第18話 深窓の令嬢も時には冒険する
「どうぞ飲んでくれたまえ、君の口に合うかはわからないが……」
出された紅茶をしげしげと眺めていたライラに父上は優しく声をかけた。
ゼブラ王子の妹、ライラは父上の執務室に案内されていた。
というか、私が案内した。
「……ありがとうございます」
ライラはそう言うと、まるで毒入りの紅茶でも飲むかのように目をきつくつぶってぐいと飲んだ。
カップを置く手が震えている。
王子とは打って変わって社交性が無いというか、引っ込み思案なたちのようだ。
……。
誰もしゃべらない。
ライラはよほど緊張しているのか、本を抱えてうつむいたまましゃべらない。
父上もライラが小さい子供ということもあって、対応に困っているようだ。
青い顔をして「こんな大人しい子供の相手の仕方は知らんぞ……」と言いたげな目で私を見ている。
私だって昔は子供でしたよ?
大人しかった記憶は確かにないですが……。
しょうがない!
父上が役に立たないのなら、私が一肌脱ごうじゃないか!
「それで、どうしてはるばるルナエまで来たのかしら?」
「……あなたとは話したくありません。出て行ってください」
ライラは紅茶をちびりと飲み、私の顔を見ずにそう言った。
……。
……。
へぇ~~~、この私に、そぉんな態度取るんだぁ~~~?
へぇえええええ?
この時の私はものすごく悪い顔をしていたと、後に父上とウォールは言っていた。
ライラに見られていなくてよかったと思う。
私の悪い顔を見てか、慌てた声でウォールが言った。
「ラ、ライラ殿、なにか勘違いされていませんか?
こっ、こちらの方は、アリス様ではありません」
「「「は?」」」
私、父上、ライラはほとんど同じ声を出した。
ウォールの発言を聞いた父上が物音を立てて、立ち上がった。
「おい! ウォール! 貴様、血迷ったのか!」
「もっ、申し訳ありません! つい―――」
「影武者の正体を明かすなど、それでも護衛騎士か!?」
「「???」」
……んんん?
あれ? 私って、アリスだよね?
違ったっけ?
私、影武者?
姫って思いこんでるだけ……?
いや、そんなわけない。
なんだこれ。
なんなんだこの茶番は……。一体どこへ向かってるんだ?
しかし……、理解はできないが、乗った方がいいと私の直観が言っている。
「ごめんね、私は本当はアリス様じゃないの。
ただの影武者なのよ」
「あなたは影武者、さんだったんですか?」
「そうよ」
「あ、ご、ごめんなさい。私、あなたに泥棒猫、なんて呼んで……。
あ! 待って! まさかお兄様をたぶらかしたのはあなたですか!?」
「え? ええっと……」
どちらの私も、たぶらかした覚えはないが……。
まあ、本物の姫がたぶらかしたことにしておこう。
今日、本物の私は悪者だ。
「それは本物の姫ですよ。アリス様は素晴らしい女性ですからね。
王子もメロメロになったのです」
「ウソ!
お兄様は女の人をメロメロにすることはあっても、されることなんてないもん!
傍若無人ぶりで有名なアリス姫のことだから、きっとお兄様の弱みでも握ったに違いないわ!
そうでなきゃ、お兄様があんなに泥棒猫の話なんかするはずないもん!」
王子が、私の話をしている……?
ははあ、話が読めてきた。
つまり、こういうことだ。
ライラは見るからに箱入り娘だ。
身体が弱いのか、部屋に閉じこもって本ばかり読んでいる。
王子はそんな妹を不憫に思って可愛がっている。
旅先の話をして、妹を元気づけているのだろう。
今回の話もその一つだったのだろう。
王子は私とのデート(騒動ともいう)を話したのだろう。
デートでダンジョンに行くような姫は世界広しと言えど私くらいなものだろう。
いや、どうかな。まあ、少なくとも少数派には違いない。
きっと王子も話しやすい思い出だったのだろう。
何度も話してしまったとみえる。
そのせいで、私はライラに問い詰められている。
いい迷惑だ。
……いや、ひょっとしてこれは、自業自得なのか?




