第4話 親バレするお前が悪い
ゼブラ・ゼニス・ゾンダーク。
ゾンダークの王子。
いまは亡き先王の遺児。
まるで作り物のような美しい容姿を持ち、それに惹かれた貴族の女性たちと浮名を流してきた。
いずれも長続きはせず、相手の家は遠からず没落するという。
噂話だ。
いずれも噂話にすぎない。
けれど、それが私が知っているゼブラ王子の全てだ。
***
「ど、どういうことだ、アリス……」
父上が珍しく狼狽している。
かわいそうに、また寿命が縮んだんじゃないかしら?
「さきほどお会いしましたの。
私が外で荒事に巻き込まれた際に―――」
「確かに挑発したのは相手ですが、先に手を出したのはアリス姫でしたね」
ゼブラ王子は即座に訂正した。
私がぎろりとにらむと、王子は両手を肩のあたりまで上げて「私は無害な人間です」とでも言いたげな笑顔を浮かべた。
食えない男だ。
それはそれとして、父上はため息をついた。
「アリス、民に手を出したのか」
「ごめんなさーい」
「いや、それは別にいい」
いいのか。
いや、そうよね。いいよね。
可愛い一人娘が襲われそうだったんだから、仕方ないよね。
「お前とケンカになるということは、相当血の気の多いタイプだったのだろう」
……私があれと同じレベルで血の気が多いってことだろうか?
「そういう危険分子を間引いてもらう分には、構わん。だが……」
父上は椅子のひじ掛けをガンと叩いた。
「王子に見られるとは、どういうことだ!?」
「そんなあ、理不尽です。
王子様だって変装してらしたのだから、わかるはずありませんわ」
「普段からお淑やかにしていないから、このようなことになるんだ!」
「お父様、先ほどとおっしゃっていることがひっくり返っていますわ。
落ち着いてくださいまし?」
「私は落ち着いているっ!」
父上ははーっ、はーっと荒い息を吐きながら怒鳴った。
落ち着いている人間にはとても見えない。
これほど矛盾した発言もそうそうないだろう。
「まあまあ、ご両人、落ち着いてください」
ゼブラ王子は相変わらずのメッキスマイルで言った。
「私は気にしていませんから。
もちろん口外などいたしませんし、火炎昇竜拳も忘れますので」
「火炎昇竜拳……?」
父上が目を丸くする。
「なんだね、それは……?」
「アリス姫の必殺の拳です。それはもう清々しいほどに真っすぐな拳で……」
いきなりなに言ってるんだ、こいつ!?
やめろ!
私が寝る間も惜しんで一生懸命考えた技の名前を、父上に暴露するな!
護衛騎士のウォールだって知らないんだぞ!
「うわあああ! やめろぉ! 黙れぇえええ!」
気づけば私はゼブラ王子に飛びかかっていた。
彼をソファに押し倒し、頬に往復ビンタする。
記憶は脳に蓄積される。
こうすれば、きっと痛みと衝撃と振動で記憶には残らないはずだ。
うん、きっとそう。
「あばばばばばばばばばば……!」
「忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ!」
「ひ、姫様!?」
「アリス! 何をしている!? ウ、ウォール! アリスを押さえろ!」