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苦労人(勇者)の話 1

勇者と娘の話です。

他の作品のキャラもちょこっと出ます。

 小さな地方領をひとつだけ治める男爵家の次男として俺は生まれた。

 少し年上の兄がこれまた頭も性格も出来の良い人かつ領民に好かれる人で、いずれは父から爵位を継ぐべく頑張っていたし、周囲も応援していた。もちろん弟の俺も。


 もっと広大な領地だったり複数の領地を持つ家だったなら次男である俺も父から継ぐものがあったのかもしれないけど、生憎とうちはそうじゃない。

 そこで捻くれる人もいるみたいだけど、うちの両親は俺と兄を差別しなかったし、兄は俺を大切な弟として見てくれてる。そして領民も穏やかな人が多く、俺にも好意的だ。

 そんなわけで、いずれ男爵となる兄を、ひいては兄の守るここの領民を守れるように強くなりたいと思ったのはいつの頃からかは覚えてないけど、俺はそっち方面を頑張ることにした。


 もともと魔力が多く魔術と相性が良かったため、そちらの勉強にのめり込んでいった。

 領地経営等を学ぶ兄とは違って、俺には自分で好きにできる時間があったからそこで学ぶことにした。

 そうして学んでいると、王都で新たな全寮制のアカデミーが建設された。そこは身分に関係なく、やる気がある者ならば通えるところだという。つまりは地方中の地方で、しかも次男である俺も行けるということだ。王都でこのようなアカデミーはまずない。俺はそのアカデミーに14歳のときに入学した。


 そこでの授業は厳しくはあるがとても有意義だった。中でも、魔術学のイクセル・バックリーン先生は世界でこんなに魔術について詳しい人はいないと言われるほど知識人ではあるけど、ゆえに座学の授業の内容の濃さが半端ない。そして実技指導では息一つ乱すことなく、ばかすか攻撃魔法を生徒にぶつけてくるし、こちらの攻撃なんてそよ風にも満たないとばかりに消してしまう。そして特筆すべきは、その表情のなさ。いついかなる時も無表情なのだ。そのため俺たち生徒は彼の授業の後は心身ともにやられている。

 でも俺は強くなりたかったから、イクセル先生の授業にくらいついた。それこそ毎日必死で学んだ。


 そんなある日、両手の甲に変な刻印が出た。

 それからはあれよあれよという間に色んな偉い人とお話しをさせられ、気が付けば勇者という肩書が与えられ、聖女と共に眠りから目覚める古代龍を鎮めるよう王命が下された。


 勇者となった者には異常なまでの体力と魔力向上がもたらされるけど、それ以外は自前の能力らしい。一応ね、魔術についてはスパルタなイクセル先生のもとで勉強してたから良かったんだけど、問題は実技での戦闘だった。かつての勇者たちが使ったらしい剣を渡されたのだけど、俺、剣とか専門外。

 てなわけで、アカデミーを休学し、軍預かりとなってしごかれることと相成りました。


 そこで出会ったのが、軍一の腕前の魔剣士というとんでもない美形。麗人。天は二物を与えるのか、と小市民の俺は思ったね。でも自己紹介されてびっくりで、名前はマリー・バックリーンで、イクセル先生の妹だという。

 イクセル先生ってきょうだいいたんですね、てか妹さんなんですね、妹さんめっちゃ爽やかなイケメンですね、タイプ違いますね、似てないですよ言われなきゃわかんないですよ。それはそれは情報量過多で、俺フリーズしたもんね。

 そんなこんなでマリーさん、もとい教官に教わることになったのだけど、ギャップが半端なかったです。

 さすが軍所属の魔剣士。爽やかな良い笑顔のまま息一つ乱すことなく、軍の人間や俺をびしばししごいている。イクセル先生とはまた違った怖さがある。


 そんな感じで軍の人と一緒に生活していたら仲良くなった。とくに候補生のみんなは年が近いこともあってすごく仲良くなって色々と教えてもらい、なんか一日一回は教官の恋愛遍歴を泣くか怒るかしながら語られた。妹を盗られたとか、憧れの女性を盗られたとか、好きだった人を盗られたとか、そんなんだった(盗られたばっかかよ)。あと好きな人ができたら絶対に教官に会わせるなという先人の言葉を頂戴した。本当にその通りだな、と思った。でも俺はいずれは地方に帰り、そこで相手が見つかればいいなぐらいに考えてるため、この王都にいる教官に会わせることはだいぶ難しい、はず。


 そしていざ出立の時に王城に呼ばれ、そこで初めてパーティメンバーを教えられた。勇者である俺と、聖女様と、教官と、異国の人、この四人だという。

 王女様によって祝福を授けられるのだが、やはりというかなんというか教官の時だけ長かったし、聖女様がそれをギラギラした目で見ていた。つまりそういうことなのだろう。

 そんで出立パレードの時に、なぜか照れ照れしてる聖女様を抱え込むようにして後ろに教官が騎乗していた。なぜその位置?

