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第7話 檻

 四方を山賊に囲まれている状況。

 レンくんとランちゃんは構えてはいますが……その手からは戦意が感じられない。

 この状況に戸惑いを感じているのと、人を相手に力を振るう気がないのと二つ、でしょうかね。

 危機的な状況を助けてくれたのですから少しくらいは感謝してくれても良い状況だと思うのですけどね。

 周りの山賊さんたちは下品な笑みを浮かべていました。


「へっへっへっへっ」

 

 品のない笑い声が洞窟内に反響する。

 感謝は……している雰囲気ではありませんね。

 獲物を見る目です。

 レンくんとランちゃんに命を救われた面々は、その恩を少しも感じてないような顔で武器を二人に向けていて……


剣呑な雰囲気ですねぇ。



 状況をのんびりと見守る。

 二人ならその気になればこれくらいはどうということはないことを私は知っていますからね。 

 はてさて、どうなることでしょうか?

 血濡れのタルムさんがゆっくりと動き出す。

 ランちゃんに癒しを掛けられたのでその身体にはもう異常はない。

 健康そのものの足取りでレンくんとランちゃんの傍から、まるで勝ち誇るかのようにゆっくりと離れ……山賊さんたちを従える位置でニヤリと笑った。


「さて、一応もう一度礼は言っとこうか?ありがとよ、山賊団壊滅の危機を救ってくれてなぁ。で、だ助けてくれてなんだが……なるべく手荒なことはしたくねぇ。大人しく捕まっちゃくれねぇか?」


 その手には二つの手枷が握られていました。

 差し出されるそれは私には見覚えのあるもの。

 あれは、魔道具ですね。

 白い……純白の鎖がない一体型の手枷。

 魔石が宝玉のように散りばめられ、まるで豪奢な装飾品のようにも見えますが……その実態は魔力を封じ込める魔法使いには致命的ともいえるとんでもない代物になるわけです。

 主に罪人などに付けられる物……それも、魔力の扱いに習熟した手の付けらない危険な犯罪者を封じ込めるために使うもので、その見た目通りに製造コストがとても高く、非常に高価なもの。

 あんなものを一体、どこから持ってきたのでしょうかね?


「あの、タルムさん?これは、いったい?」


「へっ、見て分かるだろうがよ!俺たちゃ山賊よ、俺らのアジトがゴブリンどもに襲われててなぁ……まっ、村の連中を上手いこと使って窮地を脱しようと思って行ったわけなんだがよ……まぁ、結果的に言うとお前らはまんまと俺たちに利用されたってぇわけだ」


「ふぅん……そう」


 レンくんはまだ困惑したような顔で聞いていますね……対照的にランちゃんは冷静でした。

 興味がないだけ、とも言いますけどね。

 つまらなそうに周囲を一瞥して、そっと息を吐く。。

 ランちゃんは、昔からこのあたりすごく興味の薄い子でしたからね……

 周りに居るのは山賊で、自分たちは囲まれている。

 それだけハッキリしていればランちゃんにとってはどうでもよいというわけでしょうね。

 この辺り、悩みやすいレンくんとは大違いです。


「……っ」


 状況を把握したレンくんが、辛そうに歯噛みをする

 理解したけど、納得したくない。

 そんな顔をで、苦しそうに辛そうに……その表情にタルムさんが眉を吊り上げた。


「うぅん?なんだよ?何か文句でもあるのかぁ?」


「……ない、けど」


「けど?」


「村で見たタルムさんは……本当に、村のことで憤っているような気がした……悲しんでいる気がした、怒って走り出したように見えたんだ。それが、それが……本当に演技だったっていうの?」


「思いたいなら、自分の思いたいように信じればいいだろ? そうさ、俺は本当に悲しかったさ。怒ってたさ!村があんなことになってるなんて思ってもいなかったし、辛くなったさ~。なぁ、お前ら!俺はそういう、慈悲深い奴だよなぁ?」


