似たもの同士 01
聖女様とイクセルって似てるよねってお話
当社比でGのLなのでご注意下さい。
野山を駆け巡って木の実や山菜を取るのは大好きだけど、静かに刺繍なら何やらの針仕事は苦手。そんな私は小さな村の村人、平民だった。
体を動かすことが大好きで生傷が絶えなかったけれど、小さな治癒魔法が使えたので軽度なものは完治できたし、それなりに大きな怪我はいくらか修復しで軽くすることができた。
村のみんなは申し訳ないと私にそうそう頼むことはなかったけど、私の判断で微力ながら治癒魔法を使うこともあった。
あの頃は大変だったけど、それを乗り越えられるくらいに幸せだった。
そうして十数年ほど村で過ごしたある日に、それは起きた。
それなりの数の騎士様たちと、神官と思わしき人が一人、この村にやってきた。曰く、私は聖女なのだと。いずれ来る古代龍の呪いを勇者や仲間たちと払い、国を助けてほしい、と。
何をバカなことを、とは思わなかった。ある一定の周期で古代龍が目を覚まして呪いで持って国を滅ぼそうとし、それを勇者と聖女が力を合わせ再び封印するというのは絵本になるくらいで子どもですら知っている。
そして騎士様たちが掲げるあの御旗は国王の紋章であり、彼らの身元は明らかで、けして疑い拒否することはできない。
こんな微力な治癒魔法しか使えない私が聖女だけど、国を滅びから守る、ひいてはこの村を、みんなを守れるならやってみせる。
私は頷き、村のみんなとひとりずつ抱きしめ合い、最後に涙を流す家族としっかりと抱き合い私のために用意してきたという馬車に神官様と供に乗り、周りを騎士様に護衛されながら王都へ向かった。
村は僻地だったので数日かけての旅程だった。道中に神官様から聖女としての心構えや経典やら聖典やら教わった。村では教わることがない初めて聞くことばかりで、とても興味深く話を聞けた。
肝心な私の治癒魔法は今まで誰にも習わなかったから今はこの程度だけど、これからちゃんと教えてもらえるため聖女の名に恥じない魔法が使えるとのこと。分かってたけど、今のままじゃ聖女とするには差し障りがあるということだ。身分も力も。
彼と打ち解けた最後の日最後の時、この王国で最も尊きお方に言わなくてはいけない言葉を教えられ、言葉が出なかった。
旅程が終わってまずは向かったのは教会の総本山と呼ばれるところで、そこで私は磨きに磨かれ聖女のみが着ることを許された銀糸の刺繍が施された服を着せられた。
大きな湯殿で綺麗な女性たちーー神官たちに身体を隅々まで洗われ、華やかな香りの香油を塗りたくられ、恭しく服を着せられ、髪を梳られて結い上げられるなど、初めての体験だった。その際に教会に属するものは化粧ができないと申し訳なさそうに言われた。化粧などしなくても、ここに至る全てのものが私には過ぎたるもので畏れ多いのだからそんな表情しなくていいのに。
そうして用意が終わると、村まで私を迎えにきて共に馬車に乗ってきた神官様がやってきた。
私の身の回りの世話をしていた神官たちが深く首を垂れる。ここに来るまでの間そういう人たちは多くいたし、やはりこの人は立場がある人なのだろう。導かれるままにまたもや馬車に乗せられてついた先は豪華絢爛な王城だった。教会は白を貴重としていて総本山と呼ばれていても機能的というか華美ではないというかそんな見た目だっただけに王城は圧巻の一言だった。
馬車が入り口につけられ、導かれるままに長い廊下を歩くと一際大きく美しい扉が目の前に現れた。隣に控える衛兵によって開かれると、左右に沢山の兵たちが列をなし、その奥の玉座の前に人が立っていた。今まで見た誰よりも豪華な衣装、玉座に最も近い人、聞くまでもなく王様だと分かった。神官様が小さな声で私が先に行くように、例え王様であってもけして頭を下げず膝を折らぬようにと囁いた。そして堂々とするように、と。
言われた通りに沢山の人で作られた一本道を歩き、王様に対峙する。これからどうすれば良いのか分からないし、周りに聞ける雰囲気ではない。困っていると、王様が静かに私の手を取った。驚いたけど堂々であれと言われたので態度に出さないよう勤めた。
