第19話 姫も時には心配する
「まあまあ、落ち着きなさい、妹君よ」
騒いでいるライラをなだめるように父上が言った。
ライラは素直に座った。
恥ずかしそうに紅茶を飲みなおす。
「ところで王子は娘のことをどう言っていたのかね?」
え、何聞いているんですか、父上。
やめてくださいそんなこと聞くの。
聞かないで、言わないで、私だけに教えて。
それか、せめて私のいないところで話して。
「お兄様は姫のことを『あんな面白い人はなかなかいない』と言っていました。
真っすぐで、正直で、フェアな―――」
いやあ、ずいぶんと高く買ってくれたようだ。
これは鼻が高いなぁ~……。
「おっちょこちょい、だと」
……。
台無しである。
っていうか、おっちょこちょい?
私が?
始めて言われた、そんなこと……。
ライラは憮然として口を尖らせた。
「お兄様って、あまり人を褒めないんです。
いつもニコニコしてるけど、人が好きなわけじゃないんです。
悪口とか言うわけじゃないんですけど、人と会った後ため息をついてることは多いです」
「それは、意外だね。ずいぶんと上手に仮面をかぶっていたようだ」
「そうですか? けっこう、薄っぺらい仮面だったように思いますけど?」
私が何気なく言うと、場が凍り付いた。
父上は凄い目で私をにらんでいた。
その目からは「空気を読め!」という叫びと、「薄っぺらかったか?」というかすかな驚愕が見て取れた。
ウォールは後ろに立っているので顔は見えないが、息を飲む音は聞こえた。
ライラはというと父上と同じように私をにらんでいる。
「そんなこと言うなんて、やっぱり、あなたがアリス姫なのでは……?」
「……っていうのを、アリス様が言ってたのよね!!」
「なるほど、そういうことですか」
ごまかせた。よかった。
しかし、本当に素直な子だ。
心配になるくらいに。
「ところで君は何をしに来たのかな」
「アリス姫に会いに来ました!
お兄様をたぶらかすのをやめさせるために!」
「……やめさせる?」
「はい! アリス姫に会って欠点を見つけます!
そうすれば、きっとお兄様も目を覚まします!」
「えー……、残念ながらアリスは今、外出しているよ」
「そうなんですか、どちらへ?
……いえ、待ってください」
ライラは不思議そうに私に目をやった。
「アリス姫がいないなら、どうして影武者さんはここにいるんですか?」
「……」
私は紅茶を一口飲んだ。
……そうね、どうして影武者(私)はここにいるんでしょうね?
「アリス様は天下のおてんば姫ですからね。
一人で外に出るのが好きなんです。私も置いてね」
「なるほど! 人の心配も知らないで、やっぱりろくでもない姫ですね!」
「……そうね」
父上とウォールが笑いをこらえている気配がする。
……あとで覚えてなさいよ。
「そうですか、アリス姫はここにいないんですね……」
「ライラちゃん?」
ライラはカップを置くと、立ち上がった。
「紅茶、ごちそうさまでした。私、アリス姫を探しに行きます」




