表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/12

お隣は洗濯日和

西暦2173年。

人類は火星に定住しはじめていた。


とはいえ、火星は過酷だ。

寒い、乾燥している、そして酸素がない。


それでも「地球より家賃が安い」という理由で、

多くの中流層が火星のコロニーに移住してきていた。


火星歴5年目の男、ミナトもそのひとりだった。



ある日、彼はふと気づいた。

自宅の窓から見えるお隣の家のベランダに——


干してある。洗濯物が。しかも、普通にヒラヒラしてる。


「……おいおい、ここ火星だぞ? 大気圧ゼロだぞ?」


驚いたミナトは、興味本位でお隣に訪ねた。

住んでいるのは、老夫婦だった。にこやかな笑顔で迎えてくれる。


「ああ、うちの洗濯物ねぇ。あれね、“自家栽培”なのよ」


「じ、自家栽培……?」



話を聞くとこうだ。


火星に布地を輸入すると税金が高い


洗濯機は電力消費が激しい


よって、「服を育てて、使い終わったら干して再生する」方式


つまり、あれは服型の植物らしい。

乾燥させると元の形に戻るらしく、しかも自動で除菌・リフレッシュ機能つき。


「でも、外気って危険じゃ…」

「うふふ、うちは火星対応型ハイブリッドベランダだから平気なの」


ミナトは妙に感心した。

「火星に来てまでエコとは……」



数日後、ミナトの家にも布っぽい草が届いた。

なんとお隣がこっそり苗を植えてくれたのだ。


「いいでしょ、次の流行は“服の家庭菜園”よ」



それからミナトも、洗濯ではなく“栽培”をするようになった。


服は伸び、乾き、再生する。

ハンカチなんて、3日で実った。



ある日、政府の火星住宅管理局が回ってきた。


「おや? お宅、お隣さんから服の苗をもらってませんか?」


「え? はい…いただきましたけど」


「やはり。違法です」


「えっ!?」


「火星では衣服も“居住空間の一部”に該当します。

 許可なく他人の家で発芽させると、領土侵害にあたるんですよ」



こうしてミナトは、火星に来て初めての罰金を払うことになった。


金額は、地球の洗濯機が3台買えるほどだった。



お隣の老夫婦は、しれっとしていた。


「お気の毒に。でも、うちは全部許可取ってるから。火星歴長いからねぇ」



ミナトはその日、誓った。


「やっぱり火星でも、ご近所づきあいは慎重にしよう」



そして夜、ベランダで服の芽がしおれていくのを、

彼は遠い目で見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