八話 二つの作戦
グライドが口を開いた。「頼みがある」この声は、低く、憎しみに満ちていた。アルボルが腕を組む。
「頼み?何だ」グライドが拳を握りしめた。「ヒュードルと……ルアームを……」一拍おいて「殺してほしい」静寂。フランメたち三人が、息を呑んだ。(殺す……⁉︎)ブロンテが震えている。ヴァントも顔が青ざめている。アルボルが低く笑った。「ガハッ……殺す、ねぇ」「本当にいいのか?」アルボルがグライドを見た。「一応、お前の仲間なんだろう?」グライドは少し間をあけてから、言った。「仲間じゃない」声が震えている。怒りと憎しみに満ち溢れている。「とにかく……あいつらを殺してくれ」再び、頼み込む。ソーボとシーボも、黙って聞いている。二人もその気なのか……。
アルボルが頷いた。「わかった」簡単に承諾する。
「で、どうやる?」グライドが説明し始めた。「あいつらは、毎朝鍛錬している」「昼頃には終わって、建物から出てくる」「そこを狙う」アルボルが笑った。
「わかった。明日の昼頃………」「エリートナイツの建物の前の坂で決行だ」グライドたちが頷く。「じゃあ、準備しとけよ」アルボルが立ち上がった。四人は部屋を出ていく。フランメたちは慌てて物陰に隠れた。息を殺す。グライドたちが廊下を歩いていく。その足音が遠ざかっていく。静寂。フランメたちは顔を見合わせた。
グライドたちが完全に去った後 フランメが立ち上がった。ブロンテ、ヴァントも続く。三人とも、驚きの表情。「今の……」ヴァントが震える声で言った。
「マジだよな……?」ブロンテが頷く。「聞いた……グライドが、ルアームとヒュードルを……」言葉が続かない。フランメが拳を握った。「なんで……」声が低い。
「なんでだ……なんで仲間を……たとえ、ムカつくことがあったて、意見が食い違ったって……それを補い助け合うのが仲間じゃないのか……?」怒りが込み上げてくる。ブロンテが言った。「でも……どうしよう」「このまま放っておいたら……」「二人が殺される……」ヴァントが頭を抱える。「やべぇ、やべぇ……どうする……」フランメが、真剣な顔で言った。「決まってる」二人がフランメを見る。「助ける」フランメが強く言った。「ルアームとヒュードルを、絶対に殺させない」
「でも、どうやって」ブロンテが聞いた。
「明日の昼って……もうすぐじゃん」ヴァントも言う。
「しかも相手はモンスターだぞ?」「あのアルボル……強いぞ……」フランメは考え込んでいた。(確かに……アルボルは強い)都市リベルでの戦い。あと時は、ブロンテの兄、ブリッツがたまたま助けに来てくれた。でも、今回は……。「俺たちだけで何とかするしかない」フランメが言った。「まず、ルアームとヒュードルに伝える」ブロンテが頷く。「でも……信じてくれるかな」「信じてもらえなくても」フランメが拳を握る。「俺たちが守る」ヴァントが深呼吸した。「……わかった」「やるしかねぇな」ブロンテも頷いた。「明日の朝、早くここに集合しよう」フランメが三人で拳を合わせた。「よし……」「ルアームとヒュードルを絶対に守る!」三人の決意が固まった。夜の練習場を後にする三人。月が、冷たく照らしている。フランメが振り返った。エリートナイツの建物。明日、あの坂で戦いが起こる。「ルアーム……」「ヒュードル……」フランメが呟いた。「待ってろよ」拳を握りしめる。「絶対に……守ってやる」 その頃。グライドは一人で外を見つめていた。拳を握りしめている。「ルアーム……ヒュードル……」低く呟く。「お前らを……殺す……」その目には、決意と殺意がみなぎっていた。
翌朝。太陽が昇り始めた頃。エリートナイツの建物前の坂道。フランメは、すでにそこにいた。壁に背を預け、腕を組んで待っている。グライドの言葉が、頭から離れない。『殺してほしい』(なんで……仲間を……)
考えても、答えは出ない。(でも、とにかく今は、二人を守ることだけを考えろ)その時、「フランメ!」声がした。ブロンテが走ってくる。息を切らしている。「早いね……もう来てたんだ」「ああ」フランメが頷く。