「よくぞいらっしゃいました聖女様。」
丁寧な口調で深みのある声に体がざわざわとする。これが畏怖なのだろう、自然と膝を折りたくなってしまい心の中で叱咤をする。
「貴方は教会より統べるお方、私は王城より統べるもの。同等の権威を持つものとして共に国を守りましょう。」
「……はい。」
圧倒されながらも短い言葉でもって肯定すると、玉座の前の王様の隣に導かれる。
そして王様と私以外の人たちが跪いた。
先程の言葉と彼らの行動で私は王様と同列の立場になったのだと理解した。
私たちの前に神官様、そしてその隣に美しいドレスを身に纏ったこれまた美しい人が並び立つ。王妃様なのだろう。神官様は「神官長より貴方様に」と王冠を私に、王妃様は「王妃より貴方様に」とネックレスを王様に差し出す。ここで神官様は神官長だと知って驚いた。そんな方が村まで迎えにきて、いまの今まで私と共にいたのか。
王様が恭しく受け取ったので、私もそれに習った。
「教会より、この国と民を統べる聖女に。」
けして軽くはないネックレスを王によってつけられた。
小さく息を吐き、神官長に言われた言葉を告げた。
「王城より、この国と民を統べる王に。」
この国に王は一人、聖女は一人なので名を持たない。こうして私はかつての名と平民という立場を捨て、本当に聖女となった。
この儀式は王城でも教会でもどちらで行ってもいいのだけど、前回は教会で行われたため今回は王城でとなったらしい。私としてもどっちでもいい。
儀式が滞りなく終わったため、神官長とともに教会へ戻ることに。彼を後ろに引き連れ門に向かう途中、一人の兵が目に映った。肩口で切り揃えられたさらさらの髪の毛を持ち、この兵たちの中で最も均整のとれた体躯をしている方。伏せられた瞳はどんな色なのだろう、いつか知りたい。そう思いながら歩みを止めず、開けられた扉よりこの広間を出た。
神官長に教会に連れ戻され、とても大きな広間に連れて行かれた。そして一段高いところに立たされ見下ろすと、ここに集う全ての神官たちが私に対して首を垂れる。誰一人としてその目に私を映すことはなかった。
本来ならば神官長が最も偉い人なのに、少し前まで村に住んでいた私が聖女となったばかりにこうして私がここに立っている。この時代になってしまったばかりに彼は……と思ってしまった。
そんな私を知ってか知らずか、その後神官長に諸々教わるため連れられた部屋にて言われた。曰く、古代龍より国を守るために現れるとはいえ、至高の存在である聖女と同じ代に神官長として側に侍ることができるのは恐れ多くも嬉しいことなのだと。他の神官にしても生きている間に聖女が誕生し、仕えることは身に余る光栄で末代まで誇れることなのだと。まだ数日しか行動を共にしていないけど、誠実かつ職務に誇りを感じている彼の言葉はすんなりと信じることができた。
「どうぞ我々を手と足として使い、この国をお守り下さい。」
そう言われ、私は小さく頷いた。
それから神官長に経典や聖典や身の振る舞い、力の引き出されその使い方を教わった。二日間の短い時間だったけど、彼はとても良き教師で、この期間に学ばなくてはならないこと全て履修できた。
王都にきてから三日目、この教会の最も高き場所から王と共に民へ顔を見せることになった。王は沢山の護衛と共に現れた。あの王城で見かけたさらりとした美しい髪を持つあの人がいればいいな、とひっそり思った。
古代龍を封印するために今代に聖女が誕生し私がそうであると紹介されると、みな一様に喜んでいた。古代龍が目覚めるかもしれない事態だというのに、聖女が誕生しその時代に自身が生きていることが啓示であると喜んでいた。そして聖女が必ずや封印を成し遂げると疑っていなかった。
