運命のアルゴリズム
西暦2125年。
この国では、18歳になると**「マッチング通知」が届く。
政府が提供する超高精度AI「Cupidy」が、
その人に最もふさわしい相手を、自動的に選び、通知するのだ。
精度は99.999%と言われていた。
——ただし、本人の意思は一切関係ない。
「なんで僕の相手が……この人なんだよ」
青年ソウタは通知を見て、頭を抱えた。
通知に表示されたのは、
小学校時代、いじめっ子グループのリーダーだったナツミだった。
—
今でこそ見た目は美しく、AI技術者としても高評価の彼女だが、
ソウタにとっては“トラウマの具現化”に近かった。
Cupidyには異議申し立ても拒否権もない。
通知を拒否すれば、マッチング不適格者として、恋愛も結婚も禁じられる。
「ふざけてる……AIに運命なんて、決められてたまるか」
—
ソウタはナツミと会う日が来るまで、一切連絡をとらなかった。
しかし指定日に、指定されたカフェに現れた彼女は——
「……来てくれて、ありがとう」
と、ものすごく優しかった。
「え? なんで……」
「覚えてるよ、昔のこと。最低だったと思ってる」
「Cupidyから通知が来たとき、正直びっくりした。でも、ちゃんと向き合わなきゃって思った」
彼女は、昔の自分のことを真剣に反省していた。
それだけじゃなかった。
「君が、私に一度も復讐しなかったのも、ずっと覚えてた」
「だから、もしやり直せるなら、ちゃんとやりたい」
ソウタは、AIのマッチング精度に戸惑いながらも、少しずつ心をひらいた。
—
その日から半年後。
Cupidyから再び通知が届いた。
【再評価完了】
おふたりの相性は最上級レベルで安定しました。
結婚申請の優先審査が適用されます。
—
ソウタは画面を見て笑った。
「……ま、たまにはAIに任せてみるのも悪くないな」
彼は、カフェで待つナツミのもとへと、静かに歩き出した。
その様子を、Cupidyの開発責任者がモニター越しに見ていた。
「よし、また一組成功だな」
「……まあ実はあのペア、最後の0.001%の“未知数データ”に入れてたけどね」
部下が震えながら聞いた。
「えっ、それって運任せだったってことですか!?」
「恋愛なんて、そんなもんだろ?」
彼はコーヒーを啜って、肩をすくめた。