願いごとの代償
ここ最近、「流れ星を見ると願いが叶う」という話が、再びブームになっていた。
その理由は、政府肝いりの人工流れ星プロジェクトが始まったからだ。
月に1回、夜空に大規模な人工流れ星が打ち上げられ、
全国の家庭では「願いごと記念日」として子供たちが空を見上げるのが恒例となっていた。
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政府はこれを道徳教育の一環と説明した。
「夢をもつ心を育むために」
「星に願いを」
「そして感想文を」
そう、“読書感想文”ならぬ流星感想文の提出が義務化されたのだ。
子供たちは夜空を見たあと、学校に感想文を出さなければならなかった。
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その制度がはじまって数ヶ月後、
とある感想文がニュースになった。
小学生のカンタくん(10)が書いた感想文。
「ぼくは『おとうさんが会社をクビになりませんように』とおねがいしました。
そしたら、おとうさんの上司が交通事故でしにました。
ぼくのねがいは、かなったのでしょうか。」
—全国が凍りついた。
「偶然だ」「ただの事故だ」とメディアは言い張ったが、
それ以来、「流れ星に願いごとをすると本当に叶うらしい」という都市伝説が加速した。
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その頃、ネット上に現れたのが
「願いごと代行屋:ミルキー詐欺師」だった。
彼の売り文句はこうだ。
【あなたの願い、私が代わりに流れ星にお願いしてあげます】
【成功率97%(※自社調べ)】
【文例:宝くじ当選/ライバル退職/恋愛成就/復讐など対応】
もちろんインチキだった。
彼はただ、自分の名前を使って適当にお願いして、
「かなったでしょ?」と言い張るだけだった。
だが、その「適当」が、時折、的中してしまうことがあった。
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たとえば、依頼者の上司が突然左遷された。
たとえば、疎遠だった人が偶然連絡をくれた。
たとえば、他人の不幸が自分の幸福につながった。
「これは……俺、神様なのか?」
そう思いはじめたときだった。
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ある日、彼のもとに政府からの封筒が届いた。
「読書感想文コンクール 優秀賞受賞のお知らせ」
「……は?」
中には、小学生の書いた感想文が同封されていた。
「ぼくは、流れ星に『ミルキー詐欺師がバレますように』っておねがいしました。
理由は、読んだ本に“悪いことをするといつかバレる”って書いてあったからです。」
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彼は、あっという間に逮捕された。
取り調べ中、こうつぶやいたという。
「願ったのは…俺じゃない。俺は、ただの代行屋だったんだ…!」
—
今夜も空には、人工流れ星が流れている。
静かに、優しく、
誰かの“願い”を、叶えるように。