 異国の人が教えてくれたのだけど、前に王女様と教官は付き合っていたけど、今は聖女様と付き合っているらしい。なにそれ、今カノと元カノ対決じゃん。祝福のときから思ってたけど、やっぱりそういうことなんだね。ていうか、元カノ未練ありまくりじゃないの?と思ったけど、この人は王女様のことを好きそうだったので言わなかった。

 あと教官に対する黄色い声援はすごかった。だからかな、聖女様がギラギラしてる目をしていたのは。


 で、道中は軍での練習と同様に教官が稽古をつけてくれた。

 どっちもお互い恋愛的な気持ちはないし純粋なる師弟関係なのだけど、聖女様としては割り切れないみたいで、俺がケガするたびにギラギラした目で瞬きもせずにケガの場所を見ないでこちらを見ながら治癒をしていた。怖い。目で人を殺せるなら殺してそうだ。怖い。そして稽古をしている間は率先して薪割りしてくれていた。それはもうばっきばきに割っていた。あと薬草とかこなっごなに捻りつぶして、引くぐらい怖かった。


 そうして四人で旅をしていると、俺の心身が強くなっていった。治癒される回数も減っていったし、剣術と魔術を合わせて戦えるようにもなったし、教官に背中を預けてもらえるようになったし、教官をカバーするとギラついてない(もはや内縁の妻の)聖女様にお礼を言われるようになった。ちなみに異国の人はちょいちょい教官に攻撃を仕掛けているけど、当たり前のように躱されている。最初はそれをはらはらして見ていたけど、成長するにつれてそれがお遊びで戯れあってるのだとわかるようになった。まあ片方は若干本気も交じっていたのかもしれないけど。なので旅の後半は聖女様は俺よりも異国の人へのあたりが酷かった気がする。前に聖女様がぼそっと「邪魔なものは潰すにかぎる」って木の実の殻を潰しながら教官と異国の人を見ていたのを偶然見てしまった。邪魔なものって?潰すって?木の実の殻だよね、そうだよね?もちろんそっとその場を立ち去ったけど。


 仲間内で不穏な空気が流れ続けていたけど、最後まで誰一人かけることなく四人で古代龍の元に辿り着くことができた。

 ここでの戦いは今までとはまるで違った。今までの戦いなんて、本気を出さない模擬練習みたいなもんだった。眠る古代龍自体を傷つけることなく、周囲にまとわりつく呪いのみ攻撃し消滅させるということだったけど、なんとこの呪いが意思を持っているかのように動くし分裂するし増えるしでなかなか難儀した。しかも魔力の通っていない、たとえば物理攻撃のみだと攻撃が無効化されてしまうため、必然的に剣に魔力をのせて戦うためそれはそれは骨が折れた。勇者となって魔力が増えたけど、以前の俺だったらもうへばってた。てか他三人はこれを地でやるとか、規格外すぎやしませんか。教官と異国の人の本能が剥き出しになってだいぶ瞳孔開いていたし、ケガする度にそうそうお目にかかれない好敵手と闘える(ヤれる)ことに喜びを感じているめっちゃ戦闘狂だった。

 いつもの爽やかイケメンな笑顔が消えて魔王様ですか?ってくらい邪悪な笑みを浮かべる教官、普段は青白く静かな雰囲気なのに頬を蒸気させ目を爛々と輝かせる異国の人、この二人の見た事もない姿に結構ひいた。あと片手で攻撃魔法をぶっぱなし、片手でみんなへの治癒魔法と防御魔法を展開し続ける聖女様は普段からは想像もつかないけどやっぱり聖女様なんだなと思った。そしてこんな状況なのに普通にそんなことを考えちゃう自分がいて、妙に冷静になることができた。


 そんな感じで三日三晩戦い続けたら、なんか、古代龍と交信してた。


 いきなりどうしただよね。さっきまでばちぼこ戦ってたじゃん?てか古代龍寝てるんじゃないの?てなるよね。

 古代龍が言うには、もともとは別の世界の存在でそこでは飛竜と呼ばれる神の使いなんだって。でもこちらの世界の存在に大切な番もといパートナーを奪われ、自分は呪いをかけられてずっとこの地に眠り続けていると。今までの勇者にもこうして声を発信すれども届かなかったのが、今回は交信できたと。

 ここまで言われたら、流れで古代龍のパートナーさんを助かることになりましたよ。

 メンバーもろともなんか知らない森?みたいなところに転移させられてましたよ。あと古代龍との交信途絶えたよ、まじ焦る。そしてみんなは、さっきまで戦ってたのに、いきなりなんだってなったよ。とりあえず全部説明して、みんなでパートナーさんを助けることになりましたよ。龍の声は俺しか聞こえなかったみたいで、何言ってんだ?って言われたらどうしようかと思ったけど、そんなことなかった。