顔見せが終わり、その後王と王妃と神官長と会食をした後に建国時より王国の象徴としての歴史ある樹がある庭園を歩いた。王城のように色とりどりの花があるわけでも美しい東屋があるわけでもなく、薬となる草花があるだけの庭だけれど静謐なところなのだ。取り留めもない話をしている間、私は気もそぞろとなっていた。私たちを守るために王国軍兵と教会聖兵が控えていて、王国軍の中に先程まで見なかったあの人の姿があったのだ。あの時の軍服に帯剣をしていて、こちらを静かに見ている。庭園を周り、王らが帰城するということで教会に戻り明るい中で見えたその瞳はかつて村で当たり前のように見ていた森の中で日の光を浴びてきらきらと輝く青々とした木々の葉を思い出させる美しい色をしていた。私だけを映しているわけではない、むしろ私を映していないのかもしれない、そんな瞳のその人に恋をした瞬間だった。
それからはあの方の事ばかり考えた。聖女として勤めているとき、食事をしているとき、身支度しているとき、失礼だけど誰かと話している時、寝る間際、声を聞いたこともないのにずっと思っていた。
王国軍にとても見目麗しく文武両道であり王女をも虜にした魔剣士がいるとちらほらと聞こえたけど、そんな人よりあの緑の瞳が美しいあの方の方がずっと素敵だと思っていたし声高らかに言いたかった。
聖女となって幾分か経ったある日、是非とも会食をと乞われ王城へと行ったとき、軍兵たちが模擬試合をしているため見てみないかと誘われた。あの方もきっといるはず、そう思ったら否定するなんてあり得ない。私は喜んで頷いた。
王に案内され向かった先はとても広い演習場で真ん中で戦いあい、そこから二手に分かれて声援をあげていた。嬉しいことにこちらから近い所にあの方はいて、仲間を応援しているようだった。あの軍服よりもラフな服を着ていて、紐が外されて晒される首元がちらりとのぞいているのが目に入り顔が赤く火照るのが分かった。
勝敗が決まり、勝った方が負けた方の肩を叩き2人で小突きあったあとそれぞれの陣に戻っていた。
次は誰だろう。そう思って見ていると、名前が呼ばれてあちらの兵が返事をして中央に向かう。
「バックリーン教官、前へ!」
「はい。」
涼やかな声で返事をしたのはあの方だった。剣を持ち中央に進むその姿にうっとりとしてしまう。名前はバックリーン様、教官をなさっている、そして涼やかなお声。こんなにも新しいことを知れた。なんという僥倖。
審判の合図の後に二人が動いた。それぞれが剣で切り込んでいき金属特有の音をさせ、その攻撃受けて薙ぎ払う。魔法を展開して攻撃をしかけたかと思えば、すぐに防御魔法を展開する。拮抗している戦いに見える。あちら側はまだわかるのだけど、こちら側の声援はなぜかバックリーン様ではなく相手の名前を呼んでいた。なぜ、と一瞬思ってしまった。
そしてそれは起こった。さっきまでどこか余裕の表情だったバックリーン様の表情が一変して、口元の笑みは好戦的なものになりその瞳はいつもと違う輝きを見せていた。とても興奮している。
強い攻撃魔法を剣に乗せ、今までにないほどの速さで相手に深く切り込み、その剣を弾き落としたかと思うと素早く後ろに回り込みその頸をとんと軽く打ちつけたかと思うと相手は派手に前に倒れ込んだ。軽い打撃に見えたのに、その実大層な力による攻撃だったのだろう。そして息があがっているようには見えないし、わずかな汗しか見えない。なんて強い方なのかしら。
審判による判決が言い渡され、思わず拍手をしたら皆んながこちらを見た。バックリーン様が勝って全員が不満そうに大きな声で騒いでいた。なるほど、バックリーン様は教官でとてもお強い。あの方の勝利が分かっていたからみんながみんなもう一人の人をを応援していたし、覆ることなく予想通りの結果で不満そうなのね。そんな中で拍手したから目立ったのだろう、一斉に皆がこちらを見た。
恥ずかしくなって手を下ろしたときに、先ほどのものとは違い、にこりと微笑んでこちらを見たバックリーン様の姿にゾクゾクと体がざわめいた。こんなの初めてで、私を私たらしめる体の全て、血液の一雫までもが興奮しているのが分かった。
兵たちは王と私たちにやっと気が付いたのだろう。すぐに静まり返り首を垂れた。バックリーン様も首を垂れてしまった。