「お前も早いな」「心配で……眠れなくて……」ブロンテも疲れた顔をしている。二人が待っていると「はぁ〜あ……」大きなあくび。ヴァントが、のんびりと坂を登ってくる。「お前……呑気だな……」フランメが呆れる。「いや、緊張すると眠くなるタイプなんだわ」ヴァントが目をこする。「で、どうするの?」フランメが真剣な顔で言った。「まず、二人に伝える」
「でも……どうやって伝える?」ブロンテが聞いた。フランメが考え込む。「いきなり「命を狙われてる」って言っても……」「信じてもらえないかもな」ヴァントが付け加える。「とりあえず、様子を見よう」フランメが壁の影を指差した。「念のため、物陰に隠れて待とう」三人は建物の影に身を潜めた。そこから、坂道全体が見渡せる。時間が過ぎていく。朝日が高くなり、暖かくなってきた。「来ないな……」ヴァントが呟く。「まだ鍛錬中なんだろ」フランメが答える。その時、「あ……」ブロンテが小声で言った。「来た」遠くから、二人の人影が見える。ヒュードルとルアーム。
いつものように、のんびりと歩いている。鍛錬を始める前なのに走って来たのか、二人とも汗をかいている。「よし……」フランメが立ちあがろうとしたその時………。ブロンテが腕を掴んだ。「待って」「なんだ?」ブロンテが震える声で言った。「あそこ……」指差す先、坂の反対側。木の影にグライド、ソーボ、シーボ。そしてアルボル。四人が、隠れている。
フランメが立ち上がった。「行くぞ」「え、でもグライドたちが……」ブロンテが止めようとするが。「だからこそ、早く伝えないと!」フランメが物陰から出た。ブロンテとヴァントも続く。「よお」フランメが声をかけた。ヒュードルとルアームが振り返る。「あれー?」ヒュードルがのんびりした口調で言った。「フランメじゃないかー」ルアームも驚いた顔をした。「おお、フランメ」「昨日はいい勝負だったね」「ああ」フランメが頷く。ルアームが不思議そうに首を傾げた。「でも……なんでここに?」「話したいことがあってな」フランメの表情が真剣になる。ヒュードルとルアームが顔を見合わせた。「話?」ブロンテが前に出た。「実は……君たち二人とも……」息を呑む。「命を狙われてる」
「命を……狙われてる……?」ルアームが呟いた。「誰に?」真剣な表情。ヴァントが答える。「お前らのところのグライド」ヒュードルの目が、わずかに見開かれた。「それと、ソーボ、シーボ」ブロンテが続ける。「あと……モンスターのアルボルも一緒」ルアームが眉をひそめた。「アルボル……?」「シルバー級モンスターの……?」フランメが頷く。「昨夜、俺たち偶然聞いたんだ」「お前ら二人を……殺してくれって」沈黙。ヒュードルとルアームは、信じられないという顔をしていた。やがて、ルアームが首を横に振った。「それは…‥ない」「え?」フランメが驚く。ルアームが真剣な顔で言った。「君たちのことは信用したい」「でも……グライドが僕たちを殺そうとするなんて……」ヒュードルも頷く。「ありえないなー」「あいつらは、腐ってても今までやってきた仲間だよー」
「仲間って……」フランメが食い下がる。「でも、俺たちは確かに聞いたんだ!」ルアームが静かに言った。
「グライドば、確かに最近様子がおかしかった」「でも……」少し間を開けて。「仲間を殺すなんて、そこまではしない」ヒュードルが付け加える。「これからー、新人能力者武道会でも一緒に戦ってか仲間だしー」ルアームがフランメたちを見た。「それに……」
「さっき、偶然聞いた言ってたが……」疑わしい目で見る。ブロンテが必死に訴える。「本当なんです!」「グライドが、アルボルに頼んでるのを……」「この耳で、聞いたんです!」だが、ルアームは首を横に振った。「ごめん。信じられない」「証拠もないし……」ヒュードルが言う。「とにかく、鍛錬に行くからー」「君たち帰りなよー」そう言って、二人は建物に向かって歩き出した。
