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火剣の姫はメッキの王子を焼き尽くす  作者: 甲斐柄ほたて
第4幕 王子の嘘は、私が全部焼き尽くす
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第27話 花を折る

 王子とはじめて会ってから、一年が過ぎた。

 王子は月に一度、ライラちゃんはその半分くらいの頻度で会いに来た。

 まことに残念なことに、ライラちゃんはほぼ常に王子同伴だった。


 仕方ないのだ。

 後で聞いたことだが、ライラちゃんは病弱で、本来は自分の屋敷に閉じこもって静養しているらしい。

 だから遊びに来れるのは体調がいいときだけ。

 最初にここまでやってきたときは、こっそり抜け出して家出同然だったそうだ。


 正直、まだ彼らの家庭事情というやつを私はわかっていない。

 というか、意図的に避けてきた。

 大国の王家の事情なんて、ちょっと聞いただけでお腹いっぱいになるほどに奇々怪々なのだ。


 王子の腹の底は探りたいが、見たくもないものは見たくない。


 今はただ、ライラちゃんがやってくれば、ただ楽しく遊んでいたい。

 それだけだ。

 王子はおまけである。


 王子が一人で来たなら……、それはその時々だ。

 ただ紅茶を飲むだけの時もある。

 お忍びで街をぶらつくことも。

 またダンジョンに行ってみたこともある。

 バカみたいなことでケンカになったこともある。

 まあ、私が一方的に怒っただけだが。





 一番変化したものは、私だ。

 王子のメッキにも慣れてきた。

 彼らの事情を透かし見るうちに、メッキも仕方ないんじゃないかと感じるようになった。

 無理にはがすようなものじゃないと……。

 そんな風に、思うようになってきた。



 けれど、久しぶりに王子が一人でやって来た時は、仮面が甘いと感じた。

 その直感は正しかった。

 王子は思い詰めていたのだ。


 その日の晩―――あの日以来、王子が我が家に泊まる際は必ず閉じ込められている―――、私の部屋で、王子は言った。


 ひざまずいて、指輪を差し出しながら。


「アリス姫、私と結婚してください」





 こんな日が来ることは、わかっていた。

 いや、こうして直面してみるとやはり、わかっていなかったかもしれない。

 少なくとも、最初はわかっていなかった。

 けれども繰り返すうちに、こういった場面を想像することも、まあ、たまにあった。

 夢に見ることもあったし。


 しかし、やはり、わかっていなかったのだ。

 想像することと、実際に目の前で指輪を差し出されるのは……。

 なにかが違うのだ。

 なにかが……。


「顔を上げてください、王子」


 声が震えていた。

 こんなに動揺したのはいつ以来だろうか。

 思い出せない。


 王子が顔を上げる、その直前に私は立ち上がり背を向けた。

 彼の顔を見る勇気は出なかった。


「申し訳ありません。私には、まだ、心の準備ができていません」

「……そうですか。わかりました」


 王子が笑っているのがわかった。

 あのメッキのような笑みを浮かべている。

 見なくてもわかる。

 その笑みが、珍しく少し崩れていることも。


 見なくてもわかる。



 指輪をしまう音がする。

 王子の指が震えているような気がした。

 見えないが、そんな気がした。




 私はまだ知らなかった。

 この私の不覚悟が厄介な事態を引き起こすということを。


 知らなかったんだ。



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