「よい、面をあげよ。」
王の一言に、みなが顔を上げた。バックリーン様は先ほどの笑みとも興奮とも違い、とても真面目な表情をしていた。
「聖女よ、いかがだろうか。」
「あ……」
バックリーン様がこちらを見て、静かに私の言葉を待っている。その事実がとてつもなく歓喜させる。
「初めて王国軍の方々の演習を見ました。とても、とても素晴らしいものですね。」
「そうでしょうとも。」
「あの……とくに、最後に勝たれた……その、バックリーン様。本当に本当に、とても素晴らしかったです。」
こんな言葉じゃ言い足りないのに、まだまだ語彙の履修が進んでおらずこんなことしか言えなかった。それでも言葉にできないこの気持ちが届けばいいのに、と思いながら伝える。
「お褒めにあずかり光栄です、我らが聖女様。」
薄く微笑み今一度首を垂れて見せた。我らが聖女、つまり私はバックリーン様の聖女なのだ。私は、あの方のもの。誰か一人のものであってはならないのに、バックリーン様の言葉がたまらなく嬉しい。
「皆のもの励むように。バックリーンよ、期待している。」
「はっ。」
「では聖女よ、行きましょう。」
「はい。」
行きたくない。このままバックリーン様をずっとずっと見ていたい。やっとここであい見え、短いとはいえ会話が出来たのに。
しかし今回は公爵や侯爵も一緒に会食をするのだ。本来ならば侯爵家は三家あるのだが、ひとつのみが出席するという。とにかく高位の家門が日程を合わせて来るのだ、出ないわけにはいかない。未練が残るけども王と一緒にその場を離れた。この姿が見えなくなるまで、私をずっと見ていてくれたらいいのになんて私に都合が良すぎることを考えてしまった。
王に連れられて行った部屋にはすでに公爵と侯爵がいて、私たちが見た時には席を立ち首を垂れていた。
私たちが席につき王が合図すると、二人とも席についた。まずは近況報告を聞かされ、その後皆んなの意見を言い合う。とはいえ、まだまだ私には難しいことで意見を言うというより、問題やそれに対する意見の意図を聞くことが多いのだけど、三人は丁寧に説明してくれた。要点をまとめると、封印が徐々に解けていることによって呪いが漏れ出し、取り憑かれた獣が人を襲い始めていると。町の警邏隊や流れの傭兵がどうにかできる状態だけど、進行すれば軍を動かし神官と共に派遣しなくてはならない。
その前に、私と対を為す勇者が現れて欲しいと思った。
その後会食をしている時に、家族の話になった。王には息子と娘が一人ずつ、公爵は息子が三人、公爵は息子が一人。故郷の村に残してきた父と母、兄と弟が懐かしくなった。みんな元気に過ごしているだろうか、聖女になったことで得られた報奨は殆ど家族と村へ渡してもらっている。恙なく過ごしているだろうか。こちらに来て見慣れてしまった甘酸っぱいドレッシングがかかった色鮮やかなサラダを咀嚼しながら思いを馳せる。
私は家族を大切に思っている。それはここにいる誰もがそうなのだろう。他三人が子どもたち、とくに息子の話をしていた。公爵と公爵の家族に会ったことはないのだけど、王の息子ーー王子には数回会っている。ただし話したことはない。それぞれの子息が私と年も近いということで、それぞれと意見を交わすのはどうかと言われた。様々な人と話すことは己の見識を広めるため良いことだと神官長は常々言っているため、私は三人に了承の旨を伝えた。
昼には遅く夜には早い食事を終えて帰ることになったため、王が安全のために軍の人間をつけてくれるというので部屋を出ようとすると、外側から扉が開かれた。
「まあ」
そこにはバックリーン様がいた。さきほどの演習のときのラフな出立とは違い、かっちりとした軍服を着こなしている。
「バックリーンよ、聖女を頼むぞ。」
「仰せのままに。」
私が部屋を出たのを確認すると、静かに扉を閉めた。
私の少し後ろをバックリーン様が歩いている。
あのまま軍で鍛錬をするのだろうと思っていたから、まさかここで会えるとは思っていなかった。それに教会まで護衛してくれるという。
