五、過去の話
彩那は嫌がらせによって思い出していた。
まだ小さかった頃、まだ保育園~小学校に通っていたぐらいの時の話。
彼女、彩那は当時は隠しもしていなかったため、小さいながらクラスの子達から一身に視線を受けるくらいの美少女であり、可愛さ故に全員の指示を集め男の子たちの虜だった。
クラスのほとんどの子からアプローチを受けており、彼女自身も容姿には自信があった。
小さい頃はモテることに違和感もなくて、告白されることも。
保育園の頃の劇では主役のプリンセスに何度も選ばれて演じ可愛さから他のクラスにも学年にもファンがいたくらいだった。彼女を好きにならない人は居ないくらい皆が虜。
小学校に上がってからも彼女はモテた。学年一の美少女と言われていた。
「彩那ちゃん、おはよ」
クラスメイトの男子からはほとんどから声をかけられて告白もされていた。
当時美少女と言われた彩那と並んで人気だったのが、同じクラスだった咲仁。彼も人気で、クラス一の美男美女でかなり有名だった。彼も美少年と言ったところだろうか。
彼は小学校に上がってすぐ仲良くなった1人で近所に住んでいて通学班が一緒でクラスも一緒ですぐに打ち解けた唯一無二の友人。
小学校中学年の頃、事件は起き始めた。
意思がハッキリしてきたころ、複数の女子から始まりそれに賛同した女子に広がり彩那へのいじめが拡大していった。
「自分が可愛いからって武器にしすぎ」
「可愛いからって調子に乗るな」
よく思わない女子達から罵倒され、仲良かった女子の友人には避けられ友達はすっかりいなくなり、他のクラスにも広まり、女子のほとんどが避け始めた結果、男の子達も距離を起き始め彩那は1人になった。
このいじめをきっかけに彩那は引きこもった。すっかり学校にも外にも出なくなり家で過ごす日々。そんな中唯一咲仁だけは変わらずにしてくれていた。彼は最初は会いたがらない彩那に無理に会おうとせず、毎日何かと理由つけて家に来ては彩那の母と話していた。彼女の様子を聞きに来て帰る、そんな日々が続いたある日、母の居ない時間チャイムがなり、居留守にしようとしたが、何度か鳴らされるチャイムに母の出かける言葉を思い出す。
『チャイム何度も鳴らされたらモニター見てみ? 悪い人じゃないから、出てね? それ以外は出なくていいよ』
母はそう言った、彩那は恐る恐るモニターを確認するとそこにいるのは咲仁ただ1人だった。
「はい、⋯⋯咲仁くん?」
『あ、彩那ちゃん?』
「うん。1人?」
『ほんとに出たー笑 そう1人だよ』
通話ボタンを押して咲仁とモニター越しに話した。彼は毎日1人で押しかけて母と話していたことは知っていたので1人なことはわかっていた。
「⋯⋯上がって、話聞いてほしい」
『うん、いいよ』
1人に安心して彼を招き入れた。彼は学校で貰ったプリントをたくさん持ってきていた。それが2人の目の前に並び、それを挟むように座っている。
「⋯⋯避けられて辛いから行きたくない」
「無理に来る必要ないよ。ぼくは毎日彩那ちゃんの話聞きに来るし、彩那ちゃんがどんな決断してもずっと友達でいるよ」
「⋯⋯そしたら、咲仁くんも避けられちゃうよ」
「そしたら、僕たち2人だけで仲良くすればいい。僕は彩那ちゃんと仲良くしてたい」
咲仁の純粋な気持ちに心打たれた。
彼には学校のことや勉強を教えてもらったり、たわいない話をする事が嬉しかった。
「咲仁くんありがとう」
「うん」
それから毎日彼の来る時間が楽しみだった。学校には行く勇気はでないが、彼のきてくれるその時間だけが唯一の楽しみになった。
だんだんと外へでれるように努力し、可愛さを隠すメイクを覚え、親のお使いを頼まれ出れるようになり、咲仁と地味めなメイクをした上で出かけられるようになった。
しかし、学校へは小学校の間は行けずに過ごした。中学生に上がる時、地味めなメイクで学校へ行くことが出来、それからは彼女は学校へ行けるようになった。
自分の可愛さが、妬まれて虐められただけなんだからそれを隠してしまえば無くなると考えたからだ。
「彩那、勿体ないから隠したら」
「でも、そうじゃないとまた⋯」
「⋯⋯ッ、わかったよ。じゃあ俺と遊ぶ時だけ、元のままでいて」
条件付きで地味な彩那という形が始まった。それが思いのほかよく、自分を見失わないでいられている。