ep17 むかし
今日はいつも何かと食いついてきた山崎先輩とのお別れの日
大学も推薦で余裕の合格したらしく自由登校でも毎日のように来ていた
私達が付き合うということを知っても特に何か言うわけでもなく、今まで通りで悠人にくっついていた
そして放課後は私とゆきのが図書室で勉強しているとそこにやってきては特に意味のない話をして帰っていく
でも卒業式も近くなって悠人の話をするようになった
私が知らない悠人の小中学生時代
先輩も真面目に話すからその話だけは真剣に聞いてしまった
「や~い、ゆうこちゃぁん」
「お前ホントに男かよ」
「黙っちゃって、日本語ワカリマスカ?」
小学生の時に海外から転校してきた悠人
特にハーフが際立ち、いじめの対象となっていた
女の子の間では王子様が来たと噂になっていて外から騒ぐだけで、話し掛けることはなかった
だけど先輩、山崎静香は例外だった
「どこがいいの?あんなしっかりとしない男」
小学生ながら大人っぽい会話をする静香は悠人に興味がなかった
男子にからかわれてる姿を見るといつもイライラしていた
ある日学校からの帰り道
橋に悠人が1人ぽつんといた
静香はシカトしてそのまま通り過ぎようとした
その時風が強く吹き、悠人が被っていた帽子が川へと落ちていった
すると、悠人は橋に足をかけて飛び降りようとしていた
「ちょっと!何やってんの!?」
静香は急いで悠人を捕まえた
「離して下さい……あれは大切な…」
学校では見たことのない必死な顔で力いっぱい静香の手をどけようとする
「そんなに大事なら…」
「え?」
静香は悠人の手を取り、走り出す
川沿いを走って帽子を追いかける
幸い、帽子は川の端に引っ掛かって止まっていた
「ほらっあそこ…」
静香が帽子を指差す前に悠人は走って川に入り帽子を捕まえた
嬉しそうにびしょびしょの姿で悠人は静香のところへ来る
「ありがとうございます」
愛しそうな顔をして帽子を抱き締めている悠人にドキッとした
その時から静香から悠人の笑顔が忘れられなくなっていた
学校で会うと話し掛けるようになって、昼休みも一緒にいることが多くなった
「ねぇ悠人君、どうしていつも男子にからかわれてるか知ってる?」
「え?それは……その…女みたいな顔だからって」
「…それだけだと思う?」
「違うんですか?」
「噂では、リーダーの好きな子が悠人君に一目惚れしたらしいわよ」
「えっ…そんな事で?」
「おっ意外と大人な意見だねぇ」
「だって……付き合ってるわけじゃないし」
静香はビックリした
海外で暮らしてるとやっぱ他の男子とは違うなと関心が増していた
「よし!悠人君!」
「はい?」
「変わろう」
「…変わる?」
「そう!その他の男子より大人な感じをいかして」
「……」
「それにこれから絶対イケメンに成長するんだから…そだ!王子様になろうよ」
「山崎先輩………楽しんでない?」
「え?………そんなことないよぉ~」
「今、間があった」
それから静香が卒業するまでの半年
勉強もして体も鍛えるように静香が指導するようになった
だが、半年は短く少しはたくましくなったが、さほど変わりはなかった
いじめは静香がずっとついてるからか少なくなった
小学校とは正反対の方向に中学校はあり、悠人とは1年会う事はなかった
そして悠人が同じ中学に入学した時、静香は驚きが隠せなかった
「悠人君?」
「あっ山崎先輩………久しぶりですね」
1年で身長は静香を超えて本当に王子様のような笑顔
前とは違う姿に静香はこれが恋だと感じた
「先輩いない間もずっと僕頑張ってたんだ」
「ホント全然違ったからビックリしたぁ」
「ふっ先輩は変わらないね」
「失礼ねっ少しは女っぽくなったと思うけどぉ?」
立ち振る舞いも誰にでも優しく学校内でも噂の的となり瞬く間にアイドルと化した
『王子』というあだ名もこの時からついていた
それから静香と悠人はよく遊びにいくようになったし、周りからも公認されていた
だが、悠人の中にはずっと1人の女の子がいた
それを知ったのは告白しようとあの帽子の話をしたとき
「この橋懐かしいねぇ~覚えてる?」
「当たり前じゃん」
「悠人…本当生意気になったわよね」
「先輩のうけうりかな?」
「恩人に向かって失礼しちゃうわね」
「ふふっ……感謝してるよ」
「そう?じゃあさ………」
「あの時の帽子……俺の宝物だったんだ」
「…宝物?」
「そう、変わりたいって思ったのはその子に見合うようになりたかったから」
「その子って…まさか」
静香は自分だと思っていた
周りにも公認されて静香の前では素になってくれたし、特別だと思っていた
その話をしている時も悠人は笑顔で静香の目を見て話してた
「あそこに住んでる子」
「実は私も……って………え?」
丘の上にある一軒の豪邸
そこに住む女の子に一目惚れしたらしい
その顔は今まで見たこともない位輝いて、その子が目の前に現れたら
勝てないと思った
「先輩?」
「………」
「どうしたんですか?」
「何でこの子なのかしら…」
「え?」
「王子ってあだ名がついたのは私のお陰なのっ…わかった?」
「結局それがいいたかったんですね」
「さてと…帰ろうかな」
「あっ先輩、明日卒業式ですね」
「私がいなくなって嬉しいでしょう?」
「そんなことないですよ!先輩いてくれて良かったと思います」
「そう?」
卒業式前日、山崎先輩は悠人との関係を話してくれた
「じゃあ彼氏待ってるから」
実はずっと気になっていたことに先輩は気付いてたのかもしれない
「悠人のこと…………よろしくね」