馬車に乗る時にバックリーン様が手を差し伸べてくれた。貴族やさらに高位ならば手袋をつけているらしいけど、教会に属するものは民のためにその手を使うべし、と経典にあるため女性であっても素手である。軍人のためバックリーン様も素手であり、剣を使う人間らしく傷が古いものから新しいものまである。指はほっそりと長いけれど、わたしよりも大きな手。汗ばむ私の手を乗せて不快に思われたどうしよう、でもこの方の手に触れたい、相反する思いを抱えながらゆっくりと手を伸ばした。優しい力で手を握られ、馬車に安全に乗れるようエスコートを受ける。私が腰をおろしたことを確認すると、馬車の扉を閉めて、用意していた馬に騎乗し合図を出すと、皆が動き出した。バックリーン様はそのまま私の隣を並走している。ちらり、と横を見ると当たり前だけどバックリーン様の横顔が見えた。引き結ばれた薄い唇、高い鼻、そして緑の瞳が美しい。
あの涼やかでよく通るお声を聞きたいけど、そこそこの時間が経ってしまったので今更どう話しかけていいか分からなくない。神官長を始めとした教会のみんなはもちろん話せる。最初こそは畏れ多くて返事することが精いっぱいで話しかける事ができなかった王に対しても自分から話すことはできる。立場上この方から話しかけて下さることは難しいはず。勇気を振り絞って、声を出した。
「貴方は、教官なのね。」
貴方に話しかけている、と伝えたくて最初に名前を告げたのだが、ここでこの質問のまずさに気づく。この内容だと「はい」とか「そうです」で返事が終わってしまい、会話らしい会話が成り立たないものであると。ああ失敗した、と思っていたら本当に「はい」と言う返事だった。
「魔剣士の称号を拝命したのですが、その際に教官に任じられました。」
その後もバックリーン様の声が続いたので、そちらに顔を向けると相変わらず姿勢よく馬に乗り、じっと前を見ていた。
「うちの家門は代々文官を輩出しているので私の例は珍しかったようです。文官に籍を置いてるオロフ。バックリーンは私の祖父なんですよ。」
それは調べた。遠目でしか見なかった文官に同じバックリーンという人がいて、バックリーン様の祖父であることは知っていたのだけど、その声を聞いていたくて丁寧に教えてくれる説明を聞いていた。
そういえば軍の中でとても麗しい魔剣士がいると度々聞いていたけど、それはこの方のことだったのだと今更ながらに合点がいった。頬を染めて話す彼女たちに初めて共感できた。
バックリーン様はけして矢継ぎ早ではなく、落ちついた口調なので私も自然と言葉を返すことが出来る。
「文武両道で美しい魔剣士がいるという話を聞きます。文官を多く輩出していている家門の出であり、今日の演習でとてもお強いのだと確認しました。貴方のことだったのね、納得だわ。」
私の素直な気持ちを伝えると、前を向いていたバックリーン様がこちらに顔を向ける。
「それは……聖女様にそうおっしゃって頂けると気恥ずかしいのですが、何より嬉しさが勝ります。」
目元がうっすらと赤く、はにかんでそう言われた。あのきりりとした軍人然とした姿はとても美しいのだけど、こうして照れている顔はとても可愛らしい。私の顔に熱が集まるのが分かる。バックリーン様に対するこんなにも大きな衝撃は二度目で、私はこの方にもう一度恋をした。
道中ぽつぽつと会話をしながらだったので、あっという間に教会についてしまった。残念に思いながらバックリーン様のエスコートを受けて馬車を降りる。
「ここまで大儀でした。」
バックリーン様だけではなく、ここまで送ってくれた数名の軍人に礼を告げ教会の大きな門をくぐろうとしたところで未だ聞きなれない声で呼び止められた。
「聖女様。」
「なんです?」
「道中とても楽しく思いました。次にお会いした時もぜひ貴方様の御話しをお聞かせ下さい。では、また。」
また、はいつになったら来るのだろう。それが早くくればいいのに、と思いながら私は門をくぐった。




