第30話 招かれざる客
「いいですか、姫様。この角度で」
「いいわ、やって」
ウォールがぐっと肩に力をこめた。
「姫様、ご武運を」
「ええ、必ず王子にあってくるわ」
王城の堀の外。
ざっと城壁の周りを一周して、警備の手薄そうな場所を選んだ。
そしてウォールの手に乗って、投げてもらう。
中に入れたら、あとは、なんか上手くやる。
これが私たちのゾンダーク城潜入計画の全てだった。
風を切って城壁を跳び越える。
ウォールに投げ飛ばしてもらうのもずいぶんと久しぶりのような気がする。
そう、デートの後で国境まで王子を追いかけたときかな……。
いや、三か月前にも投げられてたわ。
ライラちゃんと一緒にレクリエーション感覚で飛んでた。
また今度ライラちゃんと一緒に飛ぼう。
すたっ、と芝生の上に着地する。
慣れないヒールとドレスだが、これくらいは問題ない。
退屈なパーティの途中で城のベランダから飛び降りて抜け出すなんてしょっちゅうだし。
今日は、逆に侵入するっていうところがいつもと違うけど。
……さて。
左を見る。
誰もいない。よし。
右を見る。
誰もいない。よし。
正面を見る。
見回りの兵隊、三人組。
目が合う。
驚いた表情でかたまっている。
最悪。
「しっ、侵入者! 侵入者だ!」
「ちっ」
ピィイイイイイイーーーッ!
すぐさま夜の静寂を切り裂く警笛が鳴り響く。
私は走りだした。
とにかくこの見回りの兵たちをまかなければならない。
殴って気絶させてもいいが、バレたら後で王子に何を言われるかわかったものではない。
逃げるだけにすると決めていた。
が。
「姫様ァアアアーーッ!」
どぉおおおおん。
すさまじい着地音。
振り返るまでもない。
ウォールが降って来たのだ。
警笛を聞いて、飛んできてくれたのだ。
「姫様、ここは任せて、行かれませぃ!」
「ありがと! 帰ったら父上にボーナス頼んだげる!」
「ありがたい! これでしばらく妻と娘にいびられなくてすみますな!」
え、いびられてんの?
妻と娘に?
その図体で?
私は走りながら、知りたくなかった余計な情報に混乱した。
いや、忘れよう。
今は忘れよう。
今は王子を探すこと、王子に会うことが先決だ。
ウォールの家庭事情は気にしない。
でも後で何か考えてあげよう。
ウォールにはお世話になってるし。
解決するかどうかは、わからないけれど。




