第42話 可愛い私の友達
「アリス様、こちらの手錠をはめてください」
私の食事を運んでくるメイドがそんなことを言ってきた。
トレイには食事の代わりに重そうな手錠が二組載っていた。
「……夕食は?」
「今日は、抜きです」
なんだと?
私がどれだけ夕食を楽しみにしていると思っている?
ここは退屈だ。
暇つぶしできるようなものは、何一つとして無い。
だというのに……!
「ひぃっ!?」
「? どうかした?」
「い、いえ……」
「まあ、いいわ。従うわよ」
大人しく手足に手錠をはめると、鉄格子の鍵が開く音がした。
そうか。移送するのか。
しかし、なぜだろう?
まさか、刑を執行したりするのだろうか。
それとも裁判?
「私、これから死ぬのかしら?」
「え!? いえ、違いますよ。ただの移送です」
「あっそう。なんかあったの?」
「それは……、ええっと私にはちょっとわかりません」
……わかっている顔だな。
並んでいる牢屋の前を鎖の音をじゃらじゃらさせながらメイドの後ろをついていった。
ずいぶんと古い地下牢だ。
掃除などロクにされていないのだろう。
ホコリはつもり、水が漏れ、クモの巣があちこちに張っている。
ネズミの親子も何度見ただろう。
その度にメイドが小さな悲鳴を上げて飛び上がっている。
「ネズミ、嫌いなの?」
「え? ええ、怖いです。すばしこいですし……」
「可愛いのに」
「そうですか? 目が光ってて怖いですよ……」
「そう? ほら、こんなに可愛いのよ?」
「えっ……?」
私はさっき足元を通りかかったネズミを、振り向いたメイドの目の前に突き付けてやった。
「……」
あれ? 無反応?
おかしいな……。
「っぎゃーーーーっ……」
メイドはワンテンポ遅れて悲鳴を上げ、気絶してぶっ倒れた。
私はあわてて倒れかけたメイドを抱きとめた。
持っていたネズミは脱走のチャンスとみて、地面にダイブしてどこかへと走り去っていった。
「あらら、どうしたのかしら。
かわいそうに。寝不足かしらね」
私はメイドをそっと床に横たえて顔を上げた。
ずっとずっと先まで牢屋が続いている。
暗闇に閉ざされるまで。
「この先に出口があるってことでいいのかしら?」




