第5話 ブルースクリーン
パンッパンのパンである。
軽い食事としてコーヒーと一緒にテーブルの上にならんだ、パンのことではない。
焼き立てでふっくらとしているが、パンッパンのパンとは言えない。
パンッパンのパンなのは、王子の顔のことだ。
私の正面に座っているゼブラ王子である。
……記憶を飛ばすためとはいえ、少し、やりすぎたとは思う。
ちなみに記憶は飛ばなかった。
残念だ。
本当に、残念だ。
「ゼブラ王子、その、申し訳ない。我が娘が粗相をしてしまい……」
「ひへ、ほひひはははふ」
「ほら、王子もこう言っていることですから。気にしないで」
「お前は少しは反省しろ!」
「んげぇっ」
私がへらっと笑っていると、すかさず脳天に父上の拳骨が飛んできた。
綺麗なお星さまが見えた。
「ふふふ、はははほほひひへふへ」
「「どこが!」」
「ほは、ひひははっへはっひゃふ」
王子は満足に口が開けないのでパンを小さ~くちぎって口に運んでいる。
なお、ここから王子のセリフを通常通りの表記に戻す。
書きにくいし、読みづらいし、いい所が無いからだ。
ただし、パンッパンのパンが治ったわけではない。
「アリス姫は話通りの飾らないお方のようだ」
「それで……、ゼブラ王子、貴公は何用で参られたのだ?」
「え? お父様、聞いていたわけではなかったのですか?」
「ああ、訪問したいという連絡は来ていたが、目的や内容については何も。
ただ、お前を交えて話がしたいと」
「はあ……?」
なんだそれは。狙いが見えないな。
その笑みの下で何を企んでいるんだろう?
「これは失礼しました、アーネット様、アリス姫。
内々でお話ししたかったので、伏せさせていただきました。
実はご縁談の話をするために参りました」
「えんだん?」
父上はあんぐりと口を開けた。
「えんだんと言ったか、貴公?」
「はい」
「えんだんとは、縁談のことか?」
「左様です」
「誰に?」
「アリス姫にご兄弟かご姉妹は?」
「いない」
「なら、おわかりでしょう? 聞くまでもないことです」
「誰が?」
「もちろん、私めです」
ゼブラ王子は胸に手を当てた。
「嫡子ではない不肖の身ですが、どうかアリス姫に求婚したく……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
父上は腕を突き出して王子を制した。
父上がここまで取り乱すなんて珍しい……。
……。
縁談?
縁談だって?
私に?
王子が?
たった今、顔面をパンッパンのパンにした相手に求婚?
……んぁ? どゆこと?