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火剣の姫はメッキの王子を焼き尽くす  作者: 甲斐柄ほたて
第3幕 姫も時には嘘をつく
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第17話 姫も時には気を散らす

「父上! 王子から便りは!?」

「無い! 来たらすぐに伝えると言っているだろう!

 なぜ毎日確認に来るのだ!」


 王子が帰ってから一か月。

 私は早く王子に会いたかった。

 もちろん色恋じゃない。

 単純に王子への借りを返さなければならないからだ。

 借りっぱなしでは気持ちが悪い。

 だから王子には早く来訪してもらいたかった。


「そんなに会いたいのならお前が出向けばいいだろう!」


 最初は「アリスも王子が気に入ったのか」と目を細めていた父上だが、毎日毎日確認に来るのがいい加減嫌気が差してきているのだろう。

 徐々に私を邪見にしはじめていた。


「いつも言っているでしょう。

 私は待っています、と言いました。だから待ちます」

「どちらでもよかろう、そんなものは!」


 父上はイライラと髪をかきむしりながら、書類にサインをした。


「ええい、気が散る。仕事の邪魔だ。街にでも繰り出して来い」

「王子は―――」

「来ないものは、来ない! さっさと行け!

 ウォール! つまみだせ!」





 追い出されてしまった。

 仕方ないので街へ出向こうと、廊下を歩いていると窓から庭先でもめているのが見えた。

 門の外に立派な馬車が停まっている。


 ……まさか。

 まさか、まさか、まさか、まさか。

 玄関扉を開け放ち、庭に出る。

 雨上がりでぬかるんだ土の上を歩いて門に近づく。


「……誰? 何があったの?」


 努めて落ち着きながら、門番に声をかけた。

 いきなり声をかけたせいか、門番は私に気づくとびくっとして気をつけをした。


「ひ、姫様! 失礼しました!」

「いいから。誰が来たの?」

「それが……、見たことの無い方で、来客の予定もないので、陛下に使いを出したところで……」

「あっそう」


 王子じゃないな。

 門番の彼が見たことの無い客と言うことは、そういうことだ。


 もう用はない。

 こんな雨上がりでは外を歩く気も起きない。

 部屋で読書でもしようか……。


 ああ、でも、ついでだし、来客の顔だけでも見て行こう。




 ほんの少し背伸びをして、馬車の中に座っている客人の顔を見た。

 ちらりと白くて小さな横顔が見えた。


 ……子供? 女の子?


 少女は私が見ていることに気づいて、はっと振り向いた。

 まずい。


 私は即座に背伸びを中断して、回れ右をした。

 あの子供が誰か知らないが、来訪の予約を入れずにやって来る世間知らずだとしても、どこぞの貴族の令嬢には違いない。

 そんな子の横顔をのぞいていたとあっては、また私の噂に新しい伝説がつけたされてしまう。

 この場は早急に立ち去ろう。


 さよなら、見知らぬお嬢さん。

 あなたの横顔をのぞいていたのは、この屋敷の無礼なメイドの誰かです……。




「お待ちなさい! このっ、ど、泥棒猫!」


 舌足らずでありながら、凛とした声が響いた。

 ……泥棒猫?

 誰が?

 私か?


 振り返る。

 少女と目が合った。

 栗色の髪を左右で三つ編みにして垂らしている。

 大きな丸眼鏡のむこうで利発そうな瞳がゆれている。

 大きな本を両手で胸の前に抱えている。


 少女は門の鉄格子をつかんだ。

 がしゃん、と大きな音がする。

 門番が困ったような声で止めようとするが、少女は聞かない。

 家臣たちが彼女を止めようとしているが、それにも耳を貸さない。

 ただ、私を見ている。

 見て、叫んでいる。


「お兄様を……、お兄様を返して! この、泥棒猫!」




 少女は目に涙をうかべて叫んでいる。

 私は門にしがみついている彼女に近づいた。


「私が、泥棒猫?」

「そうよ、アリス姫! お兄様を返して!」

「お兄様ってどなたのことかしら?」

「ゾンダークの王子、ゼブラお兄様です! ご存じでしょう!」

「じゃ、じゃあ、あなたは……」

「私はゼブラお兄様の妹……、ライラです!」

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