ep19 見合い
父と会ってから悠人は勉強に入れ込んでいる
放課後は塾に行き、休みの日でも図書館に籠って一日中勉強しているらしい
私と会うのは学校の昼休みぐらいになってしまった
父の言う地位というのを築く為に
嬉しいけど…少し寂しい
「なぁ~さくら」
「うん」
「悠人と別れたの?」
「うん」
「マヂ!?やっぱあいつ父上に敵わなかったか」
「うん」
「じゃあ父上にお知らせしないと♪」
「うん」
私はぼーっとすることが多くなって、あおいがそんな話をしてることに気付かなかった
あおいは父にすぐに知らせ、見合い話を進めるきっかけとなった
「なんだ……口ほどにもなかったか」
トゥルルルルル
「はい…あぁ遅くなって申し訳ない」
「………」
「こちらはいつでも大丈夫です」
「………」
「えぇ…じゃあ30日の日曜日に」
「………」
「いぇ………こちらこそよろしくお願いします」
「あなた?」
「30日の日曜に見合いをする、準備頼む」
「さくらが承諾するでしょうか?」
「ただの食事会とでもいえば来るだろう」
「よし!これであいつがさくらに絡むことはなくなるな」
「…………あおい君どうゆうことかしら?」
「あ………ゆきの来てたのか」
「さくらがとうしたですって?」
「いやぁ~…その…」
「あおい君?」
「この前悠人が父上に呼ばれて会ったんだよ」
「え?」
「それで結構キツいこと言われたらしくて別れたらしいんだ」
「そんなわけないでしょう?昼休みは一緒にいますわよ」
「でも聞いたら別れたって…さくらが」
「そんな………それ以外にも何かあるんでしょう?」
「………」
「あるのよね?」
「見合いするんだ……次の日曜」
「あぁ…でも珍しいわね、シスコンのあおい君がすんなり知らない人とお見合いさせるなんて」
「えっ…」
「知ってる人なのかしら?」
「う…ごめんっさすがにゆきのでもこれは言えない」
「あっ…あおい君待ちなさい」
あおいは自分の部屋に籠ってしまった
ゆきのはさくらの部屋に行く
「さくら…入るわよ」
「ん?ゆきの?」「今……あおい君から聞いたんだけど」
「何を?」
「神崎君と別れたって本当かしら?」
「え?そんなわけないじゃん」
「ですわよね……大丈夫?」
「うん……私の為にやってるからしょうがないよね」
「え?」
「……ううん、なんでもない」
「さくら?」
「さっ勉強しよ?」
「えぇ…」
ゆきのはさくらが明らか元気がないのに切なくなった
日曜日
「さくら、着替えました?」
「うん……でも珍しいね、家族で食事なんて」
「たまにはいいじゃない?ママも息抜きしたいのよ」
「そうだよね」
今日は家族で食事をしに行く
父のフランス料理の店を貸切にしているらしい
ドレスを着るまでもないのだが、久々だから私は母に白いミディアムドレスを着せられた
母御用達の美容師を呼び、綺麗に着飾った
いつもならこんな大袈裟なことされたら不信に思う私も
ぼーっとしていたせいかされるがままに両親の企みにも気付かなかった
お店に着き、扉が開かれた
そこには一組の家族が席に座っていた
「え?」
「お待たせ致しました」
「いやいや、私どもも先程着いたばかりですから」
「ちょっと……どうゆうこと?」
目の前に座っていたのは学長夫妻と……
「俺もさっき聞かされたんだよ」
渉だった
「聞いてないわよ」
「さくら、いいかげんに降参しろよ」
「……あおいもお父様達の味方なの?」
「そうじゃないけど、渉がお兄ちゃんだったら俺嬉しいし」
「実央ちゃんとも会えるしね」
「え?いや……」
「さくら、落ち着けよ」
「渉も騙されてきたんてしょう?なんでそんな冷静なの?」
「……ただ食事するだけだと思えばいいだろ?」
「え?」
コソ
「俺もお前と結婚なんかする気ねぇよ」
渉は私の耳元で囁き、ウインクした
