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火剣の姫はメッキの王子を焼き尽くす  作者: 甲斐柄ほたて
第4幕 王子の嘘は、私が全部焼き尽くす
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第36話 夜会

「提案って?」


 ぎらりと光る抜身の剣を見て、メイドたちは腰を抜かした。

 ちょっと脅かし過ぎただろうか。

 しかし、あまりふざけたことを言われても面倒だ。


「ひい! てっ、提案は、ひっ、姫様もやっやややや……」

「ややややや? なによ、さっさと言いなさい」


 私が剣を持ったまま近づくと、メイドの一人が噛みまくった。

 すっかり怯えた彼女に代わって隣のメイドが続ける。


「姫様も出てみませんか! 夜会に!」

「? 招待されてないけど?」

「メイドに変装すれば潜り込めますよ……」


 最後の一人が他のメイドの後ろに隠れながら言った。


「なるほどね。でもどうして?

 私を助けたってアンタたちに良いこと無いでしょ?」

「私たち、ゼブラ王子のファンなんです!」

「へえ……?」





 このメイドたちが王子の、ファン。

 そうか。

 私は彼女たちをあらためて観察した。

 私より年下のようだ。

 肌つやはよく、元気で、私ほどではないが綺麗な顔立ちをしている。

 ……王子を誘惑しないとは限らない。


 私は剣を構えた。


「斬っておくか……」

「な、ななななんでぇ!?」

「王子を誘惑するかもしれない。

 後顧の憂いは断つべきだ」

「見てるだけ! 見てるの専門です! 私たちは!」

「誓う?」

「誓います、誓います!」

「わかったわ」


 私は剣を収めた。

 冗談で持っているのも、いい加減物騒だし。


「いいわ。あなた達の話に乗りましょう」

「ほっ……」

「で? 私のメイド服は?」

「あ、取ってきます」

「ここに無いの?」

「え、ありませんが……」

「脱いで」

「え」

「脱いで。それとも、脱がされたいの?」

「ぬっ、脱ぎます! 脱がせていただきます!」

「わー、ストリップだー」

「もう! サっちゃん、ちょっとくらい助けてよ!」

「むり」

「サっちゃぁああーん……!」

「いいから早く脱いで! 王子の用事が終わっちゃうじゃない!」

「……はい」



 ***



 がらがらがら……。

 料理をたくさん乗せたワゴンをゆっくりと運ぶ。

 できるだけ、ゆっくり。

 さもなければ、盛り付けられた料理は崩れ、スープは零れ、ワインの瓶は倒れてしまう。

 気を抜けば地獄絵図と化してしまう。

 そう、ちょうどこんな具合に。


「意外と難しいのねえ……」


 倒れそうになったシャンパンボトルのバランスを取るべく、ワゴンを急旋回させ、ボトルを救った。

 他のほとんどすべてをより一層台無しにしてしまったが……。


 ワゴンにむけられる貴族たちの驚愕の視線を無視して進んでいく。

 目指すのは、この夜会の中心。

 全員の視線と意識が最も集まる場所。

 この国の王がいる、ステージだ。


 貴族たちの隙間から、ステージの上が少し見える。

 玉座にふんぞり返っている王と、王にひざまずいて挨拶している王子が見えた。

 王は白髪交じりの初老の男だった。

 よく肥えた頬とあごを反らせ、王子や私たちを見下ろすように見つめている。


「ゼブラよ」


 王が言った。声を出すたびに頭全体が動き、唾が飛んでいる。


「兄上の遺児として、日々を自堕落に暮らす貴様に任せたい仕事がある。

 心して聞くがよい」





 ……あ?

 なんだ、この王は。

 王子に対してなんだその態度は。

 何様のつもりだ?

 ああ、王様だった。


「承知いたしました、陛下。

 いかな任務であれ、必ずや達成してご覧に入れましょう」

「ううむ! よい返事である! その軽薄な顔に似合わず脳みそは詰まっているようだな!」

「光栄です」

「出来損ないの王子ゼブラよ、兵を率いてルナエを攻めよ!」






 ……。

 ……。

 ……ん?

 な、なんだって?

 いま、なんて言ったコイツ。

 とんでもないことを口走らなかったか?

 我が国を、ルナエを攻める?

 私は夢でも見ているのか?


 しかし、残念ながら夢でも、聞き間違いでもないらしかった。

 腕をつねれば痛いし、

 王子も、周囲の貴族たちも唖然とした表情を浮かべている。


「……陛下、いま、なんと?」

「聞こえなかったのか、愚鈍め!

 ルナエを攻めよと言ったのだ!

 篭絡させるために貴様を行かせたというのに、いつまでも待たせおって……!

 貴様をないがしろにし、ゾンダークひいては我が王家を侮辱したあの忌々しい親子を生け捕りにして余の前に連れてこいと言っておるのだ!」

「しかし……」

「しかし、なんだ!

 余に口答えするのか、恩知らずが!

 妹が大事なら、黙って余に従っておればよいのだ!」

「……承知、しました」


 そう、王子はハッキリ言った。

 それを聞いて、私は、ふっと視界が暗くなったような気がした。

 王子が、私の敵になることを選んだ。

 いや、そんなことは最初からわかっていたことだ。

 最初から予想できたことだったはずだ。

 ならなぜ、私は動揺しているんだ?


「ふん、それでよい。

 さあ、皆の衆、聞いての通りだ!

 我が国はルナエを攻める!