 同調を求めるようにタルムさんが周囲へと声を掛ける。

 それは馬鹿にするような、からかうような口調。

 しかし、その言葉を受けて返ってきたのは同調ではなく同じようなからかうような声でした。


「そんなわけねえだろ!」


「自分のことも分かんねえのか?阿保だな、頭は!」


「あんたにそんな感性が残ってるわけねえだろうがっ!」




「「「「「「ぎゃっはっはっはっはっはっはっ」」」」」」



「お~、ひでぇ。俺ってば嘘はひとっつも言ってねえのになぁ? まぁ、そういうことだ。演技じゃなかった、それでいいだろ?で、どうなんだ?結局お前たちは俺たちに捕まるのか?捕まらねえのか?」


「……」


 その言葉にレンくんは堪えませんでした。

 何も言わず、ただ構えていた剣を下ろして。

 あからさまに納得の出来ていない表情。

  けれど、そんな顔のままでもこのまま、人殺しのために剣を向けるわけにはいかないと苦渋を滲ませる顔で。

 言葉の通り、言ってる通り。

 そうなんだろうけど、信じたくない。

 いい人だって信じたい。

 そんな葛藤が見て取れるようですね……

 レンくんは思い悩む子でしたからね……普段はのんびりしてるんですけど、悩むとキリがないというか。


「ねぇ、ラン……」


「分かってるわよ、人に魔法を放つわけにはいかないものね」


 まぁ、レンくんとランちゃんならそちらを選ぶでしょうね。

 高めていた魔力を解除して身体を楽にするランちゃん、小さく息を吐いて剣を収めるレンくん。

 分かっていたことです。

 十中八九、このまま強引に押し通ろうと思えば出来ないことではないのです。

 しかし、それでは彼らが傷を負うことになる。

 周りに居る山賊さんたち、武器を構えて包囲してはいるんですけど、ね。

 どうも素人くささが見て取れる。

 端的に言うと弱い。

 まず間違いなくレンくんとランちゃんは圧倒できることでしょう。

 そもそもが、ゴブリンに押し入られて対応しきれてなかった人たちですからね。

 でも、その場合は……多くの人を傷つけることになる。

 人と魔物を相手にするのでは心構えが変わってきますからね……それはこちらを選ぶでしょう。

 そんな様子のレンくんとランちゃんを見てタルムさんが嬉しそうに手枷を寄越してきました。


「よしよし、ならこいつを付けなっ。戦う力は奪っておかなきゃいけないからよぉ」


「……はぁ、わかった」


「ふぅん、安っぽい手枷ね」


 あくまでもつまらなさそうに言ってあっさりと手枷をはめるランちゃん。

 溜息を吐いて、仕方なさそうに付けるレンくん。

 二人が手枷を付けたのを確認してタルムさんは満足げに頷きました。


「へへっ、中々利口じゃねえか。まっ、この数に囲まれちゃただじゃ済まねえからな。手荒な真似をせずにすんで嬉しいぜ」


「はいはい、それで?わたしたちをこれからどうするってわけ?」


「街に行って売るのさ。お前たちみたいな強い奴なら高値で買ってくれそうだからなぁ。しばらくは俺たちも安心して暮らせるだろうぜ」


「……? それって、どういう?」


「どうだっていいだろうがよっ! 連れて行けっ」


 へい、と軽く返事をして周りを囲っていた一人が進み出てレンくんとランちゃんを近くの穴へと案内していく。

 そこは山賊さんたちが出てきた時に開いた大量の穴の内の一つ。

 壁の中、それも浅いところに案内されて「そこに居ろ」と座らされる。

 きっとアジト自体が広くないのでしょうね。

 さっきの広間とはしっかり繋がっていて、こちらからもはっきりと見える。

 そして、後ろを見るとそこには薄暗い中に檻があるのが見えました。

 その中にはたくさんの子供たちの姿。


「……あれは?」


「ふははっ、教えてやろう。あそこに居るのはてめえの仲間だ」


「仲間?わたしたちにはそんなの居ないけど?」


