第4話 始まり
胸騒ぎがした。
あの人との電話を終え、なんとなくソファに座っている時だった。
僕は革ジャンに袖を通し、急いで外に出ると本能に任せて自転車で走り出す。
金属バットを持って来たが、それも本能任せの行動であって、自分自身なぜ持って来たのかよく分かっていない。
5分程走っただろうか、Y地区まではまだ距離のある薄暗い道路の真ん中、100mくらい先に人影が見えた。
僕は自転車を降り、金属バットを握り締めるとその人影に少しずつ近づいて行く。
ゆらゆらと揺れているその人影は、未だ僕に気付いていない。
人では無い
距離を詰めるほど、それを感じた。
あと50m……
あと30m……
あと10m……と、その人影が振り返る。
その顔はすでに半分が腐り落ち、目玉があるはずの場所には黒い大きな穴が空いていた。
その黒い穴と目が合った瞬間、一瞬腰を落としたかと思うと、それは凄まじいスピードでこちらに向かって走り出す。
あと2m。
手を伸ばせばすぐ届きそうな距離。
しかし僕の体はすでに動いていた。
あと1m。
振り下ろされた金属バットはその頭に直撃すると、その右側半分をえぐり取り、更にその体を後ろに2m程吹き飛ばす。
あと2m。
頭の中身が肩までだらりと溢れ落ちた。
だが、それでもその両方の黒い穴は僕から視線を外さない。
再び腰を落とし、それはこちらに飛びかかる。
あと1m。
しかしまたもそれに合わせるように、金属バットは横殴りに振られていた。
その金属バットは下顎を砕き、その奥にある頸椎をも砕くと、頭全体を弾きながら完全に振り抜かれた。
頭がパーカーのフードの様にぶら下がった。
逆さになった頭から中身が全て下に溢れ落ちた。
危機は去ったと思った。
それはふらふらとしながら、ゆっくりと体の向きを後ろに向けた。
ぶら下がった空っぽの頭の、黒い穴と僕の目が合う。
その瞬間だった。
その顔がニヤリと笑ったかと思うと、大声で笑い出した。
「あははははははははははははははははははは!!」
更に次の瞬間、それは少し腰を落としたかと思うと、全速力でY地区の方向へ走り出した。
それはいつまでも僕から視線を外す事なく、大笑いしながら暗い道の向こうに消えていった。
僕はただ呆然としていた。
しばらくして、我に返り周りを見ると、先程あれから溢れ落ちた中身は黒いドロドロした液体になり、そのまま地面に染み込んでいっていた。
そして少し先の道端には、大きな血溜まりと、ぐちゃぐちゃに食い散らかされた若い男性の遺体があった。
警察に通報しようかとも思ったが、厄介な事になるのは目に見えていたのでそのまま家に帰って寝た。
次の日の朝、それは大きなニュースになった。
Y地区担当のエリア外で起きた最初の惨劇。
それはこれから始まる長い長い下り坂の、入り口地点に過ぎなかった。
日本の伝承とかを絡めようとすると、どうしてもゲームの「SIREN」ぽくなってしまう。
あらためてすげぇゲームなんだと思う今日この頃。