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苦労人(勇者)の話 2

 

「……なんていうこともあったんですよね。」


 と、バックリーン夫人ご自慢のホットレモンを飲みながらしみじみと昔に思いを馳せた。


 旅が終わり復学するとイクセル先生が俺に目をかけてくれるようになった。なんやかんやで俺の知識が深まり、そういうこともあり、アカデミーでは放課後によく魔術について教わったりお互い疑問に思う事を論じ合うようになったからだろう。


 寮生である俺は当然門限があるため、帰る時間が決まっていたのだが、白熱したある日に時間が足りないここで話しを止めるのはちょっと……となり、先生の一声で外泊許可が出され先生のご実家であるバックリーン家にご招待を受け、第2ラウンド開始。

 以降も週に1回はバックリーン家にお泊りしつつ、イクセル先生との弁論大会を開催しているのである。ちなみにたまに教官が来るけど、そんときはもうえらいことになる。戦闘狂に見える教官だけど、実は知識も豊富なのである。

 そんな俺らを見守るのが、バックリーン夫人たるアスタ・バックリーン様。子どもがいるというのに、とてもそうは見えない穏やかできれいな方だ。ちなみに紅茶よりもレモネードが好きらしく、俺はよくそのご自慢のレモネードをこうして出してもらっている。


 ちなみに今日は珍しく昔話に花が咲き、こうしてイクセル先生とおだやかーに話している。

 ほんとめずらしっ。


「数か月前のことなんですけどねー。色々と印象濃いことがあったので、つい最近のことのように思えます。」


 本当に色々あった。


 この国の第一王子様は聖女様が好きだったみたいだけど、撃沈してた。いや実は、そのちょこっと前に聖女様がモテまくる教官に嫉妬からだいぶ怒ってて別れるんじゃ?って周囲は思ってたところで、王子が告白をしつつ、教官を悪役令嬢呼ばわりしたことで聖女様が激ギレ。聖女様はやっぱり教官のことが好きってのが分かって、教官はいたく感動し、めでたく二人は仲直りしましたとさ。王子様、当て馬じゃん。

 で、一緒に旅をした異国風の人だけど、この人実は隣国の第二王子様だったんだって。この旅が終わったら、かねてより心寄せていたうちの国の王女様に結婚を申し込む予定だったんだって。ところがどっこい。未練ありつつも教官と別れた王女様は、なんと隣国の第一王子様、つまりお兄さんと婚姻を結ぶことになってたと。異国風……いや、第二王子にしたら好きな人が義理の姉になるんだもんね、きっついね。


 ぶっちゃけ惚れた腫れたのことは俺にはわからない。まして一地方男爵家の次男坊たる俺からしたら声を掛けにくい存在の二人だったわけで、えーどうしよーって思ってたら、まさかの教官が慰めていた。

 それぞれの好きな人の元彼でもあり今彼でもある教官が慰めるってどんな状況?って思ったけど、なんかうまくまとまってた。なんか三人の絆が生まれてた。いいのか、これで。

 じみーに俺も巻き込まれつつ、教官の方はそんな感じで落ち着いてる。聖女様ともそれはそれは仲良しだ。


 で、ダークホースのイクセル先生。なんとびっくりなことに、俺たちが旅をしてる間に結婚してたんですよ。

 失礼ながら、研究こそ恋人にして生き甲斐ってアカデミーのみんなはもちろん俺も思ってたんだよね。だから何?もしかして今研究対象である希少種植物とですか?ってなるわけじゃん。そしたらなんと、母でもあるアスタ・バックリーン夫人って言うんだよ。予想を遙か超えすぎて何も言えなかったよ。相手人間なんですね、てか年上なんですね、いや禁断すぎじゃね?って当然なったけど、まあ色々と事情があったらしく、教官を産み未亡人となった夫人のもとに養子で入ったのがイクセル先生。その時は中継ぎ?でバックリーン侯爵としていたのが、教官のおじいさんで夫人の義父である人だったみたいなんだけど、その方が領地に引っ込んじゃって、結果イクセル先生が義母である夫人と結婚して侯爵になることになったんだってさ。

 がち血縁者はやばいけど、まあ、そういう事情ならそんなこともあるのか。よその国では貴族は血脈を絶やすことを恐れるというけど、ここはそこにこだわっていない。むしろ一族の名を残すことを重要とする。だからその人間の能力を注視し、実子よりも優れているのであれば養子に家督を継ぐこともざらだ。

 だからイクセル先生は夫人の息子のまま家督を継いでも良かったわけで、ぶっちゃけ結婚する必要性はなかったはず。なのに結婚したということは……という疑問を聞く前に先生が説明してくれた。

 曰く、ここに引き取られる前に未亡人である夫人に一目惚れして、前バックリーン侯爵に魅了魔法使ってこの家に養子として入り、そこから紆余曲折あり俺たちが旅に出ている間に夫人と思いが通じ合い夫人と結婚して先生がバックリーン侯爵になったと。


