第21話 深窓の令嬢も時には心の底から笑いたい
「影武者のお姉さん、次はどこへ行きましょうか?」
「そうね……、そこの雑貨屋さんなんてどう?」
私は通りかかった雑貨屋を指さした。
窓から、色とりどりなガラス細工が見える。
この店の主は旅行好きで、旅先で買った珍しいものを売っているのだ。
だから、店の中にはまるでおとぎ話の国のような、不可思議な世界が広がっている。
ライラは窓に手をかけ、かじりつくように店の中をのぞいている。
「私は……、じゃなかった、アリス様はよくそこの雑貨屋に行ってるわよ」
「そうなんですか!?」
期待に満ちた目。
私でも庇護欲がわいてきてしまう。
「入ってみましょうか。姫様がいるかも」
「はい!」
ライラは目を輝かせて店の扉を開けて入っていった。
がらんがらん、と金属の鳴る音がする。
薄暗い店内に棚が並んでいる。
棚の上と壁、そして天井に押し合いへし合いの品々が置かれている。
どれもこれも自分の美しさを、不気味さを、純粋さを、不均一を、意味を、無意味さを主張している。
まるで天然の花畑のようだ。
入ってすぐに他に客がいないことがわかった。
カウンターの奥に店主が座っていた。
新聞を少し下げ、眼鏡をずらして私たちの来店をたしかめている。
「いらっしゃい。ごゆっくり」
無愛想にそれだけ言うと、新聞を引き上げて、文字の海へと戻っていった。
ライラは自分の手の届く位置にある物を、目をキラキラさせながら眺めている。
私はライラの『調査』を邪魔しないように、できるだけ静かに店主の所まで言った。
釘をさしておくためだ。
「景気いいみたいね」
「おかげさんで、あんたらの治世がいいんだろうな。客の入りは上々だよ」
「へえ、今日は何人来たの?」
「二人だ」
店主は指を一本立てた。
私は首をかしげた。
「もうろくしたの? 指の数間違ってるけど?」
店主は立てた指で、私とライラを指さした。
「お前たち、二人だけだ」
「あっそ。上々ね」
「……で? あれは誰かね。隠し子か?」
「あら、つまんない冗談。んなわけないでしょ」
「ワシはお前さんが何をしたって驚かんがね」
店主はちょいちょいと指でライラを指している。
いいからさっさと正解を教えろ、ということだ。
「あの子は王子の妹さんよ」
「王子?」
「ほら、前に来たでしょう?」
「ああ、お前さんを骨抜きにしたって言うやつか―――」
私は店主の両肩をつかんだ。
努めて、力を、入れ過ぎないようにしつつ、にっこりと笑顔を作った。
「そんなこと、言ったのは、だあれ?」
「あだだだだ!?
おおお、お前さんの、笑顔は、こここ怖いのう」
「だあれ?」
「……チップスじゃ」
「向かいの酒場の?」
「向かいの酒場の」
「情報提供、ありがとう」
私は店主の肩を放した。
下手人の名前をメモしておくために。
「今度お礼しなくっちゃ……」
「ワシの名前は出さんでくれよ?」
「割り引いてくれない?」
「直球じゃなあ」
「回りくどいのは嫌いなの」
「わかったよ。一つだけ半額にしてやる」
「私たち、一つずつ?」
「あの子の分だけじゃ!」
「ケチ」
「ふん」
店主は鼻を鳴らすと、会話は終わりだと言わんばかりに新聞を持ち上げて顔を隠した。




