第8話 フェア
……面白い人だと思った。
アリス姫が走って行く迷いのない後ろ姿を見て、
そして護衛騎士に捕まりそうになって騒ぎながら逃げる声が聞こえて、
心からそう思った。
あそこまで自分にも他人にも嘘をつかない、つこうとしない人は珍しい。
私を無視すると宣言したのは、そういうことだろう。
宣言しなければ、「席についたのに無視するなんて嘘つきだ」といった考えが浮かんだのではないだろうか。
私の嘘を嫌い、嘘つきな私に嘘をつくことすら、嫌う。
可笑しな人だ、本当に。
そもそも無視する云々なんて、私のイカサマがバレる前から可能だった。
正直私は、同じテーブルについたところでまともに会話に応じてくれないだろうと思ってさえいたのだ。
私がイカサマすると見抜き、確認し、落胆した。
それでもなお、私に敬意を払ってくれた。
私に嘘をつくまい、としてくれた。
もちろん私が王子だから、という面もあるだろう。
でもそれは口調が多少なりとも丁寧になるという程度のことで、本質的な対応は同じだったはずだ。
きっと彼女は誰にでもああなのだ。
だって彼女はフェアだから。
「はあ……、こりゃ難しい相手だな……」