第43話 見えないパンくずをたどって
「メイドはこっちへ行ったと?」
「そのはずです……。彼女、意外とすばしこくて……。
見失っちまいました……」
「大丈夫です。進みましょう」
「へい……」
私はアーネット王が貸してくれた「人手」とともに秘密の地下牢へとつづく階段を下りていた。
彼はニンジャ。今は執事の格好をしているが、どうも東の国のニンジャとかいう種族だか職業らしい。
私がゴードンに植えつけた疑念の種は見事に芽吹き、姫の居場所が漏れそうだと察したゴードンはこっそりとメイドに姫の移送を伝達した。
それが張った網の一つに引っかかってくれた。
ニンジャがその「こっそりと伝達」の過程をきっちりとおさえたのだ。
余談だがこの「こっそり」というのが、暗号、伝言、トリックが二重三重に仕掛けられているというちょっと聞いただけでは理解できないほど巧妙な代物だった。
というか理解はしていない。聞いてもわからなさそうだったから。
それをほぼ初見で看破して姫の世話役のメイドを割り出したニンジャの優秀さは痛いほどわかったのだが、本人は不思議なほどに自信が無い。
姫の救出のためにももっと自信をもって、いちいち落ち込まないで欲しいのだが……。
話がそれた。
メイドを特定したのち、仲間に伝令を頼んで私を呼んだ。
どうも救出時には私にも同席させろとアーネット王にきつく厳命されていたらしい。
私たちは迷路のような隠し通路を少しずつ進んでいった。
じめじめしている。
レンガを積んで造られた通路だが、古くなっていてどこからか水が漏れてあちこちに苔が生えている。
「古い地下道だな……。メイドは本当にこっちへ?」
「へい。確かです。見失いこそしましたが、匂いが残っています」
「……匂い?」
「……あっしのことを変態みたいな目で見ねえでください。
メイドのつけてる香水の匂いですよ。香水の強い匂いをかぎ分けるくらい、ニンジャにはなんてことありやせん」
「強い匂い、ねえ……」
私にはカビ臭さやネズミの糞やらの匂いしか感じられないんだが……。
「ニンジャというのはすごいのだな」
「へええ、あっしなんてまだまだですがね。……おっと」
少し先を歩いていたニンジャが立ち止まり、二歩ほど下がった。
横をむいて目を細めている。
「どうかしたのか?」
「こっちみたいですね」
ニンジャが指さしたのは通路とは言えないほど狭い隙間だった。
通れないほどではないが、狭い。
壁に服をこすりつけなければ通れないだろう。
「こっち? 本当に?」
「匂いはこっちです」
「メイドは食事を持っていたのだろう? 通れるのか?」
「トレイに蓋をしてれば通れますよ」
「……そんな芸当ができるならサーカスに入れるんじゃないかな」
「どちらがお給金がいいので?」
「メイドだろうな」
「なら、妥当な選択ですね」
通り抜けて服を払う。
予想通り汚れで真っ黒になっていた。
「さあ、行きますよ」
「ああ」
「……王子?」
不意にニンジャではない人間の声が聞こえた。
すぐそばではない。
通路の奥から反響してきたような声だ。
いや、そんなことは問題ではない。
その声は女性の声だった。
聞き覚えのある、声だった。
「アリス姫!?」
暗闇の中からけげんな顔をしたアリス姫の姿が現れた。
いた。
見つけた。
見つけた!
……よかった。
よかった、生きていた。
もしかしたらゴードンが陛下の命で秘密裏に処理したりしていないかと心配だったのだ。
本当によかった……!
気づけばアリス姫はすぐそばにいた。
手を伸ばせば届くようなすぐそばに。
「……おーい? 大丈夫?
ねえ、大丈夫なの、彼……」
「さあ、あっしにはわかりかねます」
「ア……」
「あ?」
「アリス姫ぇえええ!!!」
「うわあああ!? なに!? なっ、なっ!?」
……実は、この時のことを私はよく覚えていない。
アリス姫とニンジャによると、私はアリス姫をいきおいよく抱きしめたらしい。
それはもう熱烈に。
だが残念ながら、私はそれを覚えていない。
なぜなら、
「火炎!昇竜拳ンンン!!」
「ぐげはあああああああ!?」
アリス姫渾身の必殺技を食らったからだ。