私は嫌々、席に着いた
「ちょっとぉぉ~通してよ!!」
「申し訳ありません、誰も通すなと……」
「はぁ?白河家の一人娘実央様に向かって言ってるのかしら」
「はい…白河家の旦那様から実央お嬢様もいれるなと…」
「お父様がぁ?」
店の前には渉が私と見合いをすると聞いて仕事場からやってきた実央が怒鳴っていた
「私が反対すると思って言わなかったのね」
「………こうなったら」
そう独り言を呟くと実央はどこかに電話をかけた
「あっもしもし?実央!」
「なんだよ、俺忙しいんだけど」
「それより大変なの!」
私はむすっとしながら黙々と食事をしていた
理事長夫妻と両親だけが話を楽しんでいる
「さくらさん、むすっとしてると可愛い顔が台無しですよ」
にこっと笑ってたまに話しかけてくる渉を私は睨み付けた
「こんな機会滅多にないんですから少しは楽しみませんか?」
「・・・しょっちゅうみんなでご飯食べにいってるじゃない」
「2人でですよ」
「ふたりきりではないけどね」
「まぁ確かに・・・あおい君もいるしね」
「お父様、そろそろ2人にしてあげられませんか?」
私たちの話を聞いていたであろうあおいが口を開いた
「そうだな・・・2人とも少し外を散歩してみたらどうかな」
私は無言で飲み物に口をつけた
「そうですね・・・さくらさん行きませんか?」
私は口をエプロンで拭き、席を立った
「行ってきます」
ニコニコと理事長夫妻と両親、あおいは私たちを見送った
「あぁ~疲れた」
「さくらさん今日嫌がってたわりには着飾ってますね」
「知らなかったって言ったでしょ」
「そうでしたね」
「てか、その話し方やめてよ!気持ち悪い」
ふっと笑う渉
「だよねっ」
「親父たちは俺たち無視して話してるし」
「私たちの意見なんてはなから聞かないわよ」
「・・・大丈夫だよ」
「なにが?」
「言ったろ?俺は結婚する気なんてないよ」
「・・・」
「悠人に殺されたくないしね」
「ふっ・・・私もゆきのを悲しませたくない」
「・・・なぁ」
「ん?」
「やっぱあいつって俺のこと好き?」
「・・・はぁ?」
「いやぁ・・実はどうしたらいいかわかんなくてさ」
「はぁ~百戦錬磨の渉でもゆきのは手ごわいか」
私たちが話しているのを、中からあおいと父親は見ていた
「やはり交友があったせいか仲が深まるのは早そうですな」
「お?本当に楽しそうに話してますな」
「提案なのですが、このまま婚約の手続きといきませんか?」
「さようですな」
「でもあなた、渉の意見も・・」
「あいつなら大丈夫だろ・・それよりも・・・」
「何かあるんですか?」
「いや、一人納得がいってないものがいまして・・」
「もしかして・・・実央・・さん?」
「ご名答、確かあおい君も顔見知りでしたか」
「あ・・はい」
「まぁ当人とは関係ないのですが、恥ずかしながら実央は重度のブラコンでして」
「あははは、ウチも同じですよ」
「そうそう、あおいもいつもさくらの後ろについて回って・・」
「お母様!」
「あらあら、怒らせたかしら」
「でもあおい君は賛成してるみたいですな」
「僕は・・・渉さんがお兄さんならいいなって」
「嬉しいこといってくれるのね」
「あっでも・・・実央さんの意見もちゃんと聞いてあげて下さい」
「え?」
「あおい」
「あっ・・いや・・・その」
「ありがとう、あおいさん」
私は婚約の話が着々と進み始めてることに気づかなかった
そして次の日の朝もいつも通り来ると思っていた
もうその日から全てが変わり始めていたことに
気づきもしなかったんだ
「悠人、おっはよ」
「おはよう」
「朝私寝坊しちゃって、さっき来たんだ」
「珍しいな」
私は見合いの話をしようとした
「あのね・・・昨日」
「さくら」
「え?」
「俺・・・留学しようと思うんだ」