 賛同する者は手を叩くがよい!」




 貴族たちは一斉に手を叩き、王に賛同する声を上げた。

 みんなほとんど同じ顔で手を叩いている。

 顔には王を称賛する笑みを貼りつけながら。

 脳裏でそろばんをはじきながら。


 ただ、王子だけが青ざめた表情を浮かべていた。



「陛下……」

「おお、どうした! 顔色が悪いぞ!

 まさか、余の下した仕事に不満でもあるのか?」

「いいえ」


 王子は続けた。


「まさか。私も、ルナエの領主殿と火剣姫のことを憎々しく思っておりますとも」

「そうかそうか! それならよい!

 そなたのもたらす吉報を楽しみにしておるぞ!」

「ええ、どうぞ、お待ちください、陛下」

「うむ」

「それはそうと、私にも陛下のお耳に入れたいことがあるのです」

「ほう! そうか! 貴様が朗報をもたらすとも思えんが!

 今宵はめでたい夜だ! 聞いてやろう! 言うがよい!」

「……近くへ寄ってもよろしいでしょうか?」

「内密な話か? いいだろう!」


 王は護衛の騎士が顔色を変えたのにも気づかず即答した。

 王子はさっと音もなく、王に近づいた。


「では」


 王子の右手がピクリと動いた。

 護衛の騎士が目をむく。





 私は、王子が何をしようとしているのか、わかった気がした。

 ゾンダークの王に近づき、剣を抜いて斬り殺す。

 そのつもりじゃないか?

 本当は私たちに剣を向けるのが嫌で、頭に血が上って、感情のままに王を殺そうとしている……。

 違うだろうか。

 自分に都合のいい考え方だろうか。

 認めよう。

 私は王子が好きだ。

 だから、たぶん、自分に都合よく考えてしまっている。

 しかし、王子のさっきの発言は真実だろうか。

 本当に王子の本音だったのか?

 私はやはり、信じたくない。

 いや、王子があんなことを言うなんて信じられない。


 そう。

 そうだ。

 だから、これは怒りに身を任せる、私のような人間の役目なのだ。

 王子には似合わない。

 王子はいつもどおり、メッキのような笑顔をうかべていればいいのだ。





「ゾンダークの王と王子よ! 覚悟しろ!」


 私は叫ぶと同時に、かぶっていた黒髪のかつらを投げ捨て、隠していた剣を抜いた。


「私はアリス・アミラ・アーネット! ルナエの火剣姫だ!

 私の国を攻めるだと? 不届き者め!

 今からお前たちを叩き斬ってやる!」


 王はバカみたいに口をぽかんと開いて私を見ている。

 護衛も困惑している様子だ。


 王子も、手と足を止めて私を見ている。

 驚愕と、絶望が混じった目で見つめている。

 よし、王子は止まってくれた。

 これでいい。

 後はもう、どうなってもいい。


「どけ! 貴族ども! 焼いて斬るぞ!」


 私が叫びながら剣に火を灯すと、「余興か?」と戸惑いの目で私を見ていた貴族たちが蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。

 王へと続く道ができあがる。


 私は剣を構え、その道を走った。

 壇上へ飛び上がり、目の前に躍り出た護衛騎士と対峙する。





 左斜め上から、斬り下ろしてくる。

 しかし、私は特に脅威は感じていなかった。


(ウォールよりずっと弱いな。

 剣速が遅い。あと一歩分、余裕がある)


 私はさらに前に踏み込み、相手の脇腹に飛び込むように駆け抜けた。

 頭上に構えた剣で騎士の手首を、するりと斬った。

 騎士のうめき声が聞こえる。

 あと二歩も進めば剣が落ちる音も聞こえるだろう。

 殺すつもりも、二度と剣を握れないようにするつもりも無い。

 ただ、今は邪魔してほしくないだけだ。





 王を目前にして私の前に立ちはだかったのは、王子だった。

 問いかけるような目で、剣を構えて立っている。


「ごきげんよう、ゼブラ王子。お久しぶりですね」

「なぜ、このようなことを」

「わからないんですか?」


 王子の剣に、自分の剣を叩きつけた。

 それを弾いて、王子も私に斬りかかる。


「あなたは、私を裏切った。私を、父上を、ルナエを。

 最初から騙すつもりで、取り込むつもりで会いに来ていた。そうでしょう?」

「否定はしません」

「それが理由です。不十分ですか?」


 言葉と同時に斬撃を交わしながら、私たちは壇上でくるくると回った。

 まるでダンスを踊るように。

 ダンスの代わりに剣戟で、というのはいかにも私らしい。


「あなたのことが、気に入らなかった。最初から」

「どうしてですか?」

「そのメッキのような笑顔が、気に入らなかった。好きじゃなかった。

 これは嘘なんです、誰か本当の私を見てください、って言わんばかりのその顔が、心底嫌いだった」

「そうですか、それはそれは。お父上に感謝しないと」

「なんでよ?」

「私はあなたのこと、好きでしたから」

「ああ、そう」


 私は下から王子の剣を払いのけた。

 王子は剣から手を放さなかったが、刀身は宙に浮いている。


「だったら、最後まで面倒見なさい」



 私を殺して。

 私の命がけの、最後の願いを、叶えて。

 私が助けたかったあなたを、助けて。


 王子は剣を手放して、私に体当たりした。

 私は倒れ、その上に王子が覆いかぶさった。

 抵抗しないよう、手足を押さえつけられる。


「……甘いわね」



 こうして多分、世界一偶発的な暗殺未遂事件は幕を閉じた。



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