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火剣の姫はメッキの王子を焼き尽くす  作者: 甲斐柄ほたて
第3幕 姫も時には嘘をつく
25/52

第25話 想定外も時には二度起こる

 食事。

 父上、私、ライラちゃん、そして王子の四人で同じテーブルを囲んで食事した。

 話題は主に、ライラちゃんの今日の探検について。

 穏やかで、ほほえましい食事会になった。

 王子のメッキではない笑顔を見た気がした。


 風呂。

 勝手がわからないであろうライラちゃんと一緒に風呂に入った。

 メイドと一緒に入ってもらってもよかったけれど、どうも私と一緒に入りたいと言ってくれたらしかった。

 死ぬほど嬉しかった。

 入った。

 遊んだ。

 泳いだ。

 楽しかった。

 あ~、ホント、妹になってくれないかな、ライラちゃん……。





 そして、今。

 場所は私の部屋。

 いるのは、私と、王子。

 扉には、鍵。

 それも外から。

 なぜ?

 父上の策略だから。


 要するに、既成事実というやつを作っちまえという父上の作戦だ。


「……納得いかないわ」

「ああ、ちょっと強引ですよね」

「そうよ。強引だわ。でも、そこが納得いかないんじゃなくて」

「?」

「私に散々お淑やかにしろ、とか言っておいてさ。

 街の人たちも私のことおてんばだの、支離滅裂だの、危険姫だの、好きに言ってるけどさ。

 父上の方がよっぽどヤベーことやってんじゃん!

 なんで私ばっかり言われるわけ!?」

「ああ、そういう……」

「なにか!?」

「いえ、なんでもありません」


 王子は降伏のサインとして両手を上げて見せた。





 私たちは閉じ込められたのだ。

 寝る前にちょっと話しておきなさいとか言われて。

 まあ、それくらいならいいかな、と思った。

 なんかめっちゃ美味しそうなケーキも用意されてたし。

 めったに出されない、お酒も。

 ライラちゃんもケーキ食べるかな、と思ったんだけど、もう寝ましたよ、と王子も言うし。

 まあ、内緒でケーキを王子と食べるのもいいかな、って思いましたよ。

 思いましたとも。

 でもさ、食べ始めてすぐに、


 がちゃん、て。


 がちゃん、は無いでしょう。がちゃんは。





「さて、出ますか……」

「あら、王子は出たいの?」


 ケーキを食べ終えると、王子は立ち上がった。

 王子は私の質問にメッキの笑顔をはり付けて言った。


「ええ。こんなつまらない展開であなたを手に入れるつもりはないですから」

「ふーん」

「……一応、決め台詞のつもりだったのですが」

「あら、そうだったの」

「本当にあなたは難しい」

「ふん」


 私はグラスにつがれたワインを飲み干して立ち上がった。


「出るなら作戦が必要よ。

 私も最近、出るのに苦労してるの。

 今日は一際厳重に違いないわ」

「どれだけ脱走を繰り返しているんですか?」

「自由を得るのに必要なだけ」

「数えきれない、ってことですね」


 私は自分の部屋を歩いて出入り口を案内した。

 この部屋には扉が二つあった。

 一つは廊下へ、もう一つは隣の部屋につながっている。

 私の部屋はこの部屋と隣の部屋だ。

 いちいち廊下にでなくとも片開きの扉でもう一方の部屋に行くことができる。

 ……のだが、今はどちらの扉も鍵をかけられていて、出入りできない。


 だから私たちはこの部屋から出られない。

 残りの出入り口は窓だけだ。

 さて、どうしたものか。


 私が思案していると、王子が不可解そうな顔で手を挙げていた。


「あの……」

「なに?」

「扉を無理矢理こじ開けたりはしないのですか?」

「……私のこと、どう思ってるの?」

「す、すみません」

「私だって好き好んで物を壊したりしないわ。特に自分の物はね。

 もしここが私の部屋でなければとっくに壊してるけど」

「ああ! なるほど!」

「心の底から納得した声出さないでよ。

 それに多分、今日はそれも対策されてるわ」

「そうなんですか?」

「ええ、ほら」


 私は入口の扉をノックした。

 しかし、何の音もしない。

 分厚い石の壁を叩いたような感触だった。


「いてて……。ほら、魔法で固定されてる。ちょっとやそっとじゃ、開かないわ」

「いつもその魔法がかかっているんですか?」

「いいえ」

「どうしていつもかけておかないのでしょうか……?」

「どうして、私を閉じ込める方向で考えてるの……?

 強力な魔法にはコストがかかる。

 今日は魔法使いを雇ったんでしょ。ついでに証人にするつもりかもね」

「ということは、窓も……」


 今度は王子が窓に近づいて、窓を軽くたたいた。

 しかし、ほとんど音がしなかった。


「こちらも固定されていますね」

「開く?」

「いいえ、開きません」

「そう。こっちもよ」


 私は一度テーブルに戻り、座り直した。

 王子も座った。

 私はワインを注いで飲んだ。

 ついでに王子のグラスにも注ぐ。


「ずいぶん、余裕ですね。出る方法があるのですか?」

「思いついてないわ」

「なら、どうして……?

 そういえば最初からあまり気にしておられない様子でしたが……」

「うーん……、正直、外に出る必要を感じてないのよね」

「えっ」


 王子は驚きで目を丸くした。

 驚きのあまり、立ち上がり、後ずさっている。


「……そんなに驚くこと?」

「し、失礼」


 王子はよろよろと座り直した。

 酔いが回っているのだろうか?

 座ってワインをちびちびと飲みはじめた。


「私の姫のイメージからは考えられないことでしたから」

「ふうん。ってことは、是が非でも出ようとしたってことね、イメージの私は」

「はい」

「……王子は、私を襲うつもりなの?」

「ぶっ!?」


 王子は口に含んでいたワインを吐き出した。

 せき込んでむせている。


「ごほっ、ごほっ……」

「あーあー、勿体ない……、染みになる前に拭いておいてね。

 タオルは向こうです」

「は、はい」


 王子は私が指さしたタンスからタオルを取り出して、カーペットを拭いている。


「なんの話だっけ……。

 ああ、私を襲うかどうかね。どうなの?」

「も、もちろん、そんなことしません」

「なら、私はこのままで構わないわ」

「しかし、同じベッドで寝るのは……」

「なに言ってるの? 王子は床で寝てください」

「……初めて言われました、そんなこと」

「私もよ。初めて言いました」

「しかし、外聞と言う物があるでしょう? いいのですか?」

「いいわ。今に始まったことじゃないし。それに……」

「……? それに、なんですか?」

「なんでもないわ」




 ……。

 ……危なかった。

 危うく、「それほど嫌じゃない」なんて口走るところだった。

 まったく、思ってもみないことだ。

 そんな噂、不愉快に決まっている。

 今でさえ、むずがゆさが走るというのに。

 全く……、酒というやつは恐ろしい……。


「どうしても出たいとおっしゃるなら、手が無いわけでもないけれど」

「おや、あるんですか?」

「ええ。壁か床か天井をぶち抜きます。

 どこかには穴があるはず」

「うーん……。そういう手段になるんですね」

「ええ、修繕費はもってください」

「わかりました。では……」


 王子はため息をついた。


「私は床で寝ます。

 タオルか毛布はお借りしてもいいですか?

 寒いので……」





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