 でその後、骸骨に抱え込まれるようにして(グロいわ)眠るパートナーさん(綺麗なおねえさん)を見つけて、なんか呪物になってた骸骨を俺が倒し、この場を聖女様が浄化したところでおねえさんが目覚めましたとさ。

 俺たちを敵と思ったのか半狂乱になって誰かの名前を呼んでて、とりあえず俺たちメンズは引っ込んで(当然のごとく教官もメンズ認定で引っ込んだ)聖女様がやさぁしく話しかけていたところで、突如として新キャラ登場。俺と同年代くらいの男が、おそらくおねえさんの名前を呼びながら突如として現れた。あれ、この声……と思っている目の前で、その人はおねえさんをしっかりと抱きしめていた。そして半狂乱になっていたおねえさんは、我に返って涙を流して男を抱きしめ返していた。

 まあ、あれだ、この男は古代龍で、おねえさんこそがその大切なパートナーってわけだ。俺らからしたら年上の綺麗なおねえさんってだいぶ夢のある存在なんですが、龍も漏れずなんですかね?あ、龍は人間の年とか関係ないのか?


 感動的な再会を見守っていると、落ち着いた二人が説明してくれた。

 こちらの世界の魔術師が、別の世界の存在であるおねえさんを好きになったと。古代龍の(つがい)でもあるおねえさんを手にするため、自分が呪いとなりおねえさんに取り憑きこちらの世界に連れてきたものの、呪いとなった代償は大きく、あっという間に亡くなってしまったらしい。後に残るは、呪いの影響で眠らされたままのおねえさんと、物言わなくなった躯。かたや古代龍さんは、呪いの影響で気配がなかなかたどれないおねえさんを必死に探しここについたものの、魔術師の執念なのかなんなのか呪いに蝕まれ、この世界について間もなく眠りにつき、一定間隔で呪いを薄められては起きるものの、また眠りにつくというサイクルを繰り返していたんだって。


「それももう終わる。本当にありがとう。」


 彼らからしたらこの世界の存在なんて憎くて当たり前なのに、そうとは言わず、感謝の念を述べる。

 そうされるたびに、胃がきりきり痛くなるのは俺だけ?


「呪いは消えた。もう勇者と聖女という存在は生まれなくなるだろう。君たちが当代の勇者と聖女として選ばれた際に発現した刻印は消え、それに伴い飛躍的に伸びた能力値はもとに戻るはずだ。」


 つまり、勇者になって爆発的にアップした体力や魔力はもとの平凡な値に戻ると。

 いや良いんだよ、だって俺、しがない地方領主の次男坊だし。


「ただ、君たちが努力の上で手に入れた能力は消えないから安心して。」


 にこりと古代龍がそう言う。

 古代龍って何でも知ってるんだね。やっぱ神の使いなだけあるね。


 さっきまで古代龍に寄り添っていたおねえさんが、静かに口を開いた。


「こんなことに巻き込んでごめんなさい。でも、私たちを助けてくれてありがとう。」


 おねえさんからしたら、自分も被害者だけど、自分が発端で俺たちが巻き込まれたことに罪悪感を覚えているのだろう。

 大丈夫ですよ、と言おうとしたその時だった。


「いいえ、もとはと言えばこちらの世界の者がしでかしたこと。貴女は被害者であり、何の落ち度もない。だからそんなこと言わないで下さい。私が貴女を救うのは当たり前のことなのです。」


 俺の目の前に突如としてマリー教官が躍り出て、さっとおねえさんの前に跪き、その手を取る。

 まずい!と思い動いたときには、時すでに遅しで、教官がおねえさんの手の甲に口づけを落としていました。


 いやいやいやいや。


 おねえさんたちさ、横恋慕されてこんなことになってたわけよ。

 で、教官は見た目はイケメンなわけで、もう傍から見たら横恋慕に見えんのよ、かつての再来なのよ。

 番の古代龍の前でしかもやっちゃってるわけでさ、もうダメなやつじゃん!国家間の外交問題なんてすっとばしてるよ、世界間での外交問題!


 そして、後ろにいるあなたの本妻たる聖女様。

 目がギラギラしているどころか、血走ってますけども!これあれだよね、浮気した彼にじゃなくて、その相手に怒るパターンと一緒だよね、それでおねえさんに危害加えたら世界が滅ぶ!


 なんて思ってた俺だけど、「ありがとう。まるで王子様みたいね。」とおねえさんは笑ってたし、そんなおねえさんを古代龍は微笑ましそうに見ていた。

 なるほど、これが熟年カップルの余裕なのか。

 ……羨ましくなんて、ないんだからね!

 ちなみに、そんな2人の様子を見て、聖女様の眼もおちつきました。聖女って、眼力ないとなれないんか?


 そんなこんなで全ての現況の呪いが消滅し、神の使いとその番はもとの世界に帰っていき、長きに渡る戦いの歴史に幕を閉じましたとさ。



ここに出ていた飛竜とおねえさんをメインとした作品があります。

「飛竜物語」

Nコード N3895BG

こちらも読んでいただければ幸いです。

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