四、対決、解決
嫌がらせを受けるようになってから1ヶ月が過ぎようとしていた。
いつも近くにいる咲仁たちが居ない放課後ことはおきた。彩那は教室の隅で女子4人組に囲まれていた。
「あの、なんですか。咲仁の親衛隊だかなんだかの人ですよね」
「あら、生意気ね 咲仁様を呼びすてだなんて」
「ほんとね! 地味子のくせに」
彼女たちは親衛隊の隊長と副隊長だろうか。と呑気に考えつつ彼女らからどう切抜けるか思案していた。
「私は咲仁様親衛隊の隊長、駒形よ」
「同じく、副隊長、千葉と「新垣」」
「同じく隊員、米倉。隊員でもないあなたが馴れ馴れしく咲仁様としないで頂戴」
彼女らは一人一人名乗り、勝手なことを述べているようにしか彩那には聞こえなかった。
「馴れ馴れしくって、私からはした覚えないけど。いつも咲仁からじゃん」
「本当に生意気な子ね! 咲仁様を呼び捨てにするわ、咲仁様のせいにするわとか」
「いや、生意気とかじゃなくて。咲仁は幼なじみなんだから普通だし、咲仁のせいじゃなくて事実だし。勝手にそっちこそ私のせいにしないでくれるかな」
4人に対し負けずに言い返す彩那。4vs1の言葉の争いは同じことしか返してこない彼女らのおかげで、平行線を辿っていた。
「幼なじみだか知らないけど、咲仁様とみ合わない癖に近くにいて恥ずかしいと思わないわけ?」
「あんた達より少なくとも可愛いし。釣り合うとか釣り合わないとか他人に決められることじゃない、決めるのは私たち自身。他人の評価なんてどうでもいい」
「なんなの?! こいつ生意気ね! 自分が可愛いって思ってるわけ? 笑らえる〜。こんな地味子のくせにね」
彩那の“地味”にしている理由も知らないで、馬鹿にする彼女らに何らかの制裁を浴びさせるにはどうしたらいいのか。
「あんたらに、男たちの目を向けさせてあげるためなのにな」
彩那はボソッと本音を呟いてしまった。
「なによ? なんかいった?」
「たぶん、自分が可愛い発言よ」
「本当に、きもーい、地味なくせに自分が可愛いと思ってるとかやばーい笑」
ケラケラして楽しそうにする彼女たちに呆れてきたし帰ろうかと思案していると親衛隊のひとりが手を挙げてきていた。平手打ちでもくらいそうになったその手をスルッと慣れた手つきで払い落とす⋯払い落とすの繰り返しイライラし始めた彼女たちの次なる攻撃も華麗に交わす。
「何よ! 受けなさいよ!」
「いや、私だってあなたたちに咲仁から怒られないであげるためにしてるのに」
「何訳の分からないことを言ってるの?!」
彼女たちには彩那の言葉の意味を理解出来ないらしい。
「はぁ〜。私を少しでも傷つけてみなさい? そしたらあなた達は咲人に嫌われるわ確実に」
「なんなの?! その自信は!」
「⋯⋯⋯本当は晒したくないんだけどなー」
とうとう彩那も諦めた。彼女らに話し合いによる解決の糸口も見いだせないと判断し顔を晒して理解を求めてやろうかと考え、メガネと髪に手をかけたその時、その手は遮られた。
「晒したくないなら晒さなきゃいいじゃん」
「そうそう、その素顔知ってる俺らだけの特権だろ?」
「おい、こいつ俺のだからな」
突如現れた3人組に目の前の女子達は呆然と立ち尽くし、彩那は助かったと胸をなでおろしその手を離した。彼らはちょっとした口喧嘩のようにしているが、これも彼らなりの手助けなのだろう。
「⋯⋯ねぇ、咲仁、なんでわかったの」
「⋯⋯え? あ〜、お前の母さんがな〜俺に連絡してきたんだよ。いつもならもう帰ってくるのに帰ってこないって」
「それだけで、ここが?」
「まさか、咲仁のやつな、それ聞いた瞬間鬼の形相で探し回ってたぞ」
「そうそう、今でこそ彩那ちゃん見つけて穏やかな顔してるけど、はらわた煮えくり返るぞ、こいつ」
咲仁の答えに疑問をぶつけると、亘くんと設楽くんが口々に答えた。
「そういうわけだけど、お前ら俺の彩那になにしてんの? お前らなんだっけ? 俺の親衛隊とかいう奴らだっけ? つぎこいつに何かしたらただじゃおかないからな」
咲仁の言葉にコクコクと頭がとれそうになるくらいに頷いて彼女たちは「失礼しました!」と去っていた。 その直後咲仁から熱い抱擁をうけ、熱い口付けも交わされた。
「咲仁〜お前俺らが見てることわかってる?」
「⋯⋯あぁ。悪い」
悪びれもないような謝り方のまま彼は彩那を抱きしめたままで離してくれない。
「それで? 咲仁がそれだけ惚れるお姫様の顔拝ませてくれねーの? 助けてやったのに」
「それな、そういう約束なのにな」
彼らの約束とやらの意味がわからず、咲仁の顔を見るとなんとも言えない顔をしている。約束をしたという時もこんな顔しつつしたのだろうなと密かに思い笑ってしまった。それに気がついたのか目線を合わせることなく抱きしめていた身体を離し、友人たちの方へ向けた。彼からの合図と受けとり、そっと髪と眼鏡を外し、地味に見えるようにしていたメイクも軽く落とした。
「⋯⋯うわっ、写真で見るよりまじで可愛い。これはたしかに惚れるわ」
「⋯⋯可愛い⋯好きになりそう」
「だめ、絶対。俺のだから。これ以上見るな」
突如目の前が真っ暗になる。咲仁に顔を塞がれ彼らから見えないようにされたようだ。
「⋯⋯もぉ! 咲仁、前見えないよ」
「⋯⋯見えなくていい、こいつらに見せるな、そんな声で喋るな」
「はっははは、黒川って本当は結構声も可愛い声してるよな〜」
「それってギャップ萌えってやつ? たしかにでもわかる。咲仁が惚れるのも」
彼らには彩那の秘密は知られてしまったが、だからといってバラすような人達ではないことはわかる。そして今後の親衛隊とやらの動きにも守ってくれる存在になってくれるだろうと安心材料のひとつになった。