第29話 誰かアポイントメントを取ったか?
城下町は、旅券を見せるだけで入ることができた。
ま、私は姫だから当然だけどね!
「申し訳ありませんが、来客リストにお名前が載っておりません。
あらためて手続きを踏まえてお越しください」
……。
城下町には入れたが、お城に入るのは事前の連絡が必要なようだ。
門番に笑顔で断られてしまった。
つらい。
振り返ると、王城へ入るための貴族の方々の馬車がずらーっと並んでいた。
門番の話では今夜、城で夜会が開かれるそうだ。
その客たちらしい。
御者は青い顔をしながら、跳ね橋の上でUターンした。
馬車は、行列の横を肩身を狭くしながらトボトボと戻っていく。
窓から、こちらを見ている顔が見えた。
いならぶ馬車の窓から、みな同じような顔でこちらを、私を見ている。
白い顔をした太った男女が、人形のような作り笑いを浮かべていた。
口元を手で隠しているが、目元にかすかな侮蔑を混ぜている。
私はすぐにカーテンを閉めた。
怖かった。
自分が嘲りの視線を向けられることが、ではない。
彼らの笑い方が怖かったのだ。
自分がどれほど醜く、あさましい存在になっているのか、気づいていない。
それは、同じような人形がすぐそばにたくさんいるからだ。
この馬車の列、全てに彼らと同じような人形が乗っているのだ。
みんなで並んで、城の中へ進んでいく。
四角い城壁の中へと。
まるでおもちゃ箱の中へ帰っていく人形の列のよう。
彼らは自分たちが人形だということに、いつか気づくのだろうか。
果たして、気づいた方が幸せなのだろうか?
「早く帰りたい……」
私は宿屋のベッドに寝転がりながらぼやいた。
「王子はどうなさるんですか?」
ついてきたメイドが窓を開け放って言った。
窓の閉まっていた部屋の空気はこもっていて、息苦しかった。
しかし、窓を開けても風は無く、空気はこもったままだ。
仮に空気が入れ替わったとしても、息苦しさが解消されるかは疑わしかった。
この街そのものが、息苦しいのだ。
まだ数時間しか滞在していないが、どうにもそう感じる。
それは貴族からだけじゃない。
道行く人からも、怯えたような敵意の視線を感じる。
ルナエでは考えられない光景だ。
知り合いの顔を思い浮かべると、誰もかれも笑っている。
道行く人は楽しそうだった。
そう見えた。
何が違うんだろう……。
わかるのは、ここはルナエじゃないってことだけ。
「ねえ、ウォールを呼んでくれる?」
私はベッドから起き上がってメイドに言った。
メイドはすぐにウォールを連れてきた。
私は宣言した。
「夜会に忍び込むわ。そこで王子に会ってくる」




