表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/19

第8話 禁忌

死者の世界から迷い出て来てしまった人々は、まるでただのケモノの様になった。

死者の魂はこの世での存在が許されずに消滅し、抜け殻になった体は人を喰うことで失われた魂を取り戻そうとする。

そのため、昔からこの町にはY地区担当の様な処理班が存在しているそうだ。


死者の世界に迷い込んでしまった人々は、決まりさえ守ればこちらに戻って来られた。

まず建物に入らない事。

死者の世界の人々は、腐って蛆のわいた自分の体を見られる事を嫌って建物の中にいる。

そして何も口にしない事。

死者の世界の物を口にすれば、その体と魂は死者の世界の者になってしまう。


町の人は皆その事をよく理解し、子供達にもしっかり教えていたが、それでも事件は起きた。



ある日、まだ幼い子供が死者の世界に迷い込んだ。

その子は必死で帰ろうとしたが時間が経ち、辺りは暗くなっていく。

怖かったのだろう。

その子は周りを見渡し、最も綺麗な建物に忍び込んだ。

そして見てしまったのだ。

最も見てはいけない女性の、腐敗したその体を。

女性はその余りの屈辱に怒り、悲しんだ。

それを知ったその世界の人々は皆、二度とその女性を悲しませない様に自らその目を潰し、最大の禁忌を冒したこの町の人間を敵だと思う様になったそうだ。


恐れた町の人々は多くの費用と労力を使い、その入り口に更なる封印を施した。

お陰で世界の境界線はより強固になり、現在では滅多に事故は起きなくなったという。


あくまで伝承が元になっていて、都合良く改変されている部分もあるのだろうが、大体の事は理解出来た気がした。

やはり僕の考えは間違っていなかった。


そして男性は続けた。

過去を振り返っても僕らの様なケースは初めてで、そこから何かを持ち出せた話など聞いた事が無く、ましてや取り調べで僕が言った、コミュニケーションを取った上でおにぎりを持たされるなど考えられなかった。

こちらの世界で死者の世界の者が発生するなんて考えられなかった。

だがこの数十年間、あの周辺の注意を怠った事など無く、特にこの3日間は常に張り込んでいたが1人の侵入者も見付けられず、しかし次々に起こる惨劇は僕の証言をひたすらに証明していた。

きっとそのおにぎりが原因で、こちらの世界で死者の世界の者が発生している。

どうか協力して欲しい。

どうか手を貸してほしい。


僕はうなずき、考えていた事を全て伝えた。

ひとしきり話し終えると男性は感謝の言葉を述べ、それに安心した僕は言った。


「監視とか、もう勘弁して下さいね。

この1年間、常に監視されているのが本当に辛かったので。

あと暴力的な事もやめて下さい。

言っていただければ協力しますから」


すると男性は驚いた顔を隠そうともせずに言った。


「君は何を言ってる??

我々が君を監視したのは、この3日間だけだ。

あの草むらで警官に話しかけた君は、悪目立ちをしていたからね。

それに我々は警察だよ。

暴力なんて使わない方が、色々都合が良い」


??

あなたこそ何を言ってる?

じゃあ僕を監視していたのは全く別の奴って事か?

僕は慌てた。

その時、男性に電話がかかってくる。


「もしもし、うん。

え……町の人が半分消えた?」



まさか?

本当に起こったのか?


間違い無くあのおにぎりは持ち出されていて、ごく少量口にしただけでも駄目。


それを踏まえた上で、僕が決して言葉にしなかった事。

言葉にしてしまったら現実になってしまいそうで、絶対に言葉にしなかった事。


4つの影が人を襲っていた時、まるでどこかの家族に見えて、きっと夕飯にでも混ぜられたのだと思った。


老人ホームの集団失踪を聞いた時、きっと貯水タンクの中に混入されたのだと思った。


ちょうど茶碗に口をつけようとする男性の手を、僕は弾いた。

茶碗は転がり、中の飲んではいけない液体が溢れる。





僕ついにそれを言葉にした。


「あのおにぎりが、水道水に混入されました。」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