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火剣の姫はメッキの王子を焼き尽くす  作者: 甲斐柄ほたて
第3幕 姫も時には嘘をつく
24/52

第24話 仲たがいも時には解決する

 がたがたがた。


「いやあ、見つかってよかった!

 ライラ、ダメじゃないか、アリス姫に迷惑かけちゃあ」

「……」

「アリス姫、妹の相手をしてくださって、ありがとうございます」

「あ、いや、えーと、あはは……」


 私は曖昧に笑った。

 王子はメッキの笑顔を振りまいている。

 ライラちゃんは窓から外をじっと見ている。


 さっきから、こっちを見てくれない。

 私がアリス本人だとわかってから、ずっと。

 私が影武者だというライラちゃんを、王子はあっさりと覆した。

 いわく、鎖骨の辺りにホクロがあるからそれはアリス姫だと。

 ホクロはあった。

 一体全体、どこを見て私と接していたのかと問い詰めたくなったが、到底そんな雰囲気じゃなかった。




 がたがたがた。

 馬車は進んでいく。

 車輪の音だけが車内にこだまする。

 王子も異様な雰囲気を察してか、黙ってしまった。


 いや、正確には雰囲気を察し、話そうとしたのだがライラちゃんはほぼ応答しないし、私はどうにも会話に集中できなかったので、会話が続かなかったのだ。


「……影武者さんは、アリスさんだったんですか?」


 不意に、ライラちゃんが言った。

 私はうなずいた。


「うん」

「嘘ついたんですか?」

「……うん」

「どうしてですか?」


 正直、嘘をつき始めたのはウォールと父上であって、私はそれに乗っただけなのだが、二人の意図も今はわかる。たぶん。





 私にライラちゃんと仲良くなって欲しかったのだ。

 もしかしたら、万に一つも無いとは思うが、私が怒りそうだったから、かもしれないが……。

 でも今、私が思っているのは、それだ。

 私が嘘をついていたのは、ライラちゃんと仲良くなるためだ。


 それは、嘘じゃない。


「あなたと仲良くなりたかったの」

「……」

「嘘ついて、ごめんね」

「……。

 ……。

 ……。

 ……。

 …………雪だるま」

「え?」

「雪だるま、買ってくれて、ありがとうございます」

「ああ、うん、あれくらい、お安い御用よ」


 ライラちゃんは私を振り返って、少しだけ笑った。


「あなたは噂通りの方でした」

「噂?」

「破天荒、支離滅裂、激情家、

 真っすぐで、正直で、フェアで、おっちょこちょい」

「ああ、そういうやつね……」


 流してるやつをつるし上げたいタイプの噂だった。

 まあ、あの店でケンカじみた真似しちゃったし、しょうがないかな。

 んーでもなあ……。


「あのね、私だって、いっつも怒ってるわけじゃないのよ?

 あの店主が悪いな、と思ったから怒っただけで……」

「わかってます」

「え、わかって、るの?」

「はい」


 本当かなあ……。

 どうもそうは思えないんだけど……。





 しかし、腑に落ちていない私を置いてきぼりにして、ライラは王子に微笑んだ。

 私を見てくれるターンは終わったらしい。


「お兄様」

「うん?」

「姫様はお兄様のおっしゃった通りの方でした」

「そうだろう? 私は噓なんかつかないよ」


 よく言うわね、と私は思ったが、黙っていた。

 このいい感じの雰囲気をぶち壊しにするほど馬鹿じゃないつもりだ。


「ええ、本当でした」

「わかったら、もう勝手に家を出たりしないでくれよ?

 みんな、心配するんだから」

「……心配するのなんて、お兄様くらいでしょう?」

「そんなことないよ。メイドたちも騎士たちも心配を―――」

「陛下は?」

「もちろん、心配していたさ」

「お兄様」

「なんだい?」

「嘘なんかつかないんじゃなかったの?」

「もちろん、嘘なんかつかないよ」

「うそつき」

「……」


 ……なんか、雲行きが怪しくなってきた。

 え、なんで?

 なんでこんなことに?

 よその王家の家庭事情なんか、知りたくないんだけど……。


 しょうがない。

 私が人肌脱ぐときか……。


「あー……、二人とも、今日はどうするの?

 もう遅いし、泊まっていくの?」

「……そうですね、申し訳ないですが、そうさせていただけるとありがたいです」

「わかったわ」


 私は馬車の扉を開けた。


「アリス姫!?」

「なに?」

「あ、危ないですよ!?」

「ああ、大丈夫大丈夫。慣れてるから」

「慣れてる!?」

「ウォール!! 来なさい!!」

「お呼びですか、姫様ァ!」


 どぉん!と大岩が落ちるような音がして、どこからともなくウォールが降って来た。


「ええ……?」


 うめき声が聞こえたので振り向くと、王子とライラが青ざめた表情を浮かべていた。

 護衛騎士が降ってくることが、そんなに珍しいのだろうか?


 私は馬車と並走するウォールに用件を伝えた。


「ウォール、王子様がいらっしゃったわ。もう遅いからお泊りになられるそうです。

 父上にお伝えしてきて」

「御意。使いを出します」

「はい、ご苦労様」


 扉を閉めた。

 再びどぉん、と音がする。

 見なくてもわかる。ウォールがどこかの家の屋根に着地した音だ。

 今日はあの辺りが護衛の拠点になっているらしい。

 今ごろ使いに出る騎士に指示を出しているのだろう。


 それにしても、さっきから王子は何を見ているのだろうか。

 窓の外を見て、道行く住人や屋根の上を必死で見ている。


「どうかしましたか?」

「……今のは、この街の日常なのですか?」

「今の? 何がです?

 ああ、馬車と並走するのはあまり行儀の良い行為じゃなかったですね。

 すみません」

「いや、そこではなくて……」

「?」


 王子は私の顔を見たが、それ以上何も言わなかった。

 なにも言わず、にっこりと笑う。


「それでは、今日はお世話になります」



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