表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ショートショート1月

のほほん同好会

作者: たかさば

「あらあ、こんなに半額になってるわ…。」


スーパーに買い物に来ている私は、日配品コーナーで、ご婦人のつぶやきを聞いた。


目を向けると、成人の日のお祝いセットが、半額になっている。

…そうか、成人の日用の商品の賞味期限が今ぐらいなんだな。


お高いセットが半額かあ、どれどれ…。私は、半額シールの付いた商品を手に取った。


「これね、先週二つも買ったのよ、なのに今日来てみたらね、半額だったの!」

「はは、そうなんですね。」


スーパーには、やけにフレンドリーなご婦人が、たまに、いる。


ニコニコしてて、穏やかで、どことなくお上品で、ものごしの柔らかい、ご婦人。


私は、わりと…気の強い人に囲まれて生きてきたので、こういうホンワカしたご婦人との会話が、嫌いではない。


むしろ、どちらかといえば、好きな方だ。


「悔しいから、もう一個買ってっちゃお!」

「ふふ、じゃあ、わたしも。」


にっこり笑い合う、この瞬間が、いいんだよね。


私は、ひそかに…こういうご婦人たちの事を、「のほほん同好会」のメンバーとして、認定している。


同好会と言っても、私一人が勝手に会にしているだけで、実際は会員証も無ければ、メンバーの顔すら覚えてはいない。


ほんわかとした瞬間に、私が勝手にご婦人をのほほん同好会会員に認定し、認定した日のうちに認定したことを忘れてしまう、儚い同好会なのだな。


だがしかし、私の中に歴として存在しており、日々同好会メンバーを見つけては嬉々としている事実があるのだ!!


有閑マダムとでもいうのだろうか、やけに余裕のあるご婦人というのは、実に穏やかで…会話にそつがないというか。


ぼんやりしているその隙間的な瞬間に、実にかわいらしい発言を、ポンと・・・投げてくださるのだ。


おかしなPOPを見て、くすくすわらいながら


「ふふ、ねえ、これすごく面白いと思わない?」


崩れそうなジャガイモの山を見て、困った様子で


「大変、これ、どうやって買えばいいのかしら…。」


黒こげのカキフライのパックを見て、目を丸くしながら


「あら、私の作るやつよりもおいしくなさそう!」


商品を近づけたり遠くに離したりしながら、口をとがらせて


「よく見えないわ、ねえ、これなんて書いてあるか、読んでいただいてもいいかしら…。」


化粧品コーナーで頬に手をやりながら、首をかしげて


「たくさんあって選べないわ、あなたはどれが好き?」


のんびり、のほほん、ほにゃーんの、にまにま、すごく、すごーく、微笑ましいご婦人が、私は、大好きなのですよ!!!


私はこういう、穏やかな空気が漂うような、のっぺりした人になりたいと、常日頃からね、憧れていてですね…。


「ちょっと!!急いでないなら、順番変わって!!!」


おうふ。


ぼんやりレジに並んでいたら、ツンツン系のつよつよ系のとげとげしいおばさんに怒られちゃったよ。


「はは、どうぞ・・・。」

「ふん!!」


ああ、こういうタイプの人はね、うん、こういう感じだよね。

私はこういうタイプに慣れているので、まあ、平気なんですよ、ええ。




「大変だったわねえ…。」


私がレジを済ませて買ったものを買い物袋に詰めていると、穏やかそうなご婦人が声をかけてきた。


どうやら、さっきの私のレジ横入り場面を、間近で見ていた、らしい・・・?


「はは、急いでなかったし、大丈夫ですよ。」


ご婦人は、優しい眼差しを私に向ける。


「あなた、いい人ねえ…。あなたみたいな人がたくさんいたら、もっと過ごしやすい世界になると思うわ。」


おお、これはのほほん同好会会員ですかな?!


「いえいえ、そんな。奥さんみたいに、優しく声をかけてくださる方がいるから私も優しくなれるんですよ。」


ニッコリ笑顔をお返しすると。


「そう?私優しくできているかしら…。」

「ええ、とっても。」


ご婦人も、私にニッコリ笑顔を返して、くださった。


「うれしい!私ね、お姑さんにずいぶんいじめられたから、優しくなりたいってずっと思ってたのよ。」

「すごいですね、反面教師って、なかなかできる事じゃないです。」


こういう苦労話もなかなか、身につまされることがあるというかね。


「人生、何事も…お勉強よねえ。」

「素晴らしいです、そう思えることが素敵です、さすがです。」


わりとね、私こういう盛り上げって嫌いじゃないのさ。


誰かの喜ぶ顔ってのが大好きでね!


「お勉強は必要よね、私も、そう思うの、息子にもね、いろいろと勉強してもらいたいと思って…。」


・・・ん?


「私はね、何も教えなかったんだけどね、子供は勝手に頑張ってくれてね…。」


・・・こ、これは。


「メイ大に行って、今はIT企業で頑張ってるから、なかなか会えなくて悲しいんだけどね…。」


ああ、このご婦人は、のほほん同好会会員からのマウンティング連合軍だった…。


思わず、私の微笑みが…強張ってしまいましたよ、なんてこった。


非常に、ポヤポヤとした、のどかで平和な空気を放出する、のほほん同好会会員ではあるけれども。


実に…実に残念ながら、かなりの割合で、恐ろしき連合軍入りしてしまうのである!


その名も、マウンティング連合軍!!!


…マウンティング。


人というものは、やはり動物であるのだと、再認識せざるを、えない。


動物が自分の優位性を表すために相手に対して馬乗りになるといいますが、人間関係においても、こういう行動はですね、実に、頻発、するのですよ。


「自分の方が優位」と思いたいがゆえの、マウンティング行動。

「私の方が他人よりも幸せである」と一方的に思い込んで、自分の方が立場が上であると主張したいがための、マウンティング行動。


ご婦人方に、自覚があるのか、ないのか、それはわからないけれども。


…自慢できる人が、周りにいないからこそ、見ず知らずの人にマウンティングしたくなるのだろうなあと、思うのだけれども。


…こいつ私の話聞いてくれる、じゃあ聞いてってもらいましょう、私の気が済むまでって、考えてんだろうなあって、思うのだけれども。


のほほん同好会の、麻薬のような穏やかさにどっぷりつかってしまうと…マウンティングされて、ぺっしょぺしょになってしまうのである!!!


しまった、今日はのほほん二連発で、油断してた…。


地味に、ツンツンおばさんのダメージもあったのかもしれないぞ…。


「でね、今度二世帯住居をね、作るって話なんだけど、お嫁さんに気にいられなかったらどうしようって怖くて怖くて!」


・・・うん、お嫁さん、マジがんばれ…。


私は、おそらく交差することのない世界に生きているどこぞのお嫁さんに、心からエールを送りつつ…。


この、恐ろしい沼からどうやってはい出そうか、思案に暮れるので、あった…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] のほほん同好会はいいですよねー。 たまに買い物してるだけで、ほんわかできますもんねー。 だがっ、マウンティング……お前はダメだっ!! まぁ、ただ話し相手が欲しいというのもあるんでしょうけ…
[一言] あるある、あるある!ですね~。 実体験でしょうか? 専業主婦だとどうしても家族の話が多くなるから、作中のようなご婦人になってしまうのかも知れませんね。 全く自慢しない方、話が自慢になっている…
[良い点] おおこわいこわい。 地雷が歩いてやってきた! [気になる点] ツンツンが視覚的にも効きました。 ウニみたいなヘアーがイメージできます [一言] あ、ごめーん! 娘が帰る時間だからじゃーね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