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火剣の姫はメッキの王子を焼き尽くす  作者: 甲斐柄ほたて
第3幕 姫も時には嘘をつく
22/52

第22話 店主も時にはルールを追加する

 が、私にはまだ用件があった。

 そう。まだ釘を刺していない。

 ライラの前で「姫様」とか呼ばないように、と言わなくては。


 私は新聞を上からぐしゃっと半分ほどつぶして店主の顔を見た。

 眼鏡の奥で怒りで燃えている瞳を。


「ねえ、まだ話は終わってないの」

「そうか。ワシは今度お父上に話すネタが思いついたところだ」

「それもとっても気になるけど……、今はやめておくわ。

 ね、今日は私のこと、『姫様』って言うのやめてね」

「は? 呼んだことないが……」

「この店、つぶしてやろうかしら……」

「シャレになっとらんぞ、危険姫・・・

「火剣よ! じゃない! 姫って言うなって―――」

「姫!?」


 ライラはバネ仕掛けのおもちゃのように飛び上がった。

 ドレスのスカートが一瞬、ふわっと重力を無視する。


「どこにいるの?」

「あ、い、え、えーと、違うの、そうじゃないの、ここには、いないわ」

「? じゃあ、どうして姫なんて……」

「目撃情報! 見たって! この人が!」

「あん?」


 私はけげんな表情をしている店主の前にライラを押した。

 店主はライラと私を交互に見て困惑している。

 私はライラの後ろで頭を下げ、手をこすり合わせた。

 手をこすればこするほど、店主がこの状況を察する確率が上がるんだと信じて。


「姫か。姫なァ……」

「見たんですか!?」


 店主は横をむき、あごに生えた白いヒゲをなでながら、ライラをじろじろと見ている。

 ライラはカウンターに身を乗り出して店主の発言を待っている。

 店主はやがてため息をついて、言った。


「さっきまでこの店におった。

 この店で一番高い品物を買って出て行った」

「どっちへ行きましたか?」

「右だ」

「何を買っていったんですか?」

「アレだ」


 店主は店の端におかれた土像を指さした。

 人間大の奇妙な像だ。

 私が子供のころからある。

 いつもあるから、品物であるということすら知らなかった。


 ……。

 え、なに? 何の話?

 私がアレを買ったって?


 ……え?


「? そこにあるじゃないですか。買ったなら、持って帰ったはずでは?」

「重いから持てんとな。後で護衛騎士に取ってこさせるそうだ」

「なるほど! しかし、あんなものどうして買ったのでしょうか?

 何に使うのでしょう?」

「さあな、姫はわけわからんからな」

「なるほど!

 えーと、アリス姫はわけわからん、と……」


 ライラは取り出したメモにペンを走らせた。

 なにやら大変心外な印象が植え付けられてしまったようだ。


「……お前さんはいい子じゃな。どうして姫を追っているのかね?」


 店主は少し顔の向きをライラに向けた。

 ライラは両腕を振ってこたえる。


「お兄様をたぶらかす泥棒猫ですから、弱みを握ってやろうと思って!

 情報提供ありがとうございます!」

「うむ」

「それと、」

「うん?」


 ライラは持っていたガラス細工を、背伸びをして、両手を伸ばしてカウンターに置いた。

 かわいらしい雪だるまの置物だった。


「これをください!」

「はい、760マニだな」

「はい!」

「はいはい、760ね」


 ライラが目を輝かせて見上げてくるので、私は財布を取り出した。

 しかし、それを店主が制した。


「ちょっと待て。お前さんが払うのか?」

「? なにか問題ある?」

「大ありだ。うちでは本人が代金を払う、というルールがある」

「初めて聞いたけど、そんなの……」

「お嬢ちゃん、なにか払えるものはあるかね?」

「え、ええっと、私、持ってません、すみません……」


 ライラは泣きそうな顔でうつむいてしまった。




 かちん、と来た。


「ちょっと、どういうつもりよ。そんなルール無いでしょ。

 適当なこと言って、子供いじめるなんて、どういうつもり?」


 私は店主のあごひげを鷲掴みにして言った。

 店主も目をむいて言う。


「うるさい。ここはワシの店だ。

 ルールは、ワシが決めたいとき、決めたいように決める」

「ふざけないでよ。

 いくら私が顔なじみだからって、ナメてんじゃないでしょうね?

 代金なんか誰が払ったって一緒でしょ」

「価値は価値、金は金だ」

「なに言ってんのよ、だから金は払うって言ってるじゃない」


 私は財布から金貨銀貨をつかみだしてカウンターに叩きつけた。

 銀貨は1000マニ。

 金貨は10000マニ。

 これで文句あるのか?


「釣りはいらないわ」

「あ、あの、私、これ、欲しくない、返します……」

「ウソよ。欲しいんでしょう?」

「……でも……」

「私にこの人とケンカしてほしくないのは、わかるわ。

 わかるけど、それとこれとは別よ。

 欲しいって気持ちはウソじゃないでしょ?

 私は、今日、あなたが欲しいと言う物は、一つ二つなら買うつもりだった。

 だから!」


 私は店主をにらんで、ライラの雪だるまを手に取った。

 店主は黙ってそれを見ている。

 私は雪だるまをライラに差し出した。


「これはケンカしてでもする、私からあなたへのプレゼントよ。

 受けとりなさい」

「う、うん」


 ライラは少し怖がりながらも、私から雪だるまを受けとった。

 ……手が震えていた。

 そんなに怖かったの?


「怯えとるな」

「あんたが言う!?」


 私が振り返ると、今度は店主がごくりと生唾を飲んだ。

 即座に両手をあげて降伏のポーズを取り、そして、にやりと笑った。


「おお、怖い怖い……。

 わかったよ。ワシが悪かった。

 お嬢ちゃん、よかったな。そいつを大切にしとくれよ。

 そいつは、いい雪だるまなんだ」

「……」


 ライラは黙ってうなずいた。

 私の後ろに回って私の服のすそをつかんでいる。

 ……かわいい。

 この可愛さに免じて許してやっても……。


 いや、それとこれとは話が別か。


「じゃあ、行きましょうか。

 ……後で、覚えてなさいよ」


 ライラを外に出した後で、私は店主に指を突き付けた。

 店主はわざとらしく震えて見せた。


「おお、怖い怖い」



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