幼女は宇宙皇帝
ある日、幼女タイプの宇宙人が家にやってきた。
「じゃまするぞ」
と言って幼女が家に入ってきて、勝手にくつろぎはじめた。
わたしは困惑の底なし沼に突き落とされつつも、たいへんに好みの幼女だったので、とくに抵抗することもなくこの現実を5秒で受け容れた。
幼女は冷蔵庫を開け、
「しょぼいもんしか入ってないな。プリンはないのかプリンは」
と、わたしに言った。
「ごめんなさい。最近はヨーグルトがマイブームで、ヨーグルトしか買い置きないんです」
とわたしは釈明した。
「ふん。まあ、ヨーグルトでもええわ。お前、毒見せい」
と幼女はわたしを指さした。
わたしはヨーグルトを一口自分で食べた。
すまし顔の幼女はわたしをチラッと見て、
「わらわに食べさせるのだ」
と言った。
わたしは、もう一度スプーンで掬い、幼女の口の前に運んだ。
「あーんして」
幼女は目を閉じ、小さな口を開けた。白くきれいに並んだ小さな歯が見えた。
「あーん」
わたしは幼女の小さな口のなかに白いゲル状物質を流し込んだ。
幼女はしばらく口の中で味わったのちゴクリと飲み込んだ。
「おいしい?」
「庶民的な味だな。まあ不味くはないぞ」
わたしは幼女が満足するまでヨーグルトを食べさせた。幼女の口のまわりが白濁のゲル状物質まみれになっていた。
わたしがティッシュで幼女の顔を拭いていると、幼女が言った。
「この部屋暑いな」
「ごめんね、エアコンが壊れてるの」
「なら、風呂に入る。ひんやりした風呂を用意せい」
「うんわかった」
わたしは浴槽に温度低めのお湯を張った。
幼女がわたしに言った。
「何をボケッとこっちを見とるんだ。わらわの服をはよう脱がせ。これでは風呂に入れんではないか」
「あ。自分で脱げないんだ」
「ばかもの。わらわは宇宙皇帝だぞ。めんどうなことはすべて奴隷がやるのだ」
「はいはい、わかりました陛下」
「〈はい〉は一回でいいぞ」
「はいはい」
「むー」
ふくれっ面の幼女の服をわたしは一枚ずつ脱がしはじめた。
日本の一般的な小学校の制服によく似た服装だった。
わたしはまず紺色の吊りスカートのファスナーを下ろして脱がせた。プリーツに鼻を近づけてみるとほんのりお日様の匂いがした。
次に白色半袖パフスリーブのブラウスのボタンをひとつずつ外して脱がせた。
肌着は白のスリップと白の子供パンツだった。どちらにも前面にかわいらしい小さなリボンがついていた。
わたしは少し迷ったが、子供パンツから脱がせることにした。
幼女は少し身をよじって抵抗した。
「なぜ下から脱がすんだ。は、恥ずかしいではないか」
「えっ。どうせ全裸になるんだから、上からでも下からでも別に変わんないでしょ?」
「上だけ着ていて下がすっぽんぽんなのは恥ずかしいのだ」
顔を赤くしながら幼女が言った。
「そうなの? よくわかんないけど」
「あと、どうして靴下を脱がさずにまだ残してるんだ。これも妙に恥ずかしんだが」
「靴下はいちばん最後がいいってわたしは思うのです」
「な、なんか、こだわりがあるのか?」
「うーん。食事をするときにどれから食べるか、みたいな?」
「なんかよくわからんが、とにかく早く脱がしてくれい」
わたしは幼女のスリップを脱がし、オーバーニーソックスのみになった幼女を眺めた。
「良い眺めです」
「す、すごく恥ずかしいんだが……」
幼女は赤い顔でモジモジした。
「かわいいわあ」
わたしはスマホで写真を撮りたい衝動に襲われたが、強靭な意志力によってがまんした。
少しもったいないという思いと戦いながら、わたしは幼女のオーバーニーソックスを脱がせた。
