるよ」
「うん」
「気をつけて帰ってこいよ」
私はいつも通りの笑顔を見せたつもりだったけどあおいにはバレバレだったみたい
「神崎悠人の好きな人ってどんな娘?」
「は?別に関係ないだろ」
「赤くなることもあるんですね」
2人の間にあおいは割って入る
「ゆきの」
「あおい君、さくらは終わりました?」
「いや、まだ片付けあるから先帰ってていいって」
「そう…あおい君は?」
「お茶準備するから帰る」
「垣里弟もようやく姉離れしたか」
「お前に関係ないだろっさっさとその好きな人とくっついちまえ」
「そんなことしたら垣里弟が一番困るんじゃないの?」
悠人は立ち上がってあおいを見下ろし、からかうように笑った
「それ、どういう意味だよ」
「さぁ…じゃあね、宮島」
悠人はそのまま体育館のほうに歩いて行った
「なんだよ、あいつ」
『もしかしたら神崎悠人の好きな娘ってさくらかしら?』
「なぁゆきの、もしかしてさ」
『さくらなら義理で皆にチョコあげてるし…』
「おい、ゆきの、聞いてる?」
「えっごめんなさい、なんですの?」
「…ゆきのって神崎悠人が好きなの?」
「…………はぁ!?」
「はたから見たらカップルに見えたけど」
「そんなわけありませんわ、神崎悠人はライバル」
「ふ~ん…じゃあさくらとアイツが付き合うとなったら?」
「私の可愛いさくらがあんなやつと付き合うなんて邪魔したいですけど」
「だよなっそこで提案なんだけど」
「嫌ですわ」
「まだ何も言ってないじゃん」
「私と神崎悠人をくっつけようとしてますでしょ」
「うっ」『ばれた』
「やっぱり…絶対それだけは嫌ですわ」
「ちぇっそうすればさくら諦めると思ったんだけど」
「やめてくださる?早く行きますわよ」
「……うん」
でも、あおいはまだ諦めていなかった
さくらの誤解を確実なものにできればいいと思っていたとき、ゆきののポケットから生徒手帳が落ちた
あおいはラッキーと思った
ゆきのはそのまま垣里家にきた
2階のさくらの部屋に入り、いつものように音楽をかけて椅子に座る
「あおい君一つ聞いていいかしら?」
「ん?」
「どうしてあんなに神崎悠人を嫌うの?」「ゆきのまでアイツの味方かよ」
「違うわ…異常だって言ってますのよ」
「…さくらが好きになりそうなやつに質問するんだよ」
「え?」
「さくらとゆきのどっち可愛い?って」
「は?」
「大抵の奴は可愛いっていったらゆきのなんだよ」
「なにそれ」
「でもあいつは即答だった」
「…さくらって?」
「うん……
渉みたく両方って言ってくれたほうが良かった」
「…………」
「じゃあ、下行ってお茶持ってくるよ」
「えぇ」
あおいは部屋を出る
「悪いな、ゆきの」
呪う為にもらった神崎悠人の写真を入れたゆきのの生徒手帳をドアの前に置く
「これでさくらの勘違いは確実になる」
あおいはウキウキでその場を離れ、キッチンに向かった
少し経ってからさくらは帰ってきた
「ただいまぁ」
ぱたぱたと勢いよく部屋のある2階に向かう
すると、ドアの前に落ちている物に気付く
中を見ると神崎悠人の写真が入ったゆきのの生徒手帳だった
驚いて…足がすくみ動けなくなっていた
『やっぱり…ゆきの
神崎君が好きなんだ』
「さくら、おかえり」
背後からあおいの声がした
私は黙っていることしかできなかった
「さくら、どうしたの?中入ろう?」
あおいはドアを開けて部屋に入る
「おかえりなさい、さくら」
「た…ただいま」
「どうしたんだよぉさくら」
「ううん、何でもない…あっこれゆきののじゃない?」
「え?ないわ…気付きませんでしたわ」
「気をつけないと」
「ありがとう」
さくらは知らない振りをしてゆきのに渡す
あおいは2人の横でニヤリと笑った