表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
火剣の姫はメッキの王子を焼き尽くす  作者: 甲斐柄ほたて
第3幕 姫も時には嘘をつく
26/52

第26話 嘘も時には本当になるのか?

 寝るとなれば、姫の行動は早かった。


 まず寝間着に着替えるのが早かった。

 早いのではなくて、速かった。

 私にタオルを投げつけ、顔に張り付いたそれをはぎ取った時にはもうすでに着替えは終わっていた。

 というか、振り返った時にはベッドへと突入する影しか見えなかった。


 早着替えしたのなら、なぜベッドに急いで入る必要があるのか疑問だったが……。

 勝手な想像だが、姫は速く着替えすぎて服の一部を破ってしまったのではないだろうか。

 それで急いでベッドに入った。

 いや、……いくらなんでも、これが正解ということはないか。

 不正解であってほしい。




 私は寝間着の用意など無かったので、そのまま床に横になった。

 カーペットが敷いてあるものの、固い。

 当然だ。床なんだから。

 そして寒かった。

 湖のほとりの街だからか、夏なのに寒かった。

 夜に吹く風は冷たい。

 タオルでくるまって床の上に寝転がっただけでは、寒くて仕方なかった。

 私は音を殺して、タオルの中で手足をこすり合わせた。


「……寒いの?」


 思ったよりも、私は暖を取るのに必死だったらしい。

 すぐそばに姫が立っていることにも気づいていなかった。




 カーテンは開いている。

 彼女は月明かりをバックにして、無表情で私を見下ろしていた。

 普段は後頭部でポニーテールになって結ばれている髪が解かれ、垂れている。

 普段は赤みがかってみえる髪が、月光を吸ってクリーム色に光っている。

 生地の薄いネグリジェの下に、彼女の身体の輪郭が浮かび上がっているような―――。


「ねえ、聞こえなかったの?」


 その言葉で私は自分が姫に見とれていたことに気づいた。

 すぐに起き上がり、立ち上がった。


「え、ええ、大丈夫です。寝ぼけてました」

「……寒くないの?」


 姫は呆れたように、腕組みして聞いた。

 背筋を冷や汗が流れていくのを感じた。


「えっと、寒いです」

「……」


 姫は仏頂面のまま、ほんの一瞬私の顔をにらんだ。

 そして、ちらっとベッドを振り返り、すぐに首をふった。

 次にタンスへと向かい、中にしまわれている物を片っ端から取り出し、犬が穴を掘るように後ろへ放り投げ始めた。

 タオル、タオル、タオル、服、肌着、服、肌着、毛布……。

 ん?

 なんだか見てはいけない物も舞っているような気がして、すぐに目を逸らした。


「ん、これ」


 そう言われて振り返ると、タオルやら毛布やらを山のように抱えて姫が立っていた。

 顔も見えなくなっている。

 それをどさどさと落とすと、姫はベッドへと戻っていった。


「じゃ。私は寝るわ」

「は、はい。ありがとうございます……」

「んー……」


 眠いのか、返事はあいまいだった。

 散らかしたタオルや服はそのままにして、山のような量の毛布も渡しっぱなしにして、彼女はベッドに潜っていった。

 すぐに規則正しい寝息が聞こえてくる。


「ふふ……」


 なんだか自然と笑いがこみあげてきた。

 寒そうにしている相手に毛布を渡す。

 それだけのことだ。

 それだけのことが、いかにも姫らしかった。

 それだけのことが、嬉しかった。

 ここにいてもいいと言ってくれたような気がしたから、かもしれない。


 私は渡された毛布にくるまって眠った。

 ただ、多すぎたので使ったのは三枚だけだ。

 おかげで暖かく、快適に眠ることができた。





 でも夢の中で、姫に怒られる夢を見た。

 姫はものすごく怒っていた。

 私は十字架にはりつけになっていて、姫は私に火あぶりの刑を執行した。

 全身が熱くなり、汗が玉のように流れた。

 私は叫び声を上げて命乞いをしたが、姫は楽しそうに笑って薪を投げ入れていった……。




 ***





 何事も無く、翌朝を迎えたようだ。


「……」


 衣服、ベッドに乱れは無い。

 私は、寝相はいいのだ。


 起き上がり、王子の様子を見る。

 私が渡した毛布の山の隣で、数枚の毛布にくるまって眠っていた。

 普段の大人びた表情とは打って変わって、子供のような無防備な表情。


 ……なんとなく、面白くない、と思った。


 何が面白くないかは、よくわからない。

 ただ、何かが気に食わなかった。


 とりあえず、毛布を全部使わせよう。

 全部かぶせれば使ったことになるかな?


 いいアイデアだと思った。

 面白くないのが解消されそうだ、と。


 だから実行した。

 無垢な表情が、苦悶に歪んでいく。

 夢の中で苦しんでいるらしい。

 いい気味だ。

 人の気も知らないで、一人だけ気楽に眠っていた罰。




 ああ、本当にいい気味だ!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