ep9 先輩
文化祭も終わり、2年生はテストが終わった後、修学旅行となっている
テストはいつも通りゆきのに教えてもらいながら何とか赤点は免れた
ウチの学校はちょっと変わっているというか受験前の細やかな贈り物として修学旅行は約1ヶ月となっている
もちろん、最初の2週間以外は自由参加だ
今年の修学旅行は沖縄となった
海ではしゃげるということで今年は皆1ヶ月いそうな雰囲気だ
修学旅行は夕飯とその後の2時間の勉強時間以外は自由となっている
「沖縄なんて何年振りかしら」
「よくゆきのと家族旅行と行ったよね」
「今回は私達だけですけど」
「それも楽しいじゃん、皆と思い出作るには最高だよ」
「…赤点免れて良かったですわね」
「赤点の人は強制的に2週間で終了だからね」
お昼を食べながらゆきのと修学旅行の話をしていた
「騒ぐ後輩はいませんし、ゆっくりできそうですわ」
「そうだね」
「そういえば、さくら噂になってますけど」
「え?何?」
「王子と付き合ってるって」
「えぇぇぇぇ!」
「知らなかったんですね」
「知らなかった…あっ文化祭の時のかな」
「えぇ…一緒に回ってたんですもの」
「でも、それだけで?ありえなぁい」
「さくら!ほんとか!?」
「あおい…どこからでてきたのよ」
「本当にあいつと付き合ってないよな」
「あおいまで…付き合ってません」
「良かったぁクラスの女子にも聞かれてさ…ありえないとは思ったんだけど」
「ありえない、ありえない、だからゆきのも気にしなくていいよ」
「なぜ私が?」
「あっ…」
「私関係ありませんけど?」
「いやぁ…あの…」
「あっさくら」
「早く言いなさい」
「この前生徒手帳拾った時見たんだよね…神崎君の写真入ってるの」
「何ですって?そんなもの………え?」
「だから最近一緒にいるの見てるし好きなのかなぁって」
「てかこんなもの私知りませんけど」
「え?」
「誰かのイタズラじゃ……あおい君?」
そぉっと逃げようとするあおいをゆきのは睨み付けた
「あおい君…まさかあなた…」
「ごめん!どうしてもさくらに諦めて欲しくて」
「ごめんじゃ済ましませんわ」
「じゃあ……違うの?」
「はぁぁ…違います、やめてほしいですわ」
「そっか」
「じゃあ渉だ!」
「何で…」
「あおいやめといたほうが…」
「こないだから態度変だし」
「ありえません」
ゆきのは少し頬を赤くしてその場から離れた
「なぁ…ゆきのって渉なの?」
「さぁ…まさかね」
あおいと別れ、教室に向かう階段で話し声が聞こえた
「ねぇ~本当に違うの?」
「山崎先輩しつこいですよ」
「そんないぢわる言わないでよぉ~悠人」
『神崎君!?』
私は思わず隠れてしまった
「そろそろ修学旅行ね」
「そうでしたっけ?」
「1ヶ月いるの?」
「多分……」
「寂しいなぁ…悠人に1ヶ月も会えないなんて」
「あはは」
「彼女なんか作って来ないでよ」
「だからそんな人いないって言ってるでしょう」
「じゃあ……キスして」
「あぁ…今度」
「またそんなこと言ってはぐらかして…」
私は聞いてはいけないことを聞いてしまった気がした
『えっ神崎君って…』
そっとばれないように2人の様子を見た
窓の光で顔はよく見えなかったが、2人は抱き合って顔を近付けているように見えた
ガタン
私は弁当箱を落としてしまった
「誰?」
「ご……ごめんなさい」
私は弁当箱を拾ってそのまま逃げてしまった
「今の……」
「あの子よね、噂の子って」
「さぁ?」
「いいの?追いかけなくて」
「……」
「多分、彼女私とキスしてると思ったんじゃないかしら?」
「……関係ないよ」
「そう?だったらどうしてそんな顔してるのかしら」
「そんな顔?」
「追いかけたくて誤解を解きたくてウズウズしてる顔」
「気のせいですよ、先輩」
