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火剣の姫はメッキの王子を焼き尽くす  作者: 甲斐柄ほたて
第5幕 姫と王子は一緒に踊る
44/52

第44話 当然

 目を開けると、ゴミを見るような目で見下ろされていた。


「……おはよう」

「おはよう、ございます……」


 見下ろしているのは、アリス姫だ。

 その後ろには、うっすらと地下の壁が見える。

 壁?

 いや、天井か?

 なんだ? どういう状況だ?

 痛い。眠い。

 ……アリス姫の目がどんどん殺気を帯びていっている気がする。

 肉食動物が狩りを行う直前のように呼吸が研ぎ澄まされていくような……。




 しばらくして、状況がようやく飲み込めてきた。

 私はどうやらアリス姫の膝の上で眠っていたらしい。

 それに気づいた瞬間、私は血の気が引く思いだった。


「す、すすす、すみません! うっ……」


 恐怖から急いで身を起こしたが、気が遠くなるような感覚に襲われた。

 失神こそしなかったものの、起き上がることはできず、再び姫の膝の上に頭を横たえてしまった。

 すっ……、と動くアリス姫の手が見えた。


 あっ。

 私はここで死ぬんだな。

 ライラ、すまない。兄は先に逝く。どうか許しておくれ……。





 しかし、姫は私を絞め殺したり、首をへし折ったりしなかった。

 ただ開いていた私の目をそっと閉じただけだった。


「無理しなくて、いいわ」


 このままでもいいようだ。

 言葉とは裏腹に声は冷たいし、棒読みだけれど……。


 そういえばニンジャはどうしたのだろう?


「ニンジャは……?」

「追い払ったわ」

「追い払ったって……」

「人に優しくするところなんて、見せびらかすもんじゃないでしょ?」

「そうかもしれませんが……」


 そのために人を追い払うのはもっと違うと思うんだけどな……。


「って言ってもすぐ近くにいるわよ。ほらそこ」

「ああホントだ。……何してるんですか、あれ」


 ニンジャはちょっと離れた場所にいた。

 こちらに背を向けて耳を塞いでしゃがみこんでいる。


「王子を置いてあまり遠くには離れられませんって言ったから」

「ニンジャ……!」

「ところで、あいつ、なに? 味方なの?」

「お父上の配下の方ですよ。お会いになったことは?」

「無いわね。あったとしても覚えてないわ」


 かわいそうに。


「え、ちょっと待って。父上、来てるの?」

「いらっしゃってますよ。近くに軍勢を連れてきていると……」


「……それは聞き捨てなりませんね」





 きぃ、と不吉な金属音が暗闇の向こうから聞こえた。

 刃物を抜き放つ音。

 アリス姫がやって来た方だ。


 アリス姫はその音を聞いた途端、瞬時に立ち上がり、私は床に耳を打ちつけた。

 立ち上がり、ニンジャがいないことに気づいた。


「ニンジャ! 敵だ! ニンジャ、どこだ!?」


 返事は無い。

 まさか気を使ってもっと距離を取ってくれたのか?

 気遣いはありがたいが、今は逆効果だ。


「……忍者? 忍者がいるのですか?」


 暗闇から探るような声色が聞こえる。

 しまった。

 迂闊に呼ぶべきじゃなかったか。

 いないなら、いないことにしよう。


「いや! いない! そんな奴はいないぞ!」

「忍者……。それって―――」


 ぎぃん、と刃物と刃物がぶつかるような音がした。

 火花が一瞬散り、短刀をかまえるメイドと、彼女に落下しながら攻撃するニンジャの姿が浮かび上がった。


「同郷の者ですか?」

「へえ、そうですぜ」

「あらま、田舎者くさい喋り方。ちゃんとこの国の言葉、勉強したの?」

「この方が相手の油断誘えるんでさあ」

「それ、敵に言ってもいいんですの?」

「格下にはかまやしねえんで」

「あらそう」

「王子ィ!」


 暗闇の中からニンジャの声が響く。

 激しい攻防が繰り広げられていることが、金属音の応酬と彼の荒い息遣いでわかった。


「大したことねえ!

 大したことねえ相手だが―――おっとそんな怒んなよ―――あんたらがいると存分に戦えねえ!

 行ってくれ! お館様に姫様のことを伝えてくれ!」

「どうやるんだ? 知らないぞ!」

「塔! 塔でさあ!」

「塔だって? 塔に行ってどうする?」

「行けばわかります!」

「じゃあ、どの塔? たくさんあるけど」

「ええと……、すいやせん! 場所はわかりますが、名前までは……。

 北東のやつです!」

「三本あるぞ! どれだ!?」

「えーと、そうですなあ……」

「王子!」


 王子とニンジャの会話にメイドが割り込んできた。


「王族たるあなたが、本気でこの国に反旗を翻すおつもりですか?

 どうかよくお考えに……」

「考えた。その結果がこれだ。

 私は姫を助け、叔父上を追い出し、戦争を止める」

「正気ですか!」

「そのセリフは叔父上に言うといい。きっとカンカンになって怒るから。

 ……で、ニンジャ。塔はどれかな?」

「わかりやせん! どうかご自分の足で確かめてみてくだせえ!」

「いいわよ、行きましょ」


 アリス姫がしびれを切らして私の袖を引っ張った。


「父上に言いつけてあいつの給料は下げてもらいましょう」

「後生です! 姫様ぁ、やめてくだせえ!」


 ニンジャの悲痛な叫びを聞いて、アリス姫はにやっと笑った。


「生きて帰ってきたら、考え直してもいいわ」



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