二、王子の溺愛彼女
週末いつものように、地味な彩那でなく学校では隠している顔をだしてメイクも施してとても可愛らしく仕上げた。
いつもの彼との待ち合わせ場所へ行くと、彼はナンパを受けていた。所謂逆ナンである。容姿に自信のある彼女は隠れることもせずなんの躊躇も無く彼へ近づく。
「⋯⋯私の彼になにか用ですか?」
「あっ⋯⋯いや、なんでもないです! 失礼しました!」
声をかけただけで、逆ナンの女子達は慌てて去っていった。
「はよ、相変わらず凄いなー。俺だけでてきても彩那くるとやっぱり全然違うわー」
「⋯⋯ん。何よ、私が来るのわかっててちゃんと断らなかったくせに」
「⋯⋯そんなことより、どこに行く? いつものとこ?」
すぐに逸らされた話彩那はムッとした。「そんなことよりって何?!」と突っかかると焦るような表情を見てる彼に追い討ちかけ不満を続けた。ぶちまけていた彩那は、突然口を塞がれ言いたいことを止められてしまう。
「だいたい、いつも⋯⋯んっ?!」
「⋯⋯悪かったって。許せ俺はお前のだよ」
「それで許されると思ってんの。次からはちゃんと断ってよね」
プイッと顔を逸らし彼女が言う。そんな彼女に「はいはい」と笑いながら彼女の頬に口付けを、送る。
「それじゃ改めてどこ行くの、いつものところ?」
照れて可愛い顔の彼女の頭を撫でて優しく声をかけるとその顔のまま彼女はボソッと答える。
「⋯⋯いつものところ」
「了解、行こう」
それから近くの服屋さんでいくつかの似合いそうな服を選んでは試着を繰り返し好みのものを選んだ。
「⋯⋯咲仁も自分の選んでよ」
「おれの? お前が選べ」
「⋯⋯じゃあこれね、私こっち」
周りから視線を集めながらも気にしない2人は注目を集めるほどの美男美女カップルにしか見えていないだろう。
「ん、じゃあ買ってくるよ」
「ありがとう」
レジに行く咲仁を見送り、近くのお店を見ていると、男が数人近づいてきて彩那に話しかけてきた。
「お姉さん今1人?」
「僕たちと遊ばない?」
「いえ、結構です。連れがいるんで」
断ってもしつこいナンパ男たち。こういう時可愛いって辛いな〜と呑気に考えつつ、掴まれた腕を払ってはまた掴まれてを繰り返していると今度は身体を掴まれそうになりぐるりと翻し交わして言う。
「さっきからお断りしてるでしょう? いい加減にしてくれる?」
「そんなこと言わず⋯「いい加減にしたら? こいつの連れは俺だし、それ以上しつこいと痛い目見るよ。こいつのこと舐めるなよ」」
食い気味で咲仁が入ってきて男たちに牽制してくれる。さすが彼氏である。入ってきたが、自分が止めに入ってる訳ではない。言葉のみの牽制で自分がでなく、彩那がそれ以上しつこいとすると忠告しているようだ。
「⋯⋯失礼しました! お、お似合いのカップルですね!」
慌てて言い捨てて去っていった男たち。確かに彩那はこれ以上しつこいと投げ技とかをお見舞いしていたかもしれないところであった。
「⋯⋯咲仁ありがとう。咲仁の言う通り入ってこなかったら投げ技するところだった」
「ハハッ、そのまま見てみたかったな」
「こんな人の多いところでしないよ、恥ずかしい」
「でも、しようとしてたんだろ?」
楽しみにするような言い方をされ、彩那は不快な気持ちでいっぱいになり、口を噤んみ先を歩く。
「あー、悪かったって。そんなことなる前に必ず助ける、だからそんな顔すんな」
そんな顔とはどんな顔なのだろう。でも、その顔とやらが咲仁を脅かすものの一つ。
2人が仲良くする姿を遠くから見ている者がいた。2人はその存在に気がつくともなく、後になってその人物が2人の関係へ大きく関わることになるとは誰も予想していなかった。
買い物を楽しんだ休み明けの月曜日。彩那は冷やかな視線を感じていた。それは溺愛する発言を連発する咲仁のせいであるとはわかる。
「⋯⋯咲仁、しつこい。離れて」
「離れて言われても、俺お前の隣の席だし? 諦めろ、俺はお前のこと好きだしな」
そんなことを言いながら隣に座り本を読む彩那に寄りかかるように身体を預けて座っていた。そういう一つ一つの行動が反感を買いつつあること薄々は気がついていたはずであるし、視線にも気がついていたが、その意味には、気づいていない。
空き教室にて。
女が数人集まっていた。彼女たちは咲仁の親衛隊を名乗るもの達。親衛隊の幹部が4人と、報告員1人。
「これが、週末 女と仲良くする咲仁様です。雰囲気からして彼女だと思います」
「⋯⋯彼女の雰囲気は」
「はい、とても可愛い方でした。なんと言いますか、これがお姫様だと思う方でした」
報告員は偶然、咲仁達の買い物を見ていたものだった。写真を撮って彼女らに見せるのも重要な役割で、親衛隊として周辺のことは把握し、動かなけらればならない。
「そう、 」
「なんというか、咲仁様がすごく溺愛しているようでした」
この報告は、咲仁様親衛隊のみで行われている見知らぬ連絡網で回っていくのであった。そして、今後彩那に影響するなんて思いもよらなかった。