「はい、できたわよ。気が済むまで、お風呂入ってきてね」
とわたしが言うと、幼女はわたしを指さした。
「ばかもの。お前も脱ぐのだ」
「えっ。わたしの裸が見たいってこと?」
「ちがう。一緒に入るのだ。風呂に」
わたしは幼女と一緒に風呂場に向かった。
浴槽にはたっぷりと湯が張られていた。
幼女は湯のなかに手を入れた。
「うむ。熱すぎず冷たすぎず、この季節にピッタリの温度だ」
そう言うと幼女は勢いよく湯のなかに飛び込んだ。
その勢いによって大量の湯が浴槽の外に溢れ出た。
幼女は浴槽のなかでくるっと振り向き、手招きした。
「さあさあ、お前も入れ。遠慮するな」
「遠慮するなって……。わたしの家なんだけどね」
そんなことをつぶやきながらわたしは浴槽に浸かった。
「こまかいことは気にするな。ははあ、いい風呂だ」
幼女は首までお湯に浸かり、満足げに笑った。
「ところでさあ、陛下のお名前ってなんていうの?」
わたしは疑問を口にした。
「名前か? 円周率なみに長すぎてわらわも覚えておらん。ニックネームでチャナと呼ばれることが多いからお前もチャナと呼べばいいぞ」
「わかった。チャナ陛下」
「陛下は別にいらんぞ。皇帝と奴隷の仲ではないか、チャナでいい」
「じゃあ、チャナちゃん」
「うむ。で、お前のことは何と呼んだらいい、わが奴隷よ」
「わたし珠希って名前だからタマタマって呼ばれることが多いんだけど、それでいいよ」
「わかった。タマタマだな。覚えやすくてイイ名だ」
チャナは浴槽のなかで立ち上がり、両手を横に広げた。
「体を洗ってくれ」
「了解、チャナちゃん」
わたしは石鹸を手のなかで泡立ててチャナの体を手のひらで丁寧に洗いはじめた。
チャナの体はほとんど凹凸が無くつるつるでとても洗いやすかった。
「うふふ、とっても洗いやすい体だね」
「ちょ、ちょっとくすぐったいぞ」
「こら、動かないの。じっとしてて」
「い、いや、でも、動くなと言われてもくすぐったすぎて体が勝手に動いてしまうのだ」
「そこをじっとガマンするの。動いたらメッだからね」
「うう……」
「もうちょっと両脚を開いて。開かないと脚の間が洗えないよ」
チャナは黙って両脚を開いた。
チャナはギュッと目を閉じ、わたしが全身をくまなく洗っていく間、必死に動かないように頑張っていた。
「終わったよ」
とわたしが言うとチャナを両腕を降ろし脚を閉じて肩で呼吸した。顔が真っ赤だった。
「はあはあ。動かないように頑張ったぞ」
「えらいえらい」
わたしはチャナの頭をなでた。
「おう、もっと撫でてくれ。わらわはナデナデされるのが好きだぞ」
「いいよ」
わたしはチャナが満足するまで彼女の頭を撫でた。
チャナは猫のように目を閉じてじっとわたしに撫でられていた。
風呂を出たあと、チャナは全裸で家のなかを駆け回った。
「あははは。風呂上がりはやっぱり最高に気持ちがいいな」
「そんな格好でいると風邪ひくよ」
「しばらくこのままでいさせてくれ」
そう言ってチャナはベッドの上でトランポリンのように飛び跳ねた。
「皇帝でもお子ちゃまなんだねえ」
とわたしが言うと、チャナは、
「わらわの故郷ではこれでもオトナなんだぞ。お前の星でいうとだいたい7歳から10歳ぐらいの外見で成長が止まって、その後は死ぬまでずっとこの姿だ」
「チャナちゃんはいくつなの?」
「208歳だ」
「そっかあ。わたしよりもずいぶん歳上なんだねえ。お子ちゃまとか言ってごめんね」
「いや別に気にしていないぞ。精神年齢も地球人の7歳から10歳ぐらいだからな。お前たちから見るとずいぶん幼稚に感じるかもしれんな」
「幼稚だなんて思ってないよ。すごくかわいいなって思って」
「かわいいか? へへへ、なんか照れるぞ。わらわの故郷の星では〈かわいい〉という言葉が無いからな」
チャナはぴょんとベッドから飛び降り、
「そういえば、わらわの服はどこにいったのだ?」
とわたしに尋ねた。
「あ、いま洗濯中。ずっとその格好でいるのかなって思ったから。それに汗臭かったし」
「ふだん、宮殿ではだいたいこの格好なんだが、お前の目があるとちょっと恥ずかしくなってきたぞ……。何か着るものないか?」
「わたしのお古ならあるけど……。ちょっと待ってね」
わたしは箪笥のなかをあさりはじめた。
わたしの小学生の頃の服が捨てずにまだとってあったはずだった。
「これとかどうかなあ」
と、わたしが引き出しのなかから取りだしたのは小学校の水泳の授業で使っていたスクール水着だった。
「お、それいいな」
とチャナ。
「えっ。冗談で言ったつもりだったんだけど……」
とわたしが言ったが、チャナは紺色のスクール水着に興味津々だった。
「どうやって着るんだこれ?」
「じゃあ着せてあげるね」
わたしはチャナの細い両脚をスクール水着に通し、ずりずりと上に引っぱりあげるようにしてスクール水着を着せた。
「そうそう、そこに腕を通すんだよ」
「おおっ。体にフィットして良い感じだな。伸縮性にも優れていて動きやすいぞ」
「うふふ、似合ってるよ、チャナちゃん」
しばらくスクール水着姿で家のなかを駆け回ったりして遊んでいたチャナだったが、疲れたのか畳のうえに横になって眠ってしまった。
だらしなく口を開けて畳によだれを垂らしていた。
わたしはチャナを抱きかかえ、ベッドに運んだ。とても軽かった。
チャナをベッドの上に寝かせると、彼女は赤ちゃんのように体を丸めた。
わたしも眠くなってきたので、チャナの隣に横になった。
しばらくすると、チャナがわたしをギュッと抱きしめてきた。抱き枕か何かと勘違いしているのかもしれない。チャナは脚をわたしの脚に絡めてきたのでわたしは身動きができなくなってしまった。しかし、わたしはとても幸せな気分に包まれた。
チャナの体はとても柔らかくて暖かかった。風呂上がりに塗ったベビーパウダーの匂いがした。
「どこにも行かないで……」
とチャナが寝言をつぶやいた。
「どこにもいかないよ」
とわたしが小さな声で応えた。
その声が聴こえたのか、チャナは目を開けた。わたしの顔を見ると微笑した。
「タマタマの体、やわらかいな」
「チャナちゃんのほうがやわらないよ」
「わらわは地球人が好きだ」
少し照れながらチャナが言った。
「いつ尋ねようかずっと迷ってたんだけど、今さらなこと訊いてもいい?」
「なんだ?」
「どうしてわたしのところに来てくれたの?」
「いつだったか、タマタマが宇宙に向かって祈っただろ? 『どうか、少し生意気でかわいらしい幼女型の宇宙人と夢のような時間を過ごせますように』って」
「あ、うん。たまにそう祈ってるよ」
「その祈りがわらわのところに届いたのだ。だから来た」
「そうなんだ。遠いところ、ありがとう……」
「いや、わらわも楽しかったぞ。いい奴隷を持てて幸せだ」
わたしはいつのまにか眠ってしまっていた。
わたしが目を覚ますとチャナの姿は無く、ベッドのうえにスクール水着だけが脱皮した動物の皮のように横たわっていた。
そのスクール水着の上に小さな紙が置かれていた。そこに慣れない手つきで書かれた文字は次のように読めた。
またくるね