ep20 別れ
真っ直ぐ私の目を見てはっきりと悠人は言った
「昨日、海外にいる祖父さんが急に電話してきて」
「・・・」
「医者になりたいならあっちで頑張らないかって」
「卒業したらすぐ?」
「いや・・・卒業前にもういこうと思ってる」
「いつ?」
「早くて9月かな・・」
「もう決めたの?」
「俺は早く認められるためにも行こうと思ってる」
「私のため?」
「さくらはきっかけに過ぎないよ」
「・・・」
「日本よりあっちのほうが勉強にはなると思うし」
私は急な話についていけなかった
昨日どんな思いで見合いをしたと思っているのか
ぶち壊しに来るとかそんなドラマのような進展もない
勉強に打ち込みながらそんなことを考えていた悠人
私は混乱して何もいえなかった
「さくら?」
「・・・・私は?」
「待っていて・・・とは言わない」
「え?」
「ちゃんと認められるような人間になれるかわからないし、さくらも俺以上の人に出会うかも知れない」
「・・・んで」
「待ってないでさくらは自由でいいから」
「なんで!」
「え?」
「なんで、待っていてくれって言えないの?」
「だから・・・」
「私が違う人を好きになっても・・・悠人以外の人と結婚してもいいと思ってるの!?」
私は持っていた弁当箱を投げつけた
「ちょっ・・・さくら」
「私が昨日どんな思いで・・・」
「え?」
私は涙で悠人の顔を見ることができなかった
自分が何をいってるかもわからなくなる
頭が真っ白になってきた
「もう・・・いい」
私はそこから逃げようとした
ぱしっ
「待って、さくら」
「・・・・離して」
「昨日って何?何あったの?」
悠人は必死に私を捕まえていた
「さくら」
「・・昨日・・・見合いしたの」
「・・・」
「相手は・・・・渉だった」
「・・・聞いた」
「え?」
「昨日・・・実央から連絡あったから」
ピロロロロ
「うるせぇ・・誰だよ・・・・はい」
「もしもし?実央!」
「何?俺今忙しいんだけど」
「それより大変なの!」
「ドラマの主演でも決まった?」
「あっ映画の助演なら・・・って違うわよ」
「おめでとぉ~」
「じゃなくて、今お兄ちゃん見合いしてるの」
「見合い?へぇ~」
「その相手・・・誰だと思う?」
「何・・・俺の知ってる人?宮島とか」
「ゆきのさんならいいけど・・・悠人君驚くよ」
「・・・・早く言えよ」
「さくらさん」
祖父さんから電話が鳴った後のことだった
返事は保留にしていた
でもその瞬間、行こうと決めた
「そっか」
「え?なにそれ・・・邪魔しに来ないの?」
「・・・・行かない」
「悠人君?」
「実央には悪いけど・・・渉なら安心だから」
「ちょ・・・悠・・」
プチッ
「その話を聞いたから、行こうって思ったんだ」
「意味・・・わかんない」
「渉なら大丈夫だから」
「何それ・・・・・わかったわよ」
「え?」
「待ってろって・・・渉と結婚しろって言うなら、そうするから」
「さくら」
ふと気が抜けた悠人の手が離れると私は走り出していた
「・・・・・いいんだよな」
悠人は手を強く握り立っているだけだった
「「留学!?」」
「・・・・うん」
「俺は何も聞いてないぞ」
「さくらに先に言うに決まってるじゃないの」
「そっか」
「私・・・とんでもないこと言っちゃった」
「え?」
私はゆきのと渉の2人を交互に見てため息をついた
「ちょっとなんですの!」
「・・・結婚するって」
「「え?」」
「渉と結婚するって言っちゃったの!」
「「えぇぇぇぇ~」」
ゆきのは、はっとして口を塞ぐ
渉はかなり驚いて、しまったというように頭を抱えている
「俺絶対殺される・・・やばい・・やばい」
渉はぶつぶつと独り言をつぶやいていた
「渉、大丈夫?」
「あぁ~気にしなくてよろしくてよ」
「え?」
「大方、神崎君にしめられると思ってるのよ」
「・・・しめないよ」
「え?」
「・・・・悠人がわからないの」
「・・・・」
「だって・・・待ってろって言えないって」
「・・・・」
「俺以上の人が現れるかもって・・・」
「さくら」
「悠人が渉なら安心だっていったんだもん」
「そんな・・・」
「・・・別れるって事でしょう?ゆきの」
私は助けを求めるようにゆきのにすがりついていた
ゆきのはただただ・・・抱きしめてくれた
頭を抱えていた渉も私のそんな姿をみつめていた
ガラッ
「あっ渉ぅ~来てくれたのぉ?」