「ば~かっ!これから売られて金になる、頭が集めてきた俺らの商品ってぇことだよっ!」


「ふぅん、そう」


 つまらなそうに呟くランちゃんの横で「仲間……」とぼそりと呟くレンくん。

 それを嘲るように笑って山賊さんが出て行きました。


「大人しく座ってるんだなっ!痛い目に遭いたくは、ないだろうがよっ!」


 入口に格子が掛けられる音。

 薄暗くなったその場所で、レンくんとランちゃんは背中合わせで地面に腰を下ろしていきました。

 出てく前に、手枷同士を後ろ手で繋がれてしまいましたからね……それしかないでしょうね。

 早々に目を閉じて少しでも回復しようと休憩を取り始めるランちゃん。

 対照的にレンくんは思い悩んだような顔でぽつぽつと呟いて、溜息を吐く。


「ねぇ、ラン?子供たちって、さ。もしかして」


「さぁね。今はいいじゃない、確かめようもないもの。それより、わたし休憩を取るから何かあったら起こして。交互に仮眠を取りましょ」


「……ん、まぁ、そうだね」


「ええ、あんたもあんまり余計なこと考えて消耗するんじゃないわよ」


 小声でのやり取り、それも終わって薄暗いその場所には完全に沈黙が訪れる。

 こういう状況ですからね。

 休めるときに休んで回復しておくのが今は一番でしょう。

 私の教えの通りですね。

 まずい状況ほどしっかりと休んで万全の状態にすることを心がけるように。

 しっかり出来ていますね、二人とも。

 そのことにちょっとした安心をしつつ、外を覗く。

 静かになったことで広間の声がとてもよく聞こえるようになってました。

 そこではすでに酒盛りが始まっていて、陽気な笑い声までが聞こえてくるほど。


「さぁ、てめえら!今日は飲んで食って騒ぎ倒すぞ!とんでもねぇ状況を乗り越えられたからなっ、まずは祝いが必要だっ!」


「「「「おおおおおっ、頭ったら太っ腹~!」」」」


「んで、明日になったらこのアジトは放棄するからな。ゴブリンどもがまたいつ攻めてくるか分からねぇし、こんな危険なとこからはおさらばだっ!明日から新天地へ行くからそこら辺のことはわきまえて明日に残らねえようにすんだぞっ!」 


「「「「「「へいへ~い!」」」」」」 


 ふむ、明日に残らないように、ですか。

 果たして本当にその気があるのか分からないような騒ぎっぷりですがね。

 こっそりと風の防壁を張って匂いがこちらにまで来ないように遮断をする。

 酒の匂いや、食べ物の匂い、それから男たちの汗や体臭などが混ざり合ってすごいことになっていますからね。

 レンくんとランちゃんに負担がかからないようにしなければ……

 そっと息を吐く。


 それにしても、山賊に捕まってしまいましたか。


 後ろで仮眠を取るランちゃんと見張りをするレンくんへと目をやる。

 本当なら、こんなことにならないように私が手を尽くしたいところなのですけど、ね。

 実際に昔はそのようにしていました。

 昔から私は卒業する子たちが完全に私が見守っていなくても大丈夫だと確信が持てるまで付いていっていたのですが……あまり細かく助けすぎてしまうと逆に危険な状況に陥ってしまうんですよね。

 成長の機会を奪ってしまい、危険なことに関する子供たちの感覚の発展を妨げてしまうのですよ。

 前に、助けすぎたせいで『もう手を出さないでっ!』なんて怒られたことがあるんですよねぇ……

 昔を思い出して、少し遠い目をしてしまいます。

 私としては、助けたくないわけではないのです。

 でも、これくらいなら二人は乗り越えられると信じていますから。

 

 本当に困ったことになるまでしばし静観していましょう。


 そんなことにならないのが一番ですけどね。

 今は安心して休みなさい




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