第20話 姫も時には言うことを聞く
「……どうする?」
私と父上とウォールはライラをおいて、執務室を出た。
そのまま隣の部屋へ入り、ひそひそと作戦会議を行った。
ライラには追加の茶菓子を出して、足止めをしてある。
お菓子を食べている間は、街に「私」を探しに行ったりはしないだろう。
「あの令嬢を一人で街に出すわけにはいかん」
「一人で来たわけじゃないですよ、父上。お付きの人はいます」
「馬鹿者! お前じゃないんだぞ、迷子になったら一人になるだろ!」
「街は平和ですよ」
「馬鹿者! あの子が散歩できるほどこの街は安全ではないだろうが!」
「そんなこと、堂々と娘の前で言わないでください。
大体、私が出歩いても何も言わないじゃないですか」
「それはお前が逆にならず者を殴り飛ばすような娘だからだ!
そもそも、言っても外に出るではないか、お前は」
「言われてないですから!」
「言った時期があっただろうが!」
父上は疲れ切ったため息を吐いて、「もういい」と手を振った。
「こんな話をしている場合ではない。
アリス、お前があの子について行け」
「なんで私が? 護衛はウォールの役目でしょう?」
「ウォールは巨大だ。あの子が怖がるだろう」
「あー……」
たしかに、ちょっと怯えているような目でウォールを見ていたような気がする。
「仕方ないですね。あの子の護衛をしながら、街を回ってアリスを探して……。
ちょっと待ってください。私が名乗り出ればそれでいいのでは?
適当な弱みをいくつか見せればあの子も喜んで帰るでしょう」
「ダメだ」
「なぜです?」
「それで王子が愛想を尽かしたらどうする!?」
父上は興奮して立ち上がって言った。
「そこが一番大事だろうが!」
「そのためにライラちゃんに『安全じゃない街』を散策させる方がどうかしてると思いますけど……」
「何か言ったか?」
「いいえ、なにも?」
「ともかく、お前があの子を護衛すれば、全て丸く収まるのだ」
興奮のさめた父上は座り直した。
「ついでにアリスとしてのお前の印象も修正してこい」
「無茶ですよ」
「普段からちゃんとしていればこんなことにはならなかったんだぞ!」
「そうだったらそもそも王子が来るまでもなく、婚約者がいるものでは?」
「その通りだ! 揚げ足を取ったつもりか?
ああ、お前と話していると、血圧が上がる……」
「お労しや、父上。年ですか?」
「やかましい!」
父上はテーブルをがん、と叩くと、部屋の扉をビシッと指さした。
「もうよい! 話は終わりだ!
行け! あの子を護衛してこい!」
「はいはーい」
まったく、しょうがない。
父上の心配性にも困ったものだ。
ま、最近街に出向いてなかったし、あの素直な妹ちゃんをエスコートして散策するとしよう。
***
アリスが部屋を出て行って、しばらくしてから、アーネット王はつぶやくように言った。
「ウォール、お前も行ってくれ。遠くから二人を護衛してきてくれ」
「……アーネット様は本当に心配性ですね」
「うん、何か言ったか?」
「いえ、御意のままに」
ウォールは胸の前に手を置いて敬礼すると、部屋を出てバタンと扉を閉じた。