「まぁいいわ、彼女に振られたら私が慰めてあげる」
「ありがとうございます」
ニコりと悠人は山崎先輩に笑う
山崎先輩は悠人の顔に手を触れ、頬にキスをした
「あなたは私から離れない」
「すごい自信ですね」
「悠人の事一番知ってるのは私だけでしょう?」
「どうですかね」
私は教室まで一気に走って廊下で座り込んでしまった
「さくら、どうした?」
「渉…ねぇ山崎先輩ってバスケ部のマネージャーだよね」
「あぁ…もう引退したけど」
「神崎君と仲良い?」
「同じ中学らしいけど、そんなに話してるとこ見たことないし」
「そっか」
チャイムが鳴ってギリギリに神崎君は戻ってきた
「悠人、遅かったな」
「あぁ、ちょっとね」
「またファンの子に捕まってたんだろ」
「そんなとこ」
その後真っ直ぐ私のとこに来た
「垣里」
「神崎君…何?」
「見た?」
「何を?」
「…」
「そろそろ座らないと先生くるよ?」
私は必死に笑顔を作り、知らない振りをした
「……そうだね」
それと同時に先生が入ってきた
私は少しほっとする
結局放課後まで神崎君を避けてしまった
部活の休憩中、神崎君といた先輩が私に近付いてきた
目が合ってしまい、私は逃げようとした
「垣里さん、待って」
呼び止められて逃げられなくなる
「垣里さん…でいいのよね?」
「はい」
「私、男バスのマネージャーやってた3年の山崎といいます」
「…はい」
「知ってたの?私のこと」
「あっ…渉から少し」
「あぁ……どこかで見たと思ったら女バスの助っ人か」
「……まぁ」
「今日階段で見たよね?」
「……」
「別に私は隠すつもりはないし、いんだけど」
「……付き合ってるんですか?」
「あなたには付き合ってるように見えたんだ」
「えっ?」
「悠人には今まで彼女という存在の人はいないわよ」
「どういう意味ですか?」
「そしてこれからも、悠人に彼女はできないわ」
「なんで……?」
「さぁ…気になるの?」
「いえ……別に」
「あなたも素直じゃないのね」
そう言って山崎先輩は去っていった
私は黙々と走り続けた
走って、走って
気になることなんか無くなるくらい走り続けようと思った
でもそんなことなんてできないことに気付く
ふと周りは暗くなり始めていて部活仲間や生徒はいなくなっていた
多分、あおいやゆきのも帰ってるだろう
1人部室で着替え、教室にかばんを取りにいく
教室には明かりがついていた
『ゆきの待ってたのかな』
ガラガラ…
扉を開けると
神崎君がいた
「すげぇ…集中力」
「どうして?」
「待ってた」
「大丈夫…誰にも何も話さないよ」
「山崎先輩と何話してたの?」
「え?」
「帰る時見たんだよね、2人で話してるとこ」
「それで待ってたんだ」
「……」
「ただの世間話」
「本当?」
「……山崎先輩と付き合ってるわけじゃないのね」
「先輩そう言ってた?」
「えぇ…神崎君は好きなの?」
「いや……俺は10年位前から1人だけだから」
「あぁ…だから彼女作らないんだ」
「まぁね」
私は帰る準備をしながら話した
「でもキスはするんだ」
「………」
神崎君は近付いてきて、私の顔を上にあげる
「垣里ともできるよ」
私は突然のことに固まってしまった
神崎君の顔が近付いてきてようやく整理ができた
バチン
神崎君の頬を叩いていた
「………最低」
私はそのまま神崎君を残し、走って教室を出て行った
「ホント……最低だな」
私と神崎君はその日から話す事なく修学旅行を迎えた
もちろん、ゆきのやあおいには話してない
まだ神崎君の言葉が信じられないでいるからかもしれない
「さくら~お土産よろしくな」
「はいはい」
「さくら、早くバスに乗りましょう」
「うん!じゃあね、あおい」
あおいに手を振り私 たちは沖縄へと出発した