第31話 裏口から忍び込む麗しき姫
「侵入者はここだぁあああああー! うぉおおおおおー!」
ウォールの決死の叫びがどこからか聞こえてくる。
そのおかげで外壁まわりを走っていても兵隊たちは素通りしてくれた。
ちらちらと見られはしたが、「夜会で迷子になった令嬢かな?」と思われているらしい。
ドレスを着てきたのは正解だったようだ。
城の周りをぐるりと回っていると、ゴミ捨てに来たメイドたちが話しているのを見かけた。
「見た? あのヒゲ親父、エロい目でこっち見てたんだけど!」
「見た見た、やよねー。男爵程度で私たちに色目なんか向けるなっての!」
「ぎゃははは! 言えてる言えてる!」
「イケメンだったらいいけどさ!」
「それはそう!」
「ぎゃははは!」
……なんだか見てはいけないものを見ているようだ。
メイドさんも色々と大変なんだな。
うちのメイドはどうだろう。今度から気をつけよう……。
「すみません、夜会の会場はどちらでしょう?」
「え!?」
私が声をかけるとメイドはあわてて居住まいを正した。
サボっておしゃべりに興じていたところを見られた、と思ったらしい。
チャンスだ。
私が実は招待されていない侵入者だとバレる前に案内してもらおう。
「お手洗いに行っているうちに、迷ってしまいまして……。
もしよければ会場までの道を教えてくださると、ありがたいのですが……」
「もちろんです。こちらへ」
「ありがとう……」
しめしめ。
これで会場まで行ける。
犠牲になったウォールも浮かばれるだろう。
よくやった。もう戻っていいわよ。
彼女たちの案内で城の中への入り口までたどりついた。
これは……わかりにくい。
外壁に完全に溶け込んだ配色だ。
彼女たちを見つけられたのは幸運だった。
迷子を装ってうろうろ探していたら日が暮れていただろう。
扉をくぐって中に入った。
そこは厨房だった。
食材や皿がうず高く積まれ、シェフたちがせっせと料理を作り出している。
私たちは邪魔をしないようにその脇をすり抜けて厨房を抜けた。
厨房を出ると廊下だった。
執事やメイドが料理を手に行き交っている。
中には夜会を抜け出した貴族の姿もちらほらと見える。
どうやら潜入に成功したらしい。
夜会に紛れ込めたとして、王子に会えるだろうか。
話ができるだろうか。
……何を、話せばいいんだろうか。
「ところでお嬢様はどちらのご出身ですか?」
「ルナエですわ」
しまった。
考え事をしていたせいで、とっさに本当のことを言ってしまった。
「ルナエ? ということは、アーネット様ですか? あの?」
どの?
「え、ええそうですわ。お恥ずかしい。
どのような噂をお聞きになったのかしら。
きっと嘘よ、それは」
「ええっと、そうですね。美人で、えーっと……、常識にとらわれない、とても自由な……」
どうやら街で流れている噂と大差ないらしい。
冷や汗を流しながらセリフを考えているところを見ると、そうとしか思えなかった。
「……それと、ゼブラ王子がご執心!」
「ああ、そうだわ! ゼブラ王子がご執心のアーネット様!
あなたのことだったのですか!?」
「ふふふ……、どうでしょう。人違いでは?」
「さっきご自分でアーネット様だとおっしゃったじゃないですか……」
「あれ、でも、アーネット様って招待客リストに載ってらっしゃいましたっけ?」
ちょっとぼーっとした感じのメイドが何気ない調子で言った。
ここで取り乱してはいけない。
平静を装い、やんわりと否定しなければ……。
「そっ!」
「「「そ?」」」
「そっ、そそそそんなワケないでしょう!?
私はれっきとした、ちゃんと予約、じゃなくて招待されたルナエの王女アリスですわ!」
「「「……」」」
……バレちゃった?
「……何をしているのですか、アリス姫」
廊下の先に、王子が立っていた。
相変わらずよくわからない笑みを浮かべて。




