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第3話 友達

連絡を受けた僕は現場に向かった。


通い慣れた道を自転車で走り10分程度。

現場に到着すると、まだ現場検証中の様で、数人の警察官らしき人がいた。

食い散らかされた遺体が見つかるという大事件にもかかわらず野次馬は皆無で、近隣住民ですら誰もこの事件の事を知らない様だ。

そもそも僕がこの事件を知る事が出来たのには訳がある。

警察に、昔先輩の友達だったという人がいて、僕にこっそり連絡を入れてくれたのだ。



その人は中学までは先輩と一緒にヤンチャをしていたらしいのだが、高校になると警察官に憧れて不良をやめた。

それでも先輩と友達である事には変わりなく、ずっと先輩を更生させようと頑張っていたのだが、次第に過激になっていく先輩に、心配をしつつも距離を置く様になって、最後には連絡を取らなくなってしまった。

でもある日を境に先輩は急に更生して会社に就職。

人づてにそれを聞いたその人は、本当に嬉しかったそうだ。


しかし一年前、突然先輩は死んでしまった。


そしてその時の警察の対応は、警察官であるその人にとっても不可解な事が多く、独自に調べていく中で僕にたどり着いた。


実はY地区に関わる事件は1年に1回くらいの頻度で起きていたのだが、その事は警察内部でもほとんど知られていないそうだ。

なんでもあの周辺担当の特別な部署があって、通報があった時点で全てそこに丸投げする決まりになっている。

今回もたまたま通報の初期対応をしたのがその人だったから分かっただけで、他の人が対応していたら分からなかっただろうと言っていた。



自転車を押し、近隣住民のふりをしながら警察官に近づき、話しかけた。


「なんか、あったんですか?」


「野犬が出て、駆除作業中なんです。

危ないから、近づかないで下さいね。」


愛想良く警察官が答える。

確かにブルーシートを張っていたり鑑識の人がいたら事件かとも思うが、逆にここまでオープンにされると誰も遺体があったとは思わない。

怪しまれても都合が悪いので、


「そうですか、頑張って下さいね」


などと思ってもいない事を言って、その場を後にする。

それらしい理由で誤魔化されたが、捕獲道具なども持たずに野犬の対応をする訳も無いので、やはり遺体が見つかったのは本当だったのだろう。

さりげなく近隣に停まっているパトカーを覗き込みながら帰ったものの、結局遺体らしき荷物を積んでいる様子はなかった。


夕方、僕の携帯が鳴る。


「何か分かったかい?

警察署内では何の話も出なかったよ。」


残念そうな声でその人が言った。

僕が現場で見てきた事や対応した警察官の特徴、果ては車のナンバーまで伝えると、


「その車は確かにウチのだけど、何人もいたのか。

そんな奴ら、署内で見たこと無いのになあ」


思ったよりも軽い答えにイラッとする。


実はこの人の名前を僕は知らない。

警察署内の事を詮索するのはかなりの危険が伴う、だとかで教えてくれないのだ。

当然直にあった事も無く、連絡すら非通知で一方的にかかってくる。


「また何かあったら連絡するよ、ワトソン君」


相変わらずの軽薄な態度と、先輩と同い年とは思えないオッサン感にうんざりしながらも、その存在は僕の心の支えだった。


僕らの事を誰かに知られる事は、この人の命を危険に晒すと同時に、僕の命を危険に晒す事を僕は知っている。


僕があの日の事を誰かに話そうとするたび、いつも危険な目にあってきた。


先輩が死んだあの日から、僕は常に監視されている。


だからこそ、僕はあの行きたくも無い草むらに毎日の様に通うのだ。


いつあそこに行っても、誰にも怪しまれない様に。


僕の唯一の"友達"を守るために。






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