「待て!」フランメが叫ぶ。だが、二人は振り返らず、建物の中に入っていった。扉が閉まる。静寂。ブロンテが肩を落とした。「ダメだった……」ヴァントも頭を抱える。「どうすんだよ……信じてもらえなかった……」フランメは、拳を握りしめた。「なら……」顔を上げる。「俺たちが守るしかない!」「え?」二人がフランメを見た。「こんなとこで怯まないのが、俺たちだろ」フランメが笑った。「二人を殺そうとする奴らが来るまで………ここで粘る!」ブロンテが不安そうに言った。「でも……どうするの?」フランメが物陰を指差した。「隠れて待つ」「そして、グライドたちが襲ってきたら……」「どうすんの?」ブロンテが聞く。フランメは拳を握りしめる。「俺たちが、ぶっ倒す!」ヴァントが「昨日数時間寝込んでたやつがよく言うよ」「だが、やるしかねぇな」ブロンテも頷いた。「うん……フランメの言う通りだ」三人は一度帰るふりをして、物陰に隠れた。戦いの時を、待つ。
時間が過ぎていく。太陽が高くなり、昼に近づいている。フランメたちは、じっと待っていた。息を殺して。その時……「来た……」ブロンテが小声で言った。
木の影から、グライド、ソーボ、シーボ、アルボルの四人が現れた。アルボルが腕を組んでいる。グライドが二人に指示を出した。「ソーボ、シーボ」「お前ら、あいつら二人がいるか確認してこい」二人が頷き、建物に飛び込んでいく。グライドとアルボルは坂の下で、腕を組んで待っている。フランメたちは物陰で見守る。(やっぱり……本当だった……)ブロンテが震えている。ヴァントも緊張している。
数分後 建物の扉がゆっくりと開いた。ソーボとシーボが戻ってくる。ソーボがグライドに報告した。「グライド、いたぞ」「二人とも、中で鍛錬中だ」シーボが付け加える。「しかも、結構疲れてるみたいだぜ」
「今なら楽勝だ」アルボルが笑った。「ガハハ!いいねぇ」「二人が出てき次第……」拳を鳴らす。「作戦決行だ」
しばらくして、建物の扉が開いた。ヒュードルとルアームが出てくる。二人とも汗をかいている。鍛錬を終えたばかりだ。「ふぅー、疲れたー」ヒュードルがのんびりと言う。ルアームも笑っている。「今日もいい鍛錬だったね」無防備だ。まさか襲われるとは思っていない。グライドが……動いた。「今だ!」グライドが叫び、飛び出した。ソーボ、シーボも続く。「え……?」ルアームが気がついたが………。遅い。「テメェらは……」グライドが拳を振るう。「ここで死にやがれッ!」ドゴッ!拳がルアームの腹に叩き込まれた。「ぐはっ……!」ルアームが吹き飛ぶ。「ルアーム⁉︎」ヒュードルが驚く、次の瞬間。ソーボとシーボの拳がヒュードルを襲った。パキッ!「がっ……!」ヒュードルも地面に倒れる。二人とも、不意を突かれ立ち上がれない。「お前ら……」ルアームが苦しそうに顔を上げた。「なんで……」グライドを見る。驚愕と、裏切られた痛み。グライドは冷たい目で見下ろしていた。
アルボルが前に出た。「よし、殺せ!」グライドたちがルアームとヒュードルに近づく。その時アルボルが
「だかその前に、虫ケラを潰してからだ!」「そこで隠れきれてるつもりか」フランメが物陰から飛び出した。ブロンテとヴァントも続く。グライドたちが三人を見る。「な……⁉︎」「お前らが……なんでここに……⁉︎」「ガキども……邪魔すんのか」フランメが一歩前に出る。「俺たちがこの二人を守る!」アルボルが笑った。「ガハハハ!面白ぇ!」地面に手をついた。ゴゴ「樹根」ゴゴゴ……太い木の根が、フランメたち三人の方に向かって伸びてくる。「⁉︎」三人が飛び退く。だが、木の根は追いかけてくる。バシッ!バシッ!鞭のように、はたく。「くそ……!」フランメが避けながら叫んだ。「ブロンテ、ヴァント!」「二人を守れ!」「わかった!」ブロンテとヴァントが、倒れているルアームとヒュードルを守る位置につく。
そしてフランメ、ブロンテ、ヴァントのルアーム、ヒュードルの救出作戦が始まった。
次回ヴァントの戦闘シーン