 さくっと言ってるけど、魅了魔法って禁忌だし、そもそも寿命を削るから使用者は早死にするらしい。養子として入る前に使ったと言ってるし、先生の寿命は長くはないんじゃ?と言ったら、「俺は、黒の谷の生き残りだから。そもそもの寿命が長い。」というとんでも発言。

 アカデミーで習ったんだけど、大昔に魔術に秀でた者たちが住むところが隣国にあったという。そこは辺りは瘴気が立ち上り、常人はけして立ち入ることができない場所だった。また底が暗くて見えないほどの深い谷で「黒の谷」と呼ばれていた。ところが大戦があり、谷は崩れ落ち、黒の谷の民も文明も滅びたとされている。

 イクセル先生はこんな冗談をいうタイプではないし、禁忌とされる複雑怪奇な魅了魔法を使えるくらいに魔術に秀でているし、魔力量も申し分ない。つまり事実。


 本来一介の生徒が聞いて良い話じゃなかったと思うんだよ、それぐらいの情報だったんだ。

 でも先生は俺を信用してるから話してくれたとのこと。

 だいぶ胸が熱くなりましたわ。


 以降もアツ語りするためにお呼ばれしたり、こうやっておだやかーにホットレモンを飲んだらするのにお邪魔したりという、普通の生徒にしてはだいぶ高待遇を受けているのである。


「先生はよく先生をしつつ侯爵家当主をやっていけますね。」

「まあ当主として内々のことは優秀な執事やここで働く者がいるからな。その他のことは、アスタが良い教師となってくれているから。」

「確かに。これほど優秀な教師はいないでしょうね。」

「そうだ。アスタは子が生まれたら、自身である程度は教育を施したいという方針だ。彼女の意見は当然尊重するから、今必死になって覚えているところだよ。」


 若くしてアカデミー講師となったイクセル先生と、古代龍の呪いをとくメンバーに抜擢された軍所属の魔剣士たるマリー教官の母であるアスタ・バックリーン夫人の手腕は社交界ではだいぶ買われていると教官が以前言っていた。

 それは当然イクセル先生も分かっているだろうから、生まれるだろうお子の教育も任せたくはなるだろう。まあお子さんの教育に関しては、単純に愛する奥さんのいう事だからっていうのが本音なんだろう。


 今夫人のお腹の中にお子がいる。ところがこれを知っているのは一部の人間だけで、先生はあまり教える気がない。そもそもイクセル先生は家族のことも含め、自分のことを基本話さない。アカデミーでも自身が侯爵となったことも結婚したことも言っていない。もちろん、それを知る俺や教官も言わないようにしている。

 あれでいて教官は口が堅いのだ。


「そういえば、生まれてくるお子さんは、やっぱり長寿になるんですか?」

「個体差もあるだろうし生まれてからでないとはっきりとはわからないが、俺の血を引いてるのだから可能性は高い。」


 はー、なるほど。そういうのって生まれた瞬間に長生き!とか、普通!とか、分かるもんなのかな。わかりそうだな、だってイクセル先生だし。


 まあ、そんなこんなでまったりと久しぶりにお話ししましたとさ。


 で、それから数か月後に、バックリーン夫人は元気なお子さんを産んだ。

 イクセル先生に似た漆黒の髪をもつ女の子だった。そして、かつて勇者であった俺よりも膨大な魔力を持つその子はまさしく黒の谷の血を引いており、長寿であるとの判断だった。

 魔力量が多い人はそこそこいるけど、それだけじゃない他の理由があって長寿ということが分かるのだろう。それはきっと黒の谷の人間同士なら分かり合えるものなのかもしれない。

 バックリーン夫人と先生は、その子を家で隠すことなく、外に出し通常の子どもと同じように育てる方針をとるようで、いずれはアカデミーに入れようと考えているようだった。


 ちなみに俺は、在学中にアカデミーの校長よりなんとアカデミーの教師にならないかと打診される。

 勇者となった功績はもちろんだけど、勇者になる前も後も変わらずに真面目にこつこつと勉強を頑張っていたことを先生方が評価して下さっていてとのこと。先生方って言ってたから、一人じゃなくて複数人の先生が俺を評価してくれてるってことで、俺もうその段階で泣きそうになったもんね。教師になること、その場で即決したよね。


 前は漠然と実家に戻って兄貴を助けて、領地のために貢献しないとって思ってたさ。

 ところが。

 勇者として頑張った褒美に王様から結構な額の報奨金をもらって、それを自領にそのまま渡したから、実家ではそれを元手に領地改革をしているみたいで、インフラにも手を出せるレベルになってきているという。あんだけの資本があれば、兄貴がいずれ領主となったときに、仮に自然災害がおきて立て直さなきゃいけないってなってもなんとかなりそうなんだよな。なぜなら広大な領地じゃなく、そこそこの小さな領地だから立て直すにもそこまで金がかからん。


 そんなことあったから、みんなでどうにかできてるみたいだし、俺帰らなくて良くない?ってなるわけよ。アカデミーでもこっち出身の友人もできたし、ちょこっと軍にいたときに仲間もできたし、そういうのもあってここで教師になることを決めた。


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