「ちょっと聞いてよ~渉ぅ」
「ごめん・・・悠人いる?」
「王子?いるけど・・・」
渉は女の子達をよそに悠人のもとに一直線に行った
それに気づいた悠人は読んでいた本を閉じた
「悠人」
「渉・・・なに?」
「顔貸せ」
いつものふざけた態度じゃない渉と悠人の重い空気に教室にいた
生徒はざわめきだした
「何?今の!」
「え?ケンカ?」
「えぇ~王子と渉だよ?」
「でも今の雰囲気・・・」
教室内のざわめきが一層高まる中、悠人と渉は屋上に向かっていた
「う~ん、いい天気だな」
「そんな話しにきたわけじゃないよ」
「・・・わかってるよ」
「留学・・・するのか?」
「さくらに聞いた?」
「するのか?」
「・・・・そのつもり」
「なんで言ってくれないんだよ」
「昨日・・電話あったんだ」
「そんなすぐ決められることじゃないだろ」
「・・・・決めたよ」
「俺たちになんの相談もなしに?」
「俺は早く一人前になりたいんだ」
「さくらんちに認められる為か?」
「いや・・・それだけじゃないよ」
「あと何がある?」
「親父の力になりたいんだ」
「親父さんって今海外にいるんだっけ?」
「・・・さぁ?世界中飛び回ってるらしいけど」
「俺の父さんもいつも会いたがってるんだよな」
「らしいね」
「何かあんの?お前んち」
悠人は渉を見ると、ふっとふくみ笑いをした
「え?」
「話変わってるよ」
「あっ・・・いや俺は留学してもいいと思ってんだ」
「さくら?」
「そう、さくらどうすんの?」
「・・・・・」
「お前本当に待ってろって言わなくていいのか?」
「いいんだ・・・いつ帰ってくるか分からないやつより近場の渉みたいな人と一緒になったほうがいんだよ」
「勝手に決めんなよ」
「まぁ・・・お前には宮島がいるしな」
「いや、そうじゃなくてさ・・・」
「もう決めたんだ」
そういう悠人の目は真剣だった
そして彼は9月よりも早く夏休みに入ってからすぐに旅立っていった
私たちに何も言わず・・・あれから一度しか話せなかった
学校中が私たちの別れたという噂が出始めていたころだった
ガラッ
「あら王子じゃなぁい、どうしたの?」
「王子ぃ~たまには息抜きしよぉ~」
「ごめん・・今度ね」
「えぇ~」
私にはクラスの女の子がきゃっきゃっと話す声が聞こえていた
私は帰り支度を済ませ、ゆきのと渉と帰ろうとしていた
「あれっ悠人きてんじゃん」
「あら本当」
「渉に会いに来たんじゃない?帰ろっゆきの」
「えっ・・ちょ・・・」
「やっぱりぃ~?悠人ぉ~」
「あっ渉・・・・さくらは?」
「えぇ王子とさくらって別れたんでしょう?」
「ねぇ~皆知ってるよ~」
「別れてないよ」
私はゆきのと後ろのドアから出ようとしていた
その声が聞こえながらもそのまま昇降口に向かった
「さくら」
「さくら、よろしいの?」
「何が?」
「さくらっ待って」
走ってきたのか息を切らしながら後ろに声がした
私は立ち止まりながらもその声の主を見れないでいた
「宮島、さくら借りていい?」
「えぇ・・・もちろんですわ」
そういうと強引に私を連れて行った
私は嬉しかった反面悲しくもあったんだ
もしかしたら・・・これが最後かもしれないって感じていたから
着いた先は私たちが初めて話した場所
1人泣いていたあの場所だった
「留学・・・決まったよ」
「・・・そう」
私は冷たく接してしまったせいか悠人も口を閉じてしまった
その沈黙に耐えられなくなった私が先に口を開く
「話ってそれだけ?・・なら私行くね」
「えっ」
背中を向けて私はその場から去ろうとした
するとふわっと悠人の香りがした
ぎゅっと・・・あの時とは逆
悠人は泣いてないけど・・・雰囲気が悲しい
私が悲しいからかな
「5年」
「え?」
「5年経って俺がそばにいなかったら忘れていいから」
「・・・・何それ」
「俺なりの・・・・わがまま」
私が黙っていると悠人はポンポンと頭を叩いた
私は涼しくなった背中を感じた
一粒の涙が頬を伝って気づく
後ろを振り向くと彼はいなかった
彼なりの優しさだったのに
私は・・・・
彼が旅立ったのを知ったのは夏休みが終わった始業式
渉もその日知ったらしく急いで私に知らせてくれた
本当にあの日が最後だった
でも私は感じていたのかもしれない
涙は出てこない
5年待てばもしかしたら彼に会えるかもしれないから
「渉、ゆきの・・・お願いきいてくれる?」
私も決意した