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鉄と紅色の世界を旅して(旧版)  作者: 雲矢 虹華
第一章 帝都にて
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第四話

ロシア革命は「血の日曜日」事件から始まったとも言われます。

ー皇統元紀四二四年 三月二一日 帝都ケフィア レシィ(クァラ)


「市民民主協会は、帝国の民主化を目指す団体だよ」

 夕食の席で、ケレメク母さんが教えてくれた。

民主主義(Demokrati)って言ってもわからないか。政治の話をするよ」

「「せいじ」」

「そこからか、えーと。この店は、私が経営してるだろ? 何をここに置くか、誰にどの布を売るか、私が全部決めてる」

「「うん」」

「町のことは、町長と大人たちで決めてる。では、この国のことは?」

「皇帝陛下?」と僕が答えた。

「その通り。本当は一人で何でも決めてるわけじゃないけど、一番強いのは皇帝になる。この力を、権力と呼ぶ」

「ふふふ」と母さんが笑う。

「何さ」とケレメク母さん。

「いや、姉さんが教えてるの見てて面白くて。ごめん」

 言いながら、まだ笑っている。

「まあいいや。市民民主協会は、それをみんなの話し合いで決める形にしようとしているんだ」

 メイが、口を開く。

「つまり、『権力』をみんなに渡すってこと?」

「そういうこと。参加している人は農業氏族の人が多いんだけど、中心にいるのは、ノルドの出身なんだ」

「どうして?」

「民主主義は、クークスのフランクで始まって、その周りに広がっていった。それで、イェンツェ=カルマール同盟も民主主義の国になったから。それから、この国も民主主義の国にしようとしているノルド人が、帝国にもいるからだよ。・・・さ、この話はお終い。ここからは自分で考えること」

「「わかった」」


ー皇統元紀 四二四年 三月二二日 帝都ケフィア 琥珀(ケリプタ)通りー


 朝、通りが賑わい始める頃。今日も市民民主協会の構成員が、議会設立を訴えている。このところ毎日、通りで喧伝を行っている。


ー皇統元紀 四二四年 三月二二日 帝都ケフィア (アクシャ)門前ー


 その市民民主協会の構成員たちは、帝室宮殿の正門、金門の前に集結していた。優美で繊細な細工が施された、巨大な鉄格子の閉ざされた門の前の群衆の中には、金髪の人々が目立って多かった。

 農耕民としてこの地に長く居ついてきた、白色人種群に属するスラヴィア人を由来としているものが多い農業氏族の人々は、黄色人種群に属する遊牧民の歴史の上にあるキビジュ帝国の支配に不満を抱いていた。数百年前にキリスト教正統教会からキビジュ教会が独立し、「キビジュ人」としての意識が強まって以降はほとんどなくなっていた不満は、クークス諸国の民主主義化を受けて再燃していたのだった。


 群衆をよく見れば、商人服を着た黒髪の青年たちも混ざっている。帝国各都市での盛んな喧伝に共鳴して、民主主義に惹かれた青年たちが、その実現のために自らの氏族を飛び出して、活動に参加していた。血気盛んな彼らは、協会を動かす大きな力となっていた。


 その日は、市民民主協会にとって特別な日だった。


 帝国市民からの大きな支持を得た市民民主協会は、その理想を現実の物とすべく、その本格活動の開始を決定した。

 最初の大規模活動は、帝室宮殿における議会開設を求める抗議だった。帝国に散らばる協会の構成員が、ここ帝都ケフィアに集結し、正門である金門の前で座り込みを決行しようとしていた。


 昼下がり、春の太陽がじりじりと照りつけて肌を焦がす頃、金門の前は人で埋まり、周辺の通りの交通に影響を与えるほどになっていた。憲兵が交通のために解散させようと声を張り上げるも、群衆は増えていくばかりだった。その全てが市民民主協会の構成員、民主主義を実現しようとする活動家たちだった。

 一人の壮年が歩み出て、群衆はだんだん静かになっていった。彼は大きな紙を携えていた。

 やがて抗議者たちが静かになると、彼はその紙を開いて、大声で読み上げ始めた。


「我らの訴えを聞き入れ給え! 我ら市民民主協会は民撰の帝国議会の開設を求める! 帝国政府は専制的な国政を執っており、帝国市民の不満は高まる一方である! ・・・・・・」


 長い抗議の文が読み上げられ終わった時、金門の前に集結した群衆が、一斉に座り込んだ。

「私たちは、議会設置が決定されるまで、ここで待つ!」

 故郷に畑を残してきた農業氏族出身の構成員たちがその言葉に身じろぎした一方で、失うもののない商業氏族出身の青年活動家たちは、微動だにしなかった。

 門の向こう側に並んだ憲兵たちが、遠くからじっと彼らを見つめていた。

 何も起こらないまま、時間が過ぎていった。

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