3.しぶく
本編第三話です。次回に続きます。
この街には、これといった特徴はない。
日本のどこにでもあるような、郊外の住宅街。全国チェーンのスーパーにコンビニ。老朽化で崩れかけている旧校舎と、生まれ変わり別物になった小学校舎。代わり映えのしない毎日。
こういった状況は、小説家にも関わらず想像力の欠けた自分には好ましくない。
多くの小説家は、身近な生活から、何気ない日常からネタを拾うという。
ただネタを探す以外に人間の生理的欲求を満たすだけの面白みのない生活に、物語に起こすだけの力が潜んでいるのだろうか。
自堕落な生活の中に、ちょっとした刺激。
本当にちょっとした刺激でいいかはわからない。長らく自分の意思で書いたものがないものだから、書き方を忘れてしまったかもしれない。その前に動かなければ。でも、どうやって?
どうにもやる気が起きなかった。
生ぬるい六月の風が、古いアパートの隙間を抜ける。どうにもやる気が起きない。まだそこまで夏に入っていないというのに、八月病にでもなった気分だ。
俺は気分を変えるために、外出することにした。歩いていれば、足が血のめぐりをよくし、次第に頭も回ってくるだろう。ある種の希望的観測を抱く時期になったことを感じ、苦笑する。今日は随分と感傷的じゃないか。そんなに余裕がなかったとは。
よれた部屋着からよそ行きの格好に着替え、立てつけの悪い扉を開けた。昇り始めた太陽に熱された蒸した空気が一気に押し寄せてきた。それだけで何もない部屋に戻りたくなってしまう。不快感をぐっと抑え、玄関から外に出た。
アパートから、とりあえずスーパーへ向かうことにする。
井戸端会議をする主婦を想像すれば納得していただけるだろう。代わり映えのない毎日に刺激を求め、自分たちが普段利用している玄関先やゴミ捨て場、スーパーに集まり世間話をする。そういった場所に、ネタは転がっているのだ。盗み聞ぎというと聞こえは悪いが、これでも近隣では好青年で通っている。もうそんな年ではないが、その印象を持って堂々と聞き耳を立てることができるから、今の今まで否定したことはない。
ここまでそれらしい理由を並べたが、結局は涼しいからという、自堕落な理由で足を運んでいるに過ぎない。
歩いているうち、茹るような暑さを感じて、すぐそこの公園の木陰で休むことにした。家から水でも持ってくればよかったと後悔しながら、ベンチに腰掛ける。
平日の昼間。子供は一人もおらず、生き急いだ虫の鳴き声がやたらと大きく聞こえてくる。
暑い時というのは、不思議なことに、一定のピークを過ぎれば眠気に変わる。暑すぎて寝られないときもあるが、この時はそんなこともなく、すっかり寝入ってしまった。
意識がとだえる寸前、憶えのある水の匂いが、やけに鼻についた。
「どこだ、ここ」
無事に続きました。次回も無事投稿できそうです。お楽しみに。
進捗は活動報告にて行っておりますので、チェックしていただければ幸いです。