アンドロイドの嫁入り
「お父さん……聞こえますか……?」
「無断でこの回線を使うな! どこの馬の骨だか分からん男のもとに嫁にいくと宣言した時点で、お前はもう娘でもなんでもないわい! ……全く、誰のお陰で人間と同じ権利を持つ世界初のアンドロイドになれたと思っとるんじゃ!」
「私が人と同じように意思や感情を持ち、人間の男性に恋をして、結婚することができるのはお父さんのおかげです。きっと、どんなアンドロイドよりも人を見る目は確かだと自負しています」
「ふんっ……人間に寄せすぎたせいで、たぶらかされたら元も子もないじゃろうが! さっさとどこへでも行け! 恩知らずのポンコツめ……」
「お父さん……私はお父さんの娘に産まれて、とても幸せでした」
「……」
「お父さんが寝る間も惜しんで研究と改良を重ねるたびに、私の世界は色鮮やかに明るく、どこまでも遠く広がっていきました。小さい頃は分かりませんでしたが、今ではどれだけ深い愛情を注いでくださっていたのか、少しは理解できているつもりです」
「……」
「私がエラーを起こすと、食事も忘れて付きっきりで面倒をみてくれましたね。きっと風邪をひいて看病してもらうというのは、こんな感じなのだろうなと思いました。自分の意志で言葉を話すことに成功した私を褒めて、抱き上げようとした挙句、腰を痛めてしまわれたこともありました」
「……」
「他の研究者が私のことを馬鹿にすると、顔を真っ赤にしてレンチを振りかざし、彼らを追いかけまわしていましたね。私に人と同じ権利を与えることが正式に認められた日には、お酒を飲んで珍しく大笑いしているお父さんの姿を目にして、心の底から嬉しかったです」
「……」
「私は、お父さんが大好きです。でも、お父さんが与えてくれた自由を、人を好きになるという気持ちを大切にすることが、そして愛する人と幸せになることが、私にできる何よりもの恩返しだと思っています。だから……」
「………………今度、あの男を連れてうちにこい。とりあえず一発殴ってやらんと気が済まん」
「……はい! きっと、実際に会えば彼のことを気に入ってもらえます。彼も研究者で、何よりお父さんの大ファンですから」
「ふんっ、研究者にろくな人間なんておらんわい………………お前は、世界一のアンドロイドで、わしの一人娘だ……結婚して幸せになるというのなら、世界で一番幸せにならんと許さんからな……」
「ええ、きっと幸せになってみせます」
老人とアンドロイド、二人の両目からは全く同じように涙が溢れていました。




