第13話 防衛戦
はっきりとは聞こえないが、さっきから耳に響いているこの音は多分叫び声なのだろう。
光の届かない路地の向こうには、ゆらゆらと揺れる人影が何体も見えた。
何故社長を疑わなかったのだろう……
何故電話のあいつなど信じたのだろう……
黒い人影の視線から逃れる様に車に乗った僕は、そんな事を考えながら眠りに落ちる。
死を身近に感じながら動き続けた体は、想像以上に疲弊していた。
……どのくらい経っただろうか。
僕は視線を感じて目を覚ました。
近くには誰もいない。
照明の向こうには、ただ闇が広がっている様に見えた。
先程まで見えていた家も、壁も、駐車場の柵も、ただ真っ黒な闇の中に消えていた。
まさか、そんな……
僕は車のエンジンを掛け、深く息を吐いてライトをつけた。
そこには顔があった。
数え切れないほどの顔。
失敗した組体操の様に何重にも折り重なり、その体は潰れ、ひしゃげて、口や鼻からその中身か飛び出し、それでも全ての顔の2つの黒い穴がこちらを見ていた。
恐らく町中の変異者がここに集まってしまった。
最初にいた変異者は次々に集まる変異者に押され、ドミノ倒しになり、更にその上に乗った変異者が押されるを繰り返し、黒い壁を作りながら必然的に僕らとの距離を狭めて来ていた。
僕は思った。
こいつらをこれ以上進めてさせてはならない。
照明を壊されたら、そこで終わりだ。
その時、後ろから押された変異者が、黒い壁から光の輪の中へと転げ落ちた。
僕は必死でそいつに駆け寄り、金属バットを振り下ろす。
たった2m先の幾つもの顔に見つめられながら、原型を失うまで何度も何度も必死に叩き続けた。
動けないのを確認して、一息つく。
すると再び変異者が転げ落ちた。
再び僕もそいつに駆け寄り、再び金属バットを叩きつける。
しかし、もう一息つく余裕など無いと分かった。
また転げ落ちて来るのが見えた。
「誰か協力してくれぇぇ!!」
3体目の変異者を破壊しながら必死で叫ぶ。
やがて4体目に取り掛かろうとした時、10人ほどの高校生の集団が駆け寄って来た。
「助かった!
あそこのワゴンの中にナタと鉄パイプがある!
こいつらをここで食い止めるんだ!」
何を言っているのか理解出来ず、彼等は車のライトの先を見た。
彼等が恐怖に飲まれるのを感じた。
「うわ!
何だこれ!
うわあああ!」
10人中7人が逃げ出す。
「おい!何を考えてる!
照明を壊されたら皆死ぬぞ!
今ここでやらなければ、結局死ぬんだ!」
必死で叫んだが逃げた者には届かない。
僕を含めてたった4人。
でもやるしか無い。
ナタや鉄パイプを持ってきた彼等に指示を出す。
「落ちてきた奴の手足と下顎を徹底的に壊せ!
とにかく攻撃力を奪うんだ!
1人1ヶ所で良いから、朝まで照明を守ろう!
頼んだぞ!」
幸い高校生は体育部らしく、光の輪の中に落ちてきた変異者を確実に破壊していく。
僕は隙を見て散弾銃を取り出し、耳栓を着けて変異者の下顎に向けて発砲すると、下顎に加えて首の肉半分と頸椎まで吹き飛ばした。
予想以上の威力。
少し勿体無いが、高校生3人を鼓舞しながら周りに異常を知らせる事が出来そうだ。
その後も高校生達は想像以上の動きをし続けた。
最初の位置より4m程後退しているが、このまま上手くいけばこの駐車場は朝まで守り切れる。
その時、高校生が2人こちらに走って来た。
さっき逃げた奴だ。
「あっちの駐車場の照明が壊されそうだ!
助けてくれ!」
さっきも言った。
あそこのワゴンの中にナタや鉄パイプがある。
自分で守れ。




