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火剣の姫はメッキの王子を焼き尽くす  作者: 甲斐柄ほたて
第2幕 このデートは私にとって、命がけの真剣勝負だ
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第13話 溺れる魚

「あははははは! あははははは!」

「ちょっ、アリス姫っ、まっ、待って、待ってください!」

「ん~? しょうがないですね!」


 私が気持ちよく走りながらスライムとゴブリン狩りを楽しんでいると、遠くの方から王子の叫びが聞こえてきた。

 魔物から襲われているとかではないが、たしかに距離が開き過ぎている。

 私は王子の所まで戻った。


 王子は魔物の死体の海をおっかなびっくり足の踏み場を探しながら進んでくる。

 ここは一本道だった。

 そこにスライムとゴブリンが数十匹群れていて、そこを私が全滅させた状況である。

 私は王子との距離を半分ほどつめたところで、細いわき道があることに気づいた。


 数十センチメートルほどの細い隙間があって、その奥にかすかに明かりが見える。

 ダンジョン内に自生している蛍光のコケのようだ。


「お、なんかある! 隠し通路かも!」


 私は王子そっちのけで隙間を調べ、顔を突っ込んだ。

 うん、通れる。

 狭いのはほんの少しで、通り抜ければ普通の通路に出られそうだ。

 奥になにかあるように見える。

 ダンジョンが生成した魔鉱石が露出してるかも……。

 売れば大儲け。ヘソクリが増える。街全体の稼ぎにもなる。

 いいことづくめだ。

 しかし……。


 私は王子を振り返った。

 鎧を着た王子にはとても通り抜けられない。


「何かありましたか?」

「王子」

「はい」

「ちょっと待ってて」

「え」

「すぐ戻るから!」


 私はひょい、とわき道に入った。

 壁に身体をこすりつけて奥へ進む。

 後ろでがしゃがしゃと慌てたような金属音。


「姫!?」

「しゅっ、しゅぐもじょるかや!」

「なんとおっしゃったのですか、今!?」

「しゅぐもどゆ!」


 狭くて、上手くしゃべれない。

 抜けた。

 振り返る。

 鎧で顔は見えないが、心配してくれているようだ。


「ちょっと見てくる! すぐ戻るから!」

「気をつけてください! 用心して! 罠があるかも!」

「あはは! ここは天然のダンジョンよ! 罠なんてあるわけ―――」


 がしゃ。

 足に鈍い痛み。

 足が動かなくなった。

 まるで巨人の手でつかまれたようだ。

 見下ろすと、うっすらと黒い金属のかたまりが足にかじりついているのが見えた。


 そして、それと同時に激痛がやってきた。


「……っぎゃあああああああっ!!!!!」


 なんだ!

 なんだこれは!

 痛い!痛い!!痛い!!!

 目がチカチカする!

 うるさい!聞こえない!

 耳がわんわんする!

 誰!

 誰の声!

 違う!

 私だ!

 私の声!

 私の叫び声が反響しているんだ!


「……ふっ、うっぐぅぅうううぅうぅううぅ……」

「アリス姫、アリス姫、お気を確かに」


 後ろの隙間から、王子の声が聞こえる。

 冷静で、細くて、遠い声が。

 ……なんでこんな時に冷静なのよ!?


「ぐっ、ぐぎぎぎぎぃっぎいぎぎぎぎぎぎ!」

「何を言っているかわかりませんが、言いたいことはわかります。

 姫、ご不満でしょうが、どうか私の話を聞いてください」

「ぎっがあああああ!?」

「おそらく、今から敵が来ます」

「っが!?」


 敵!?

 このクソ痛いのに敵!

 敵ってアンタのことでしょ!

 なに?

 仲間ってワケ!?

 コレ仕組んだの、全部アンタが……。


 いや、違う。違う……。

 痛い。

 痛みで頭がおかしくなってる。

 ここに入ったのは、私だ。

 私が勝手に入ったんだ。

 王子は関係ない。

 冷静になれ、冷静に……。


「……続けて」

「ここに細くて頑丈な糸が張ってあります。

 それを仕掛けたヤツが来るはずです。

 いいですか、よく聞いてください。

 私は一度、身を隠します。

 敵が来たらこの隙間を通るはず。

 その時に挟撃します。

 姫、剣は持てますね?」

「……持てるわ」


 私は激痛に顔をしかめながらも、腰の剣を抜いた。

 痛い……。

 この罠はトラバサミだ。

 骨は、たぶん、折れてはいないだろうが……。

 一人で外すのは難しい。

 構造さえわかれば外せるだろうが、いかんせん、暗すぎる。

 そして魔法で火をつけるには、痛すぎる。集中できない。


 王子の助けが、必要だ。

 今、私の命を握っているのは、王子だ。


「では、姫、叫んでいてください。

 私にではなく、どこにいるとも知れない、誰かに助けを、求めてください」

「……わかったわ」


 私は自分の声が震えていることに気づいた。



 昔。うんと昔のこと。

 四歳か、五歳くらいのとき。

 まだろくに泳げもしない頃。

 父上と湖に入ったことがある。


 正確には、入れられた。

 父上に湖の深い所まで連れていかれた。

 父上は笑っていたが、


 私は、怖かった。

 本当に怖かった。

 足のつかない、暗く、深い、水。

 底の見えない暗闇が。

 父上が手を離せば私は沈んで、もう浮き上がれないのが、怖かった。

 怖くて、怖くて、父上にしがみついていた。


 あの時のことを、思い出す。



 そう、あの時と全く同じ状況なんだ。

 私は、あの時から全く変わらず子供だったんだ。

 怖い。

 怖い。怖い。

 怖い怖い怖い怖い。


 誰でもいいから、そばにいて欲しかった。

 しがみつける誰かにそばに……。


 気づいた。

 王子が、まだそこにいた。

 隙間から、鎧の兜をかぶったまま、私を見ていた。


 何を、しているの?

 隠れるんじゃなかったの?


 私、しがみつきたいのを、我慢してるのよ。

 それとも、


 しがみついても、いいの?


「た……、助けて……、誰か……」


 鎧の戦士はまだ私を見ている。


「助けてください、ゼ、ゼブラ王子……」

「……わかりました」


 王子は兜を脱いだ。


「最善とは言えませんが、これは、まあ仕方ないでしょう」


 そう言って王子はひきつった笑みを浮かべた。

 残念ながら、暗くて私にはよく見えなかったけれど。

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