第2話 父と娘
私は城の客室の一つに連行され、放り込まれた。
中にはすでに父上がいて、何かの書類に目を通しながら待っていた。
仕方ない。どうやら逃げられないようだ。
私はしぶしぶ父上の隣に腰掛けた。
そして私の真後ろでぎしぎしと大きな足音が鳴る。
ウォールが精一杯の忍び足で私の後ろに陣取ったのだ。
いよいよもって逃げられない。
「まったく、いい加減、お前も領主の娘としての自覚を持て」
父上が書類に鋭く目を通しながら言う。
「一体いくつだと思っている?」
「私はずっと純粋な十三歳の心でいたいと思っています」
「そういうことを言っているんじゃない!」
父上は振り返り、椅子のひじ掛けをガンと叩いた。
しかし、思ったより硬かったのか、「うっ」と息を詰まらせた。
私はそれを見逃さなかった。
「ふふ……。父上こそ、お年なのですから、ご無理はなさらず」
「……今日の客人が誰か、知っているか?」
「いえ。どこかの街の貴族のおじさんでは?」
「なかなか良い勘だな」
「なら、私は無用でしょう? お暇しますわ」
「おい待て! 話はまだ終わっとらん! ウォール!」
「御意」
回り込まれてしまった。
私は肩をすくめてみせた。
「冗談よ、冗談。シャレが通じないわね、二人とも」
「実際に逃げるやつがいるからな! 通じなくもなる!」
「誰のことかしら?」
「お前だ!!」
「そんなにお怒りになると、お身体に障りますよ?」
「……っ!」
父上は怒りに歪めた顔を一瞬ぴくっと震わせると、前のめりになっていた身体を引いて椅子に深く座り直した。
ふーっと息を吐き、眉間にしわを寄せたまま言う。
「誰のせいだ」
「さあ? ウォールでしょうか?」
「はぁ……。軽口はもうよい。
お前と話していると本当に寿命が縮みそうだ……。
今日は大人しく座っていろ。それ以上は望まん」
「わかりましたわ」
その時、タイミングを見計らったように扉が開いた。
執事の一人が扉から顔を見せ、恭しく礼をする。
彼はじきに客人が来る、とだけ告げた。
「どなたがいらっしゃるのですか?」
「身分の高い方だ」
「父上よりも?」
「ああ」
「ではなぜ、この客間なのですか?」
この客間は城にいくつかある客室の中では平均よりやや下の部類だ。
父上は普段、相手の身分によって客室を使い分けていた。
私としてはあまり好ましくない行為ではあるが、今回に限ってその法則に反していることが気になった。
「味方であるとは、限らないからだ」
「……え?」
扉が